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秘儀の秘密

マツタケブロックパニッシュメントーーー何故か口をついて出た一言で松茸ご飯が消えた。

戸惑う仲居と主人公。そんな中ひとり冷静に事態を分析する老師たけのこが導き出した答えは……?

 パニッシュメント(punishment)―――どうやら俺は神の御名において詠唱魔法を使用し、目の前の松茸ご飯を消滅させたらしい。




 思わぬ出来事に仲居のウドさんはオロオロするばかり。


 老師はしばし思案にくれている様子だった。


 しかしこの事態に一番戸惑っているのは、まぎれもなく俺自身だった。




 思い返せば温室時代、パイナップルたちのための学校で勉強がからっきし出来なかった俺は、英語の試験でももちろん欠点ばかり取っていた。たまに30点と赤書きされた答案用紙が戻ってくると嬉しさのあまり息を切らしながら家に帰っていたっけ。答案用紙を見た両親は無言になっていたっけ。そんな日の夕飯には必ず赤飯が出ていたっけ。




 家族との暖かな団らんの光景を脳内に蘇らせていたところで、和室内を支配していた沈黙を老師の一言が破った。


 『お前さんの祖先がたは異国発祥だったのではないかな?』


 俺は気が付いた。英語が苦手なのは俺の能力の問題であり、それよりももっと根源の部分、遺伝子レベルでは外来語はもとより異国の魔法を使うための潜在能力を持っていたのだと。


 『あぁ……』


 老師たけのこの慧眼に思わず感嘆の声が漏れる。


 『そうでした。老師。俺の先祖は遥か遠い南アメリカより海を渡ってこの日本の地を踏んだと聞いております』


 『やはりな。若かりし頃に読んだ書物でパイナップルなる植物があるとは知っておったが、お前さんは彼らからの能力を今なお受け継いでおったのじゃな』


 合点がいった、とばかりに老師は目を瞬かせた。




 ウドさんは話についていけないと思ったのだろう。いつの間にか席を外していた。老師と俺、ふたりきりになった空間にゆっくりとした時間が流れていた。




 日は傾き、少し肌寒い空気があたりに漂い始めたころ、老師たけのこと連れ立って料亭を出た。


 二次会と称して向かった先はいつもの居酒屋こじゃんと兼ギルド。


 『予定しとったより少し早いがな……』


 着座してすぐに老師が切り出した。


 『今日の一件で鳳梨くんには魔法使いとしての素質があることがよくわかった。そこでじゃな。どうかね、お前さんさえよければ我がパーティーの一員として共に冒険をしてくれないか――…』


 『やります!俺に老師の仲間として色んな世界を見せてください!』


 老師が喋り終わるのを前に、俺は食い気味で言っていた。俺の返答を聞くやいなや、老師は懐からスマホを取り出して、誰かにメッセージを打ちはじめた。たけのこにしては入力が早い。


 老師のスマホがカウンターに置かれてからものの数分で通知音が連続して鳴動した。先刻のメッセージへの返信を確認した老師の表情がどことなく強張ったことを俺は見逃さなかった。


 おそらくこの後に待ち受ける冒険は生易しいものではない、だが俺を成長させてくれるものに違いない。心の片隅に一抹の不安と、悟りのようなものがちらついた。




 居酒屋こじゃんとに新たな来客が現れた。扉が開け閉めされるたびに備え付けの鐘が鳴るのだ。


 とっさに振り返った俺は頬を赤らめた。


 『か、か、かわいい……』


 入口に立っていたのは一本の人参。俺と同世代だろうか。健康的な肌色が店内の薄暗い照明でもよくわかる。しかし彼女のような素敵な人参と、お世辞にも小綺麗とはいえないこの居酒屋は似つかわしくない。誰かと待ち合わせだろうか?




 独りよがりな妄想を逞しくしていると、なんと彼女は老師と俺の元に歩み寄ってきた。


 『はじめまして♡キミが噂の魔法使いの鳳梨君?わたしは見ての通り、人参って言います。よろしくね~!あっ老師、今日はお誘いありがとうございます。おかげさまで先月は人気投票で一位をとれました。助けていただいて本当にありがとうございます』


 一気にしゃべり終えた彼女は、


 『わたし、人参サワーをお願いします!』


と店員へ元気よく注文する。老師は自らのハイボールに添えられたレモンを思い切りジョッキの中へ絞りつつ、その様子を見守っていた。


 一方の俺はといえば噂の魔法使い?人気投票?人参が人参サワー?などと頭の中にたくさんの疑問符を並べていた。


 カウンターに彼女の人参サワーが置かれたとき、彼女は俺の疑問符を見透かしたかのようにて話はじめた。


 『老師からね、今日の出来事をメッセージで教えてもらったときは驚いちゃったよ。鳳梨君が目的のものを消滅させる魔法の使い手だったってこと。絵本やゲームの中にしか魔法なんて存在しないものだって思っていたの。だから現実で魔法を使える鳳梨君と会って、お話しできるのが嬉しいな』


 可愛いと思った相手に褒められることほど嬉しいことはない。俺は生まれて初めて感じる不思議な気持ちで、彼女が人参サワーを飲む姿に見惚れていた。


 『あ、それと今、人参が人参サワー飲んだら共食い?共飲み?って思ったでしょ?ここの人参サワーはね、わたしとは違う品種のものだから安心して?』


 彼女は悪戯っぽい笑顔でまた人参サワーに口をつけた。




 『彼女はな、この居酒屋によく人参サワーを飲みにくるのじゃ』


 人参が一方的に話す間はずっと無言だった老師たけのこが口を開いた。


 彼曰く、いつものようにハイボールを此処、居酒屋こじゃんとで飲んでいた時に初めて彼女がふらりと入ってきたそうだ。こじゃんとに女性客がやって来ることは殆どなく、その場に居合わせた老師以外の酔客は色めき立ったそうだ。誰が彼女にちょっかいをかけるか、各々がアイコンタクトをとっていると、そこに毅然とした彼女の声が響いた。――人参サワーください――その瞬間に酔客の喧騒は止み、皆が彼女から目線を逸らしたそうだ。




 以来、居酒屋こじゃんとの常連となった彼女は毎回人参サワーを飲み、場の空気を和ませ、時には酔っ払い同士の喧嘩の仲裁までやってのける姿を見るうち、老師たけのこは彼女にヒーラーとしての素質を見出し、自らのパーティーに雇い入れることにしたのだと言う。




 流石に老師が見込んだだけあって、居酒屋の片隅で飲み、語り合っているだけでも人参の癒しの波動は隠しようがないほどに溢れ出していた。明るい笑顔と品良く枝豆を食べる姿、俺はそんな彼女を見て思った。




 これは恋というものなのかもしれない、と。

老師たけのこに続いて人参との出会いも果たしたパイナップル。

彼女に友情とも違った感情を抱くパイナップルの行く末や、如何に。

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