表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/37

紺碧の接吻 ― 蒼い瞳の王子アズラルと仮初めの婚約

挿絵(By みてみん)

①花嫁探し会場潜入


ここは、王子様の花嫁探しの舞踏会。


我が国タンライト王国の王太子様はアズラル・ストーム殿下。

御年十九歳。


私は、パル・マーレ。十七歳。

年齢だけなら適齢期なのかもしれない。


でも、花嫁を目指してきたわけじゃない。


――泥棒をしに来たのだ。


一昨年に他界した父は、かつて男爵だった。

王室には、使用人として潜入を目指していた。


でも手に入ったのは、花嫁探し舞踏会への招待状。

それでもここに参加できるのは、一時期に男爵令嬢だった恩恵だ。


もし今回盗みが果たせなくても、改めて使用人採用への縁故ができたらいいなと、そんな目的で来た。


今も昔もお世辞にも家が豊かではないので、今回のドレスの調達も大変だった。

家中をひっくり返し、古いドレスをどうにか補修して、ようやく身に通した。


ドレスというより、ワンピース。

髪も自分で適当に済ませた。

お化粧道具もろくにないので諦めた。


花嫁候補なんて恐れ多い。


王宮に馬車で乗り付けるお嬢様方は、それはそれは眩しくかぐわしかった。

 色とりどりのドレス。大きなリボンが流行なのかな。


私の姿を見て、「まさか、あの粗末な娘も花嫁候補なの?」「えー、使用人でしょ」と侮蔑的に嘲笑する人もいる。


少し恥ずかしかったけれど、使用人だと思われるなら、その方が動きやすくて都合が良い。

私は、とにかく目立たないように努めた。


まずは一階。入口から偵察。王宮の部屋のつくりを暗記していく。

そして、警備の位置。今日は特別多いのかもしれない。


迷ったふりでそっと二階への階段を上がろうとしたけれど、やはり警備に止められた。

まあ、泥棒目的なんだから当然かもしれない。


舞踏会の会場から、キャー!っと黄色い声が上がるのが聞こえた。

何事か分からずぼんやり立っていると、「アズラル様!」と叫びながら走り出したドレスの女性に突き飛ばされた。


壁に激突しそうになるところを、何とか持ちこたえた。

そっと騒ぎの方を覗いてみる。


人の輪の中央にいるのが、おそらくアズラル殿下。

人垣のすき間からしか見えないけれど、金髪碧眼。

金糸銀糸の刺繍の入った白いジャケット。


絵に描いたような王子様だと感じた。


(困ったなあ。できることがない)


働いている人たちに仕事がないかと聞いてみたけど、皆忙しそうで相手にもしてもらえない。

手を振って追い払われる。


昔、渋々ダンスの練習はしたけれど、ほぼ忘れたし、そもそも好きじゃない。

静かに本を読んでいたい。


手持ち無沙汰でウロウロしていると、「パル嬢ちゃんか?」と声を掛けられた。


「あ……ムーナ様……」


「久しぶりだのう」


ムーナ様は、父が宮廷医をしていたころの同僚だ。

六十代に乗った頃だろうか。有能な人格者。


かつては、よく自宅までおいでになったことがある。

父の葬儀にも顔を出してくださった。


「お父上が亡くなって、今はどうしておられる?」


ムーナ様は優しい瞳で覗き込まれた。


「母の実家に引っ込みました」


「そうか。お父上は素晴らしい方だったなあ。私も大いに勉強させてもらったのだが……」


ムーナ様は、頭をぺちぺちと撫でた。


ムーナ様は王立医学校出身で、宮廷医総監。間違いなく生粋のエリートだ。

本来はそうじゃないと王室には入れない。


そんな方に農村医だった父が褒めてもらえるなんて、グッと胸に詰まる。

私にとっても、父は誇りだった。


人のために尽くし続け、爵位も受けた。


……でも、王室から宝石を盗んだ。

いっそ宮廷医なんかにならなければ、大それた罪を犯すこともなかったのかもしれない。


その罪が、全ての功績を無にするものなのかどうかは分からない。


「花嫁になりに来たのかね?」


ムーナ様が、私の服に目を向ける。しっかり見られると恥ずかしい。


「いえ……私は……」


「アズラル様も、そろそろ時間だ」


ムーナ様は時計を見る。


「……時間?」


私は首を傾げる。


ムーナ様が守衛になにやら声を掛ける。

守衛数人が舞踏会の中に入り、殿下を囲んで外へと連れ出した。


女性たちからは落胆の声が上がる。


アズラル殿下は前を通る時、ムーナ様に目配せをした。

心なしか、顔色が悪い。


ムーナ様に尋ねる。


「……どうかされたんですか?」


ムーナ様は悲しげに首を振る。


「パル嬢ちゃんは、お父上の仕事を手伝っていたね」


「はい、地元でですが。王宮に入ったことはありません」


「ついてくるかね?」


私は頷いて後を追った。

先ほどは通れなかった階段も、ムーナ様と一緒ならば簡単だ。

何だか不思議な感じがする。


二階奥の部屋に着くなり、アズラル殿下はソファに倒れこむ。


顔色が真っ青だ。

脂汗がにじんで、咳も止まらない。


ムーナ様が脈を取ったり、熱を測ったりしている。

私は、苦しそうな姿を見るに見かねて王子様の背中をさすった。


失礼かもしれないが、緊急事態なら許されるだろう。

それでも咳は激しくなるばかりで、次第に引きつけを起こしたような過呼吸に陥っていく。


私は言った。


「吸おうとしないで。苦しいけれど大丈夫です、ちゃんと空気は入りますから。口をすぼめて。そこから細く、ゆっくりと、中の空気を全部吐き出すことだけ考えてください。……そう、上手ですよ。そのまま……」


だんだん呼吸が整っていく。

良かった……。


あとは、温かい飲み物と、濡らした布で首や頭を冷やそう。


ムーナ様が感心したようにうなった。


「パル嬢ちゃん、さすがだな」


「いえ……似たような症状の方をお世話したときに学びました」


……それにしても、羨望の頂点にいる王子様が、急にこんな苦痛に満ちた状態になるとは……。


あれ……?


「ムーナ様は、想定されていたのですか?」


ムーナ様は、困ったように頭を撫でる。


「ああ……私は、アズラル様を子どもの頃から見てきたからね」


(……どういうことだろう?)


王子アズラル編です。最終回まで12話

毎日21時投稿します。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ