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軍人マディラと泥棒娘の見合い特訓2

挿絵(By みてみん)


②対女性戦


「女性が、苦手なんですね?」


私は、まるで尋問官のようにマディラ様に詰め寄った。


マディラ様の目が泳いでいる。

家柄も、職業も評判も容姿も一流の人が、お見合いに失敗する理由。


「そんなにお嫌いなんですか?」


マディラ様は、ハッとする。


「いや……」


初めて、回答してくれた。


「何か嫌な思い出があるとか?」


マディラ様は、首を振る。


「昔からですか?」


頷く。様子を見ていて、分かった。


「どう接したら良いか分からないとか……?」


マディラ様が私の顔を見た。

黙って頷く。


なるほど……。

そう言えば、この家には女性がいない。

マディラ様の母上は早く亡くなったそうだ。

代々親衛隊を輩出する武門の家。子どもの頃から訓練漬けなのだろう。


お父様がここ数年体調を崩されていて、当主代理を務めつつ、妻帯も急ぐ。

それは大変だ。


立派な体躯の男性が、身を小さくしている。


「慣れましょう」


私は、張り切って言い切った。

マディラ様のお見合いが成功してくれないと困る理由が私にはあるのだ。

父の犯した罪を償うために、私はこの家に来た。


「まず、会話ですね」


私は、提案した。


「少しだけでも構いません。何か反応して頂きたいです」


マディラ様は、目を泳がせながら、


「……ああ」


と頷いた。

素直な人だな。


「女性は話好きな人が多いから、聞いてあげるだけでも結構間がもちますよ。私は練習相手で、遠慮されなくていいので、いろいろ試してみてください」


マディラ様は、頷いている。


それから

(お見合いであれば……)

と考え、お茶の用意をしてみた。


二人で、テーブルを挟む。

紅茶と、小さなケーキ。


「では、いただきましょう」


私が言った瞬間に、マディラ様はケーキを一口で口に入れ、紅茶を飲み干した。


あまりに早すぎて呆然としてしまう。


「マディラ様、もう少しゆっくり味わってくださいませ。今は平時ですから」


私は、もう一度紅茶を注いで、残っていたケーキを皿に乗せ、マディラ様の前に置く。


「このケーキには、スポンジの間にベリーソースが使われています。甘みと酸味がちょうどよく感じられるかと」


マディラ様は、ケーキを凝視した。


「なるほど」


たぶん、今までケーキに注目などしたことはないのだろう。


今度は、フォークで切って、一口、口に含んだ。


「お味は、いかがですか?」


私が尋ねると、マディラ様はしばらく考えた。


「酸味は、分かる」


おお、口数が増えた。

私は何だか嬉しくなる。


年上で体も大きくて、立派な立場の方なのに、時折見せる無垢なが心をくすぐる。

少し慣れさえすれば、女性たちはきっと、彼を深く愛するようになるだろう。



「じゃあ、今日は街に行きましょう。慣れていただければ」


ある晴天の日、マディラ様に申し出た。

マディラ様は、固まりながら黙って頷く。


道中ずっとしかめっ面だった。それが緊張しているからというのは分かったけれど。


「マディラ様、何かお話しください」


「……何を?」


「何でも良いですよ。お仕事のことでも天気のことでも」


「天気?」


「無難な話の種ですよね」


マディラ様は空を見上げて少し考えていたが、ふいに言った。


「絶好の行軍日和だ。士気の高揚が期待できる。

地表の含水率が理想的で、大部隊の機動を妨げる懸念がない。

これなら強行軍を掛けても隊列を崩さないだろう。

気流も安定しているので、弓も投擲物の進路も定めやすい」


マディラ様が急に饒舌で、私は思わず呆気にとられてしまった。


マディラ様は、ハッとした様子で自分の口を覆った。


「つい……」


「マディラ様がいつも武人として全力なのは理解いたしました。

素敵です。おそらくマディラ様は考えすぎです。

リラックスされてください。

『いい天気ですね』『雨が続きますね』くらいの気楽な感じで良いと思います」


空を見上げて考え込む姿に、思わず笑みがこぼれた。


「マディラ様は、どうしてそんなに女性に苦手意識をお持ちなのですか?」


マディラ様は、顎に手を当ててしばらく考えていた。


「子供の頃、親戚の女子を泣かせた。それからか……」


女性を避けていた理由を教えてくれた。


「どうしてその子は泣いたのですか?」


マディラ様は首を振る。


「分からない……慰めようと思ったが、なおさら泣いてしまって……。俺は子どもの頃から大きくて、愛想もないから、怖いんだろう。それからも度々、似たようなことがあって……」


困ったように、私を見る。


「……女性は、難しい。戦術の定石が一切通用しない。間合いの詰め方も、感情の機微による波状攻撃も、予測の範疇を超えて、迎撃できない」


「迎撃……」


それは動けなくなるはずだ。

女性を見るたびに斥候して、微妙な仕草や言葉から必死に索敵しているのだろう。

真摯に向き合おうとしているのは、よく分かる。


もしかしたら、私が企てている盗みも、マディラ様の目には察知されてしまうのだろうか。

少し怖くもなる。


「難しく考えないでください。マディラ様の強さと優しさ、ちゃんと伝わります」


マディラ様は、しばらく私を見つめたあと、少し赤くなって、ふっと目を逸らした。

お読みいただきありがとうございます。

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