表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/35

蒼い瞳の王子アズラルと仮初めの婚約⑥夢の舞踏会

挿絵(By みてみん)

⑥夢の舞踏会


舞踏会という華やかな舞台での緊迫感と、アズラル様との心の距離が縮まる様子がとても素敵ですね。

「不要な字下げをせず、数字を漢数字に」というご指示通り、カクヨムの連載に最適な形式で整えました。

修正原稿


舞踏会当日。


会は夕方からだというのに、私は早朝から寄ってたかって仕立て上げられていた。


髪を洗われ、オイルを塗られ、何度も梳いてアップにされる。

髪飾りを差し込み、バランスを確認され、やり直しになったりもする。


衣装は、苦しいのがコルセット。

三人がかりで締め上げられて、息ができない。

世のお嬢様たちは、死ぬほど大変だと悟った。


肌は保湿を何層も重ね、温めたり冷やしたりしながら、お化粧にかかる。


お化粧……。いいのだろうか?

お付きの人たちに、なるべく薄化粧でお願いした。


アズラル様が公務の間に、様子を見に来られた。


「いいな。とても似合っている」


褒められて、ボッと赤くなる。


「でも、あの……お化粧も……殿下、大丈夫ですか……」


大丈夫じゃないと言ってくだされば、撤退できるのでは?

淡い期待が過る。


「パルは、他の女と違うと知ってるから」


会心の笑顔が私を追い詰める。

殿下の気が置けない女であるというのは、ありがたいのか、残念なのか。


廊下でムーナ様とばっぱり会った。


「おやおや。これはこれは」


私は、ムーナ様に頭を下げた。


「もっ、申し訳ありません。ムーナ様、今日、全然お仕事できず!」


「その姿、お父上に見せて差し上げたかったな」


「ムーナ様……」


涙が出そうになる。

ムーナ様は笑いながら言った。


「殿下のご健康を支える大事な仕事だ。行っておいで」


ムーナ様は暖かく手を振って見送ってくださった。

私は、恵まれている。


アズラル様が手を取って舞踏会の会場にエスコートしてくださる。


今日は、金糸刺繍のシックな燕尾風黒いジャケットに、私のドレスと同じ薄紫色のタイ。

アズラル様の淡い金髪と品の良さを引き立てていた。


前回の舞踏会は、端から物見遊山だったので、気楽なものだった。

今日、真ん中に立つ感覚は、天と地ほどに異なる。


高い天井から吊り下げられたシャンデリア。

磨き抜かれた大理石の床面。壁際の宮廷楽団。

豪華な衣装に身を包む人々がひしめき合う。


特に、女性たちからの冷たい視線が全て襲い掛かってくるよう。

原因がなくても、アズラル様が過呼吸になる気持ちが痛烈に分かる。


「どうしてあんな女が殿下の隣に……」というようなひそひそ声も聞こえる。


初日に「粗末な娘」と嘲笑っていた女性達も見える。

美しいドレスの中から出たと思えない、もっと酷い中傷も聞こえた。


中には、アズラル様に直接伺う人もいた。


「あの、そちらの女性は?」


眉をひそめて怪訝そう。

元男爵令嬢とはいえ、社交界で私を知っている人はほぼいないだろうから当然だ。

今、男爵令嬢であっても、一代貴族は末端の末端だ。


皆に知られていないことが、今回はかえって都合が良いのかもしれない。

私は、アズラル様に取られた手をひっこめたいと思うのだが、絶対に離してくれない。


アズラル様は、私の手を掲げたまま、優雅に笑う。


「私の、心に決めた人です」


……めまいがする。

(どうしてこうなったの……)


アズラル様は、大勢の中を縫って、私をフロアの中心に導く。

ワルツが流れている。


ここのところ厳しく特訓されたから、少しだけ踊れるようにはなった気がする。

足を踏んでしまったらどうしようと恐れていたが、アズラル様のリードが何より自然に上手で、初めてダンスが楽しいと感じた。


ダンスの合間に、アズラル様の紺碧の瞳が私を見つめていることに気付いて、急に恥ずかしくなる。


きらびやかで夢のような世界。

いつの間にか、周囲のざわめきも気にならなくなっていた。


――きっと一生忘れない夢。


アズラル様が、高齢の男性たちと話をしていた。

確か、超高官の皆さまだ。恰幅のいい体。堂々とした風貌。

赤ら顔で、立派なひげを撫でながら、お話されている。


「殿下、今宵の舞踏会はまさに夢のようですな」


「宰相、貴殿の采配あってこそです。日々のご尽力、父王も私も深く感謝しております」


アズラル様が一人一人に丁寧に対応されているのが分かる。

私は、お邪魔をしないように少し離れたところから眺めていた。


「あの……お嬢様?」


背後から声を掛けられたが、最初自分のことだと思わなかった。

振り返ると、すらりとした若い男性。

上質な布地と仕立ての上着。ニコニコして穏やかそう。


どちらかの貴族様なのだろう。


「あなたは、今宵の星。もしよろしければ、この一曲を私にお預けいただけますか?」


手を差し出されて、びっくりした。


「え? えっと……」

(この場合、お断りするのは失礼なのかな?)


私が正解を求めてオロオロしていると、グイっと腕が伸びて引き寄せられる。


「残念だが、彼女は、私だけの星なんだ」


アズラル様だった。いつもより、少し低い声。

相手の男性は「でっ……殿下!」と真っ青。


「申し訳ございません!!」


男性は、慌てて走って逃げて行った。

アズラル様は、少しご不満そう。


「彼は、侯爵家の三男だったかな。星を隠すには、天蓋を覆うマントが必要だ」


私に片腕を掛けたまま呟いた。

(……こういう時、どういう態度でいればいいのか、分からない……)


宵も深くなり、月が天上に昇っている。

ホールを出て、アズラル様がホッとした様子でおっしゃった。


「パルのお陰で、いつもよりかなり長く耐えられた」


アズラル様は、女性から声が掛かるたび、私を口実に回避していた。

嫉妬の視線も強くて、なかなか複雑な心境だったけれど、お役に立てたなら、良しとしよう。


無理をされるアズラル様は、見ていられなかったから。


でも……。


「あの、アズラル様、今回限りに……」


私は申し入れた。

さすがにこれが続くのは辛すぎる。それに、やはり花嫁探しにも邪魔だろう。


アズラル様は、しばし無言で私を見つめたあと、いつもの輝く笑顔で言った。


「私は、“仮”ではなくて、一生、このままでもいいよ」


グッと胸に刺さる。


「だめですよ!! 絶対、だめです!!」


最終回まで6話

毎日21時投稿します。よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ