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蒼い瞳の王子アズラルと仮初めの婚約④お返しのマッサージ

挿絵(By みてみん)


④お返しのマッサージ


現国王様は、もう執務をできない。


あまり時間がない。


王宮の宝物庫の場所は分かっている。

国の財産が入っているのだ、その規模も警備も蟻の通る隙間もない。

内部で働いていても、その区画にすら立ち入れない。


絶望的に難しい仕事だと思われた。


アズラル殿下へのハンドマッサージは、お望みの時に続けるようになった。

二人の時間。


当然手が届く範囲にいるのだから、少し照れくさくもある。


ただ、頻繁にアズラル殿下の手に触れていると、やはり緊張で硬くなっていたり、酷くお疲れになっていると分かるようになった。


そんな日は、特にお湯に浸した温かい布でくるむなどして手を温める。

アズラル殿下は、それが心地よいようで、されるがままに任せてくださる。


せめて少しの間だけでも、心のやすらぎがありますように。


「今日は、私がしてやろう」


アズラル殿下が急に言われた。

ハンドマッサージ中のこと。


「いつものお返しだ、きっと私にもできると思う」


ふふん、と得意げに笑う。


「えっ。滅相もございません! 恐れ多くて無理でございます!」


私は大いに辞退したが、アズラル殿下に手を掴まれて、放してもらえない。

紺碧の瞳で私を見据えて、グイグイと迫って来る。


……こういう時、王子様だなと思う。

そう簡単に引いてはくれない。


しばらくの攻防のあと、結局私はなすがまま、手を差し出していた。

アズラル殿下がオイルを手に取り、私の手に塗っていく。

いつも私がしているように、手のひらからマッサージを始めた。


そういえば、人にしてあげるばかりで、されたことはなかった。

殿下の指が、私の指をなぞる。


恥ずかしくていたたまれない。

でも、アズラル殿下の手は、暖かくて力強くて気持ちいい。


それにしても王子様にマッサージしてもらうなんて……。

舞踏会の女性たちが聞いたら、卒倒しそう。


「あ……」


さすがに強すぎて、私は声を上げてしまう。


「強かったか?」


アズラル殿下が優しく覗き込む。


「いえ……」


真っ赤になっているであろう私をよそに、アズラル殿下はご機嫌な様子だった。

ふと、アズラル殿下が言った。


「そういえば、パルの父君は……私の祖父の時より仕えてくれていたのだな」


「えっ、はい、そうでございます。元は農村で医師をしておりましたが、前王様にお呼びいただき、爵位もいただきました」


「それを公収か……父が指示したのだろうな。申し訳ない、祖父は人を見る目があった。私も尊敬しているのだが、父は……」


アズラル殿下は言い淀んだ。


一代爵位はそういうものだけれど、確かに私の父は、前王様には実力を認めていただいていたようだが、現王様には気に入られなかったようだ。


元々身分が低かったことも大きいし、ご健康について耳が痛い進言なども行ったらしい。

お陰でここ十年は出仕を控えて、自宅付近で診療することが多かった。

お陰で私は父の仕事を手伝うことができて良かったのだけれど。


アズラル殿下は、唇を噛み締める。


「……父は、昔から女性を集めて、国民を……母を苦しめた。私は、父のようにだけはなりたくない」


アズラル殿下のお母さま……王妃様は、外国から嫁いで来られたが、あまり王様に大切にはされていないのだと噂されていた。

確か、何年も前から王宮ではなく別邸でお暮らしのはずだ。


アズラル殿下が女性たちを嫌う理由が分かる気がした。

身分や経済状況に関わらず、平穏な生活を続けるのは難しいことなのだと思う。


私は言った。


「殿下は、お優しい方です。私のような身分の低いものにも、このように接してくださる。殿下が愛に満ちた生活を送られることは、国民の……私の願いでもあります」


アズラル様は、ハッとしたように目を見開いた。


「……肯定されると思ってはいなかった」


「どなたかに、否定されたのですか?」


「……いや、王族のくせに子どもの泣き言みたいだろう?」


視線が揺れて、ほんの一瞬だけ弱さが覗いた。


「そんなことないですよ。自然な願いだと思います」


「そうか……」


アズラル様は、少し照れたように微笑んだ。

愚痴をこぼす友達を作るわけにもいかない、殿下のお立場の苦しさに胸が痛む。


「あの……私……殿下が安らいでいただけるよう、もっと努力いたします。愚痴でも何でもお話ください。……私でよければ、いくらでも聞きます。もちろん、絶対外に漏らしたりいたしません」


アズラル様は、じっと私の顔を見て、そのまま私の手を包み込む。


「パル、私のマッサージはどうだった?」


「あっ……あの、とてもお上手だと思います……」


私は、また急に恥ずかしくなった。

自分でも顔が赤くなっているのが分かる。


「そうか」


アズラル様の笑顔は、純粋な子供のようだった。

最終回まで9話

毎日21時投稿します。よろしくお願いいたします。



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