蒼い瞳の王子アズラルと仮初めの婚約⑤宝物庫と偽物婚約者
⑤宝物庫と偽物婚約者
……それにしても、何度か試してみたけれど、王宮の宝物庫にはやはり近付けそうもない。
二十四時間、武器を持った兵士が幾重にも警備している。
差し入れなどして親しくなることも考えたのだが、さすが王室親衛隊。
何も受け取ってはくれないし、挨拶しても返答すらしてくれない。
仕事なのだから、仕方ないけれど。
どうしたら良いんだろう。
ある日、アズラル殿下がご機嫌でやってきた。
今日の調子はとても良さそう。
「いい案があるんだ!」
「はい」
「今度、また舞踏会があるんだ」
「はい……」
無理をなさるアズラル殿下がお気の毒だ。
「私は、出なければいけない。私しかいないんだ」
「はい」
私は頷いた。
王様も王妃様も無理となれば、確かにそうだ。
こういう時、ご兄弟でもいらっしゃれば良かったのかもしれないのだけれど。
それはそれで争いが起こることも多いのかな。
アズラル殿下は紺碧の目を輝かせて言った。
「パルと婚約したことにしよう」
「……はい?」
(今、何と……?)
「私は、パルといても具合が悪くならない。手を握っても大丈夫だ」
「はあ……」
「私が、パルと婚約したから、パルとダンスする。他の女性とは踊れない。それでどうだろう?」
輝く笑顔。
「いえいえいえいえいえ、私は一般人ですから、無理でございます!」
私は容姿も立場も、とてもアズラル殿下の横に並べるものではない。
「元、男爵令嬢だろう」
「今、男爵令嬢でも身分が違いすぎます」
「その辺は大丈夫だ。私の親族と紙面上養子縁組すればよい。よくあることだ」
「いやいやいやいやいや、とんでもないことでございます!」
「何だ? そんなに私が嫌なのか?」
アズラル殿下の圧力から必死で目を逸らす。
「そもそも、殿下の花嫁探しの位置付けもある舞踏会なのでは? 婚約などと言ったら本来の目的が……」
アズラル殿下は不満げに口を尖らせる。
「パルは、私が具合悪くなることを望んでいるのか?」
「いえ……確かに、もし殿下のお力になれるなら何でも、とは思っておりますが、それは治療の件で……」
「免疫がつけば、私もそのうち慣れるかもしれないだろう。あくまで、婚約は仮だから」
あまりのお話に混乱する頭で、必死に失礼のないお断りの言葉を考える。
「あっ、あの!……私、ダンスは苦手なので!!」
大きな声を出すと、アズラル殿下の動きが一瞬止まった。
(諦めてくださったかな……?)
顔を覆った指のすき間から見上げると、アズラル殿下の艶やかな笑顔。
「練習してくれ」
ということで、毎日、ダンスの特訓をされている。
絶対に、そんな場合ではないのに。
先生はとても厳しくて、竹の棒でバシバシ叩かれる。
私は涙をこらえながら練習していた。
◇
初めて舞踏会を訪れた時とは比べものにもならない豪華なドレスが用意される。
水色から淡い紫で、何層にも重ねられたレース。
キラキラした糸で繊細な刺繍がされている。
髪飾りやアクセサリーも豪華だ。
「アクセサリー……」
透き通った空色の宝石を中心に、シルバーの花の意匠が美しいネックレス。
上品で洗練されたつくりで、うっとりするほど素敵だった。
呟いたらアズラル殿下が反応された。
「気に入らなかったか?」
「あ、いえ、殿下……宝物庫から出していただいたのでしょうか?」
知っていたら、私も入りたかった……。
「いや、パルのために急ぎ作らせたものだ。ドレスもな」
アズラル殿下がさらりとおっしゃる。
ありがたいけれど、優しくしていただくと胸の痛みがひどくなる。
父が王室の宝石を盗んだこと。
私はそれを持っていて、宝帯を盗み出して返す計画をしていること。
(……全部捨てて逃げ出したい)
それが今の正直な私の気持ちだ。
「あ……それから、“殿下”はやめてくれ。私たちは婚約しているんだ」
「殿下……」
「だから、禁止。愛しい相手と思って“アズラル”と呼んでくれ」
キラキラした瞳で私を見る。
有無を言わさぬ迫力。やっぱり王太子殿下らしい……。
「あ……アズラル……でん……さま……」
「呼び捨ては?」
「そんな、不敬なことを……でん……アズラル様」
「……今は、まあ、いいか……」
アズラル様は、少し意地悪そうな顔で微笑んだ。
最終回まで7話
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