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蒼い瞳の王子アズラルと仮初めの婚約⑫即位式と恋物語の結末(完)

挿絵(By みてみん)

⑫即位式と恋物語の結末


即位式のアズラル様を、一目見たいと思った。


深紅のローブに、黄金の王冠。そして宝帯。

さぞ、高貴で素晴らしいお姿だろう。

二十歳の輝かしい新王様。

咲き誇る生花の中、精霊や国民の祝福を一身に浴びて。


……でも、私にはやはり許されないと思う。


どういう理由であれ、私は幾度もの盗みを犯した。

信じてくれた多くの人を裏切った。

それぞれの人の顔が浮かぶ。それは父ではなく私の罪。


アズラル様が許すと言ってくださっても、私に光は似つかわしくない。

この気持ちのままで、開き直って変わらない生活をするなんてできない。

あの方の美しい未来を汚したくない。


――それでも、本当は。

側にいたいと願ってしまう自分を、何度も押し殺して。


そして私は決めた。

人をだますためではなく、癒すために生き直そうと。


舞う紙吹雪と鐘の音。

飛び立つ白い鳩。

新国王のお披露目を待つ人たちが、宮廷に多く押し寄せていた。

国歌のハーモニーが響く。


わあ!っと大きな歓声が上がった。

盛大な拍手の波が起こる。

キラリと何か反射した光が目に届いた。

私は、その歓声を背に王宮を後にした。



季節が廻り、私は貧民街に身を置いていた。

小さな診療所で医者の助手として働いている。


人のために役立てることが私の本当の贖罪だと心に決めて、父の知り合いの伝を頼った。

診療所は、いつも貧しい人に溢れていて、実入りは少ない。

それでも人を救いたいという医師の姿に父の姿を重ねて、私はやりがいをもって働いていた。

丈夫な自分の体にも感謝している。


大きな政治改革で国庫からの援助もあり、最近は少しずつ良くはなっているけれど、末端の改善にはまだ時間が掛かるだろう。

子どもたちの熱を測り、痛みに苦しむ人の手を握り、背中をさする。


「気持ちいいねえ」

高齢の患者さんが言った。


「王太子殿下……王様にも、して差し上げていたんですよ」

私は、笑って話す。夢物語。


「そうかい、じゃあ私は、王族だねえ」

「ええ、そうですね」

「王様は、どんな人だったかい?」

「……とても、とても素敵な方でした……」


窓から見上げると、外は良い天気。

新王様の御代になり、天候にも恵まれ、農作物は豊作だ。

大きな災害もなく、国交も安定しているそう。

それは、新王様が精霊の祝福を受けている印。

そして……元気でいらっしゃるという証。


この平穏が続くことを、心から願っている。

私は、香りの研究も重ねていて、患者さんが少しでもリラックスできるように、あのキャンドルを焚いたりしていた。

皆、良い香りだと喜んでくれた。

時々、あの方に癒しの香りをお届けしたいと思ったりするけれど、もう、そのような必要もないのかもしれない。



ある日、私は洗濯をしていた。雨上がりの透き通るような青空の洗濯日和。

昨日まで降り続いた雨で濡れていた地面から陽炎があがっている。

土と草の香りがする。ロープに広げたシーツが、風でめくれた。


その隙間から、深く外套を被った男性が見えた。

背後に、近所の子どもたちが遊んでいる声が響いている。


私を見た男性は言った。


「……やっと、見つけた……。きっと医療の場にいるのではないかと思って、片っ端から探したんだ。政務の合間、何年も国中回って、やっと香りで引き寄せられた」


外套を脱ぐと、淡い金髪と、優しい紺碧の瞳。

手には、見覚えのある小さな箱。

宝物庫に入れ、二度と触れることはないと思っていた、あの贈り物。


「……一目だけでも、会いたかった。会うだけでもいいと……そう願っていたけれど……」


彼は、ゆっくりと手を私に差し出した。わずかに震えているのが分かる。


私が呆然とその手を見ていると


「長いこと、手のマッサージもしてもらってないから、ガサガサなんだ」

彼は小さく笑った。


そして、少しの間の後、困ったような表情で私を見つめた。


「……強力な惚れ薬がないと、付いてきてはもらえないのかな?」


(こんな私を、こんなところまで……)


忘れていた息を大きく吸って、私は言った。


「必要ありません。惚れ薬を使う前から……私は、あなたを……」


自然に、涙がポロポロと溢れた。

子どもたちの声は、まだ聞こえている。

両手を広げる男性に、私は飛びついた。


「……私の王妃。一生側にいてくれ」


眩しい笑顔。

夢かと思った。

でも抱き返してくれる優しい腕の暖かさと鼓動を、私は確かに感じていた。


(完)

本編終了いたしました。ここまでお読みいただきありがとうございます!

少しおまけエピソード掲載予定です。

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