蒼い瞳の王子アズラルと仮初めの婚約⑦宝物庫潜入
⑦宝物庫潜入
それからはドレスを着ることもなく、お化粧もせず、私は医師の助手として動きやすい格好で過ごしていた。
気楽で素敵……。
医者助手の業務に、王様の治療で使われた器具やシーツなどの洗浄や処分がある。
血に濡れたシーツに、病状の悪化を感じる。
おそらく皮膚が破れているし、吐血もされている。
もしかしたら、私の父が宝帯を盗んだため、王自身が精霊の祝福を受けられなくなったせいなのかもと考えると恐ろしくなる。
このままだと、アズラル様にも同じことが起こりうるかもしれない……。
時間のなさを痛感する。
そろそろ手段を選んでいられない。
「アズラル様! ネックレスを宝物庫に収納していただきたく存じます!」
手元にあった、舞踏会時のネックレス。
アズラル様は、いきなりの申し出に驚いたようだった。自分でも無理があると思うから当然のこと。
「それは、パルへの贈り物なんだ。持っていたらいい」
(うっ……)
言葉に詰まる。
ありがたいけれど、ここでひるんでいられない。
「いえ……私が部屋に置いていて、紛失するのも恐ろしいのです」
私の部屋は、王宮の一階端の、使用人用の部屋の並びにある。
不満もないし、本当に盗まれるのを心配しているわけではない。
「部屋……。心配なら、私の部屋の隣に引っ越すか? 警備も厳重だ」
アズラル様に言われて、ギョッとする。
どこまで本気なのかな?
「いえ! 部屋はそのままで不自由ありません! とにかく、宝物庫にお願いします!」
私は言い張った。
「そうか……」
アズラル様は、少し残念そう。
「では、使用人に持っていかせよう」
「いえ、自分の手で収納させていただきたいのです。そうじゃないと安心できませんので!」
ここで引くわけにはいかないのだ。
アズラル様は、しばらく考えていたが、「分かった、じゃあ、一緒に行こう」と笑った。
宝物庫への通路。
さすが、王太子殿下。
何人警備がいようとも、海が開くように、皆が一瞬で道を空けてくれる。
当たり前だけれど、やはり天上の人なんだなと肌で知る。
逆に、改めて一人では無理だ……と思い知る。
宝物庫の大きな扉が、兵士二人の手で開けられる。厚く重い。
しかも、二重になっている。
たとえ警備がいなくても、私一人で開けることはできなさそうだ。
一歩足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を刺す。
そして、広い。奥が見えないほど広大な空間。
高い天井まで届くような巨大な棚があり、金貨の袋がいくつも並んでいる。
貴重そうな書物、宝剣に鎧。
文字通り、価値があるものすべてを国中から集めたようだった。
父は、どうやって、ここから宝帯を盗み出したのか?
亡くなる間際に懺悔は聞いたけれど、手段までは聞けなかった。
……いや、たぶん違う。
いくら宮廷医でも、ここに入ることは難しかったはず。
それに、ここから盗むのであれば、取り外したり換金に手間のかかる宝石よりも、金貨一袋でも盗んだ方が早い。
父が盗んだ時期は、現王様の即位式前後。
おそらく、儀式の前後。ここに返されるまでの間。
それにしても、この膨大な財宝のどこに、宝帯が収納されているのか。
そんなに頻繁に使うものではないし、奥に見える扉が、特に怪しいと思った。
でも、さらに鍵も掛かっていそうだった。
……アズラル様の目を盗んで近づくのさえ不可能だ。
どうしよう? 極刑覚悟でアズラル様にお願いする? でも知られたくはないと思ってしまう。
「パル?」
茫然とする私の顔を、アズラル様が覗き込む。
慌てて取り繕う。
「あまりに素晴らしい財宝に、気を取られておりました」
「この辺に置いておいたら、どうだ?」
「……え?」
当初の口実をすっかり忘れていた。
「ネックレス」
「あ、ああ。そうですね」
私は、アズラル様が指していた棚に、ネックレスの箱を置いた。
「また、身に着けておくれ。よく似合っていたから」
アズラル様の甘い言葉に、かあっと頬が赤くなったのが自分で分かった。
でも……。きっと私が、二度とこれに触れることはない。とても残念だけれど。
私は、ネックレスの箱の表面をそっと撫でて、宝物庫を後にした。
何か、他の方法を見つけなければ……。
最終回まで5話
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