表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

【後日談】天藍の瞳の王と、永遠の誓い(前編)

挿絵(By みてみん)

本編完結済み、王子アズラル編後日談です。

「あの……仕事がありますし……」


アズラル様が貧民街の診療所まで迎えに来てくださって、嬉しくはあったけれど、実際の生活を考えると「はい、行きます」と即答できなかった。


アズラル様は、私を抱きしめたまま、ひと時も放してくださらない。

私は腕の中で方向を変えようともがくけれど、腕の力は緩まない。


「あの……アズラル様、少しだけ離していただけませんか……」


今は干したシーツの陰に隠れているけれど、診療所には患者さんがいるし、午後の仕事もたくさん残っている。


「夢にまで見て、やっと、やっと会えたのに、パルはどうしてそんなに俺から離れようとするの?」


アズラル様は、ギュウとなおさら腕に力を入れる。

しっとりとした暖かさに囚われて、体より心が苦しい。


以前より少しアズラル様の体が大きく筋肉質になった気がして、会えなかった時間を思い起こされる。


「国王陛下がこのようなところにいらしては、安全面も心配です。王宮にお帰りくださいませ」


「もちろん護衛はついているよ」


アズラル様が、道を見やる。

屈強な男性が数人、鋭い目でこちらを見ている。外套の下には恐らく武器を握っているのだろう。


全て凝視されているかと思うと、恥ずかしくていたたまれない。


「アズラル様~。お願いですから、離れてください。後ほど、王宮に参上しますので」


アズラル様は、渋々といった様子で体を放した。

それでも、私の服の袖を握っている。


「もしパルが逃げるなら、王命で指名手配をかけるから」


「指名手配……」


冗談だと思いたいけれど、アズラル様の眼を見ると、そう言えない気がする。


「逃げませんから。必ず、参ります」


「……約束だ……」


一瞬泣きそうな顔をした王様は、外套を翻し、離れて行った。


◇◇◇


診療所で仕事を片付けて、ラリマ先生にお話をした。

ラリマ先生は、医師だった父の知人だった。


父の罪も、私の罪も知っている。

もちろん誰にも言えないけれど、父に協力してくれた宝飾職人は先生のお兄さんだった。


「あの……王宮から遣いが参りまして……」


「見ていたよ」


先生が笑う。

私は、あれを見られたのかと思うと、ボッと赤面する。


「あの……」


何をどう説明しようか迷っていると、先生は、少し遠くを見て静かに言った。


「国も、人の体も、一緒だと私は思う。どこか一か所でも滞ったら病になる。どちらの健康に尽くすかは同じ価値があるし、自由だ」


「先生……」


ジンと胸が熱くなる。

貧しい人のため、いつも全力で尽くす先生を、私は心から尊敬している。


それでも助けられる命ばかりじゃない。

そんな毎日の葛藤を抱えながら、一緒に乗り越えてきたここ二年は、もう二十年のようにも感じられる。


私は……何を選んで生きていけるだろう?


◇◇◇


馬車が迎えに来ていて、王宮へと向かう。


一日仕事をして汚れた服が気になった。汗もかいたし、ほこりも被っている。

家で着替えたいと思ったけれど、ただでさえ長く待たせてしまった迎えの人に言い出せない。


馬車が王宮に着くと、アズラル様が飛び出してきた。


「アズラル様……」


言い終わる前に、アズラル様に抱きしめられる。

たくさんの使用人や警備兵にジロジロと見られていたたまれなく、体を離しようとするけれど、


「パル……」


アズラル様の体が震えている。

失礼ながら、小さな男の子が迷子になった末に、お母さんに会えたような必死さを感じた。


私は、手を伸ばして、アズラル様の背中を撫でる。


「ごめんなさい、アズラル様……」


心苦しいし、愛しい。


◇◇◇


アズラル様の部屋に通される。

あの、即位式の日に、儀式用のローブや宝帯が置かれていた部屋。


私が犯した最後の盗みの部屋。


「……元気そうでよかった」


ソファに座ったアズラル様の表情は硬かった。


「はい、とても元気です」


「アズラル様も、お元気そうで良かったです」


「全然、元気じゃないよ」


アズラル様は、ムっと口を結んだ。


「……あの日、即位式の間ですら、俺は君の姿を探していた。君が姿を消したと気付いた時の俺の気持ちが分かる? 惚れ薬に頼るような男だから、軽蔑されたのかもしれないと思った。それでも軍を総動員して追うことも考えた」


「……軍ですか?」


想像すると、怖くなる。


「さすがに私情すぎて、そこまではしてないよ。少し手伝ってはもらったけど。……正直、探すのも怖かったんだ。見つかっても君が拒否するかもしれないし。思い起こせば、君から男としての好意を得た感じはあまりなかった……」


「そ……そんなことは……」


あの頃は、宝帯の件で、恋心など必死で抑えてたから。


「……好いた男が……とか……結婚しているかもしれないとも心配した」


アズラル様が、揺れる瞳で私を窺う。


「ないですよ。仕事しかしていません」


色気がない話だけれど、それが真実。

恋心を忘れるために打ち込んだという自覚もある。


「そうか……」


アズラル様は、ホッとした様子で相好を崩した。


「あ、アズラル様は、ご縁談は……? クロマ公国のカイヤ様とお話があったはずでは……?」


国王様の花嫁候補の噂は、民衆の間でも何度もあったけれど、ご成婚の話はついぞ聞かなかった。

私は日々仕事に追われていて、情報に疎かったけれど、さすがに耳には入るだろう。


あれから二年以上、時間が止まっていたみたい。


「ああ、情勢の変化もあったのと、即位後忙しくて、それどころじゃないと逃げたせいもあるんだが……毎日毎日、皆から責められ続けているよ。お陰で、私は男色だと言われている。……まあ、それでも構わないけれど。パルだって知っているだろう、私の体質を」


着飾った女性で具合が悪くなるアズラル様。


「アズラル様……。まだ、症状が出るのですか? もっといろんな女性とお会いされてはどうでしょう。香水やお化粧を控えてもらえば大丈夫かもしれません」


私は、医療関係者の癖で、対処法を考えてしまう。


アズラル様が、すうっと目を細めて、私の横に座り直した。


「……パルは、そんっなに俺に他の女性を当てがいたい?」


いつも丁寧な口調のアズラル様が“俺”という時は、本音の時だったのを覚えている。

責めるような視線を向けられて、ハッとする。


「申し訳ありません。でも、私はいろんな意味で国王様に釣り合うような人間では……」


やっぱり、現実的に考えたら難しいと思ってしまう。


「私が国王として、人として望むのは、唯一君の愛だけだ。手を取ってくれたのだから、今更なかったことにしないでくれ」


まっすぐに向けられる紺碧の視線。

いろいろ立場上の問題はあるけれど、これ以上、逃げるのは失礼だとも思った。


「はい」


私は、はっきり頷いた。


アズラル様は、自分のシャツの胸のあたりをギュッと握った。

泣きそうな顔で、微笑む。


「パル……」


アズラル様の顔が近付いてくる。

唇が私の唇に重なった。


暖かく優しい口付け。


「……媚薬の時以来だな……」


唇を離したあと、アズラル様はうっとりとした口調で呟いた。


「いや、あれは……キスとは言えなかったな……。最低なことをしたと悔やみながらも、何度も思い出していた。もっと……もっと、君がここにいると確かめさせて……」


甘く掠れた声。

先ほどより深く唇が重なる。


全身がビリビリと震えた。

いろんな意味で、もう……逃げられないと感じた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。後日談前後編です。明日後編アップ予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ