蒼い瞳の王子アズラルと仮初めの婚約⑪ 罪と告白
⑪ 罪と告白
アズラル様の部屋の扉に手を掛けた瞬間。
「パル!」
背後から声を掛けられた。ドキっとする。
ザーッと全身から血が引く。
グッと一旦目をつぶって振り向くと、アズラル様が立っていた。
「会いに来てくれたのか?」
微かな期待を含んだアズラル様の笑顔。
それ以上に深い疲労の色が全身から滲んでいる。
「……後でまとめて非難を受けるから、今だけ我慢してほしい。
……少しだけ、君に触れさせて」
泣き出すのかと思うような表情で、私に近付いてくる。
(だめ……お願いアズラル様……今はだめ……)
私の願いはむなしく、アズラル様は私に両手を伸ばす。
擦り寄るように。すがるように。
逃げようかと一瞬考えたけれど、足が動かない。
嫌だと拒否すれば、アズラル様は無理強いしないのも分かっている。
なのに私は声も出せなかった。
アズラル様の暖かい大きな手が、私の体を抱き寄せた。
……当然、私が服の下に隠し持っている宝帯が見つからないわけはない。
伸ばされた腕が宝帯にあたって、カチャンと音を立てた。
アズラル様が、目を見張った。私は目を閉じた。
「これは……?」
――――私は、全ての終わりを覚悟した。
◇
「……どうして、持ち出したんだ?」
アズラル様の部屋で、私は、宝帯を前に座っていた。
アズラル様の口調は、低く、落ち着いていた。
けれども責められる以上に、私の胸は剣に刺されているような感覚。
大きく息を吸って、大きく吐いた。
すべて、明かすしかない……。
「父が、領地を賜ってすぐ、領地で蝗が大発生し、作物が全滅しました。
父は、私財を残らず投げ打ちましたが、全く足りませんでした。
そして、その時、目にした即位式の宝帯から、いくつかの宝石を抜き取り、偽物とすり替えて売ったのです。
領民は生き延びましたが、宝石は流れ、散りました。
私は、ここ数年それを集めてきました。買い戻す資金もなく盗みも働きました。
そして、今日、宝帯に戻したのです。アズラル様に精霊の祝福を受ける王となっていただくため、本日中に必要だったのです」
アズラル様は、言葉を失っているようだった。
しばらく考えて口を開いた。
「飢饉の際、こちらに訴えなかったのか? 王宮には非常時の蓄えがあったはずだ」
「……」
私は答えられなかった。父は何度も陳情をしていた。
でも、それはアズラル様のお父様である現王様や、王室を非難することになる。
でも、何も言わないことで、アズラル様は悟ったようだった。
「そうか……」
私は、身を粉にして他人のために尽くす父を心から尊敬していた。
人の命を救うため、犯罪に手を染めた。
もし、私が同じ立場でも、同じことをしたかもしれない。
私が、宝石を返したかった一番の理由は、父の全てを“罪人”として終わらせたくなかったからだと思う。
私は、目を伏せた。
「このために、王宮に入りました。どんな罰でも受ける覚悟はできています」
アズラル様は、ふと、窓の外に目をやった。一瞬、唇を噛んだ。
「もし、この件がなければ、パルは、あれほど私に尽くしてはくれなかったのだろうか?」
「……分かりません」
自分でも分からない。医者助手としての動きだったのか、信頼を得るためだったのか、個人的な感情だったのか。
しばらくの間の後、
「……処罰はしない。……できない。こちらにも大いに落ち度がある。君の父君に盗みを強いたのは政治の責任でもある」
アズラル様は、はっきりと言った。
「え……?」
「それに……惚れ薬で、君の意思を無視して側におこうとした。そんな私に何を言う権利がある? この件は私の胸に収めておく」
アズラル様は落ち着いた瞳で、まっすぐに私を見つめていた。
それから視線を落とし、小さくため息をつくる。
「……一つだけ、願わくば、早く私に相談してほしかった。
私には何でも話すように言いながら……パルは、私をそれほど狭量な男だと思ってたんだな……」
アズラル様は、口惜しそうにつぶやいた。
「そんなことは……」
私が無我夢中でおこなってきたことが最善だったとは思えない。
今になって思えば、もっと良いやり方もあったのかもしれない。
でも、ただの小娘がその時一人でできる最大限だった。
「殿下? いらっしゃいますか?」
ドアをノックする音がした。バタバタと慌ただしい足音がする。
「また、落ち着いたら話そう」
アズラル様は、私に目配せをして、外へと出て行った。
私は、いろいろな思いが巡って、しばらく動けなかった。
最終回まで1話
毎日21時投稿します。よろしくお願いいたします。




