褐色の抱擁 ― 不器用な軍人マディラと泥棒娘の見合い特訓
①六連敗の軍人様
「マディラ様、私はパルと申します。元宮廷医の娘で、あなた様の相談に乗るように旦那様に依頼をされております」
「……」
「何か気になることがありますか?」
「……」
「あの……マディラ様?」
「……」
お見合いが六連敗だそう。
そんな男性のお世話をすることになった。
私はパル。17歳になった。
お相手は、21歳、マディラ・シトリ様。王国親衛隊中尉で若きホープ。
何度か声を掛けるけれど、眉をしかめたまま無言。
聞こえていないわけじゃないと思うんだけど。
無視されているのかと思ったけれど、それも少し違う気がした。
マディラ様のご結婚がうまくいかないと、私がこの家に潜入した本来の目的も果たせない。
でもその日は、何もできずに終わってしまった。
シトリ家は代々軍務を務める武門で、数代前の戦功で男爵位を賜ったそう。
お会いしたマディラ様は、赤褐色の髪と青い瞳の青年だった。
軍人なだけあって、鍛えた体つき。見上げるほどに背が高い。
お見合いで惨敗するのはなぜだろう?
話すと威圧的なのだろうか。
確かに、もしこんな人が暴れたら、誰にも止められない。
◇
次の日、男爵家のお庭では、マディラ様が剣の訓練をされていた。
「よし、来い!」
弟君と剣を合わせている。
弟君はまだ十代前半で、足腰も危うい。
マディラ様は、姿勢や持ち方を丁寧に教え、
「よし、うまいぞ!」と明るく笑った。
(……昨日のあれは、何かの間違いだったのだろうか……?)
訓練が落ち着いたころ、私は飲み物を二つ持って近付いた。
「どうぞ。マディラ様」
差し出すと、マディラ様はぎくりとして固まった。
飲み物を受け取ったものの、口にはせず、遠くを見ている。
(……どういうこと?)
弟君テオ様は「ありがとう」と言って飲み干した。
「兄さま、明日も練習できる?」
「ああ、いいぞ。勤務の前、朝一であれば」
テオ様が走って行き、私たちは二人になった。
「マディラ様?」
黙っている。
けれど、拒絶というより“どう接していいか分からない”という雰囲気。
「……無視されると、とても、傷付きます」
思わず言うと、マディラ様は、はっとしてこちらを見た。
初めて目が合った。
すぐに目を逸らしてしまったけれど。
そこに使用人が近付いてくる。
「マディラ様、王宮よりお手紙が届いておりますので、書斎の机の上に置かせていただいております」
「ああ、分かった」
はっきりと返事をする声。
(なるほど……女性が苦手なだけなんだ)
お読みいただきありがとうございます。軍人マディラ編6回予定しております。




