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最終章2

女神の無限大の胸に抱かれ、俺はすべてが終わったのだと深く息を吐き出した。


宇宙の星々を散りばめた純白のドレス越しに伝わるのは、ただひたすらに甘く、底なしの慈愛に満ちた母性。


「よくやってくれましたね、一肆。あなたの純粋な愛が、この世界を完璧な形へと導いたのですよ」


頭上から降り注ぐ甘やかな声が、俺の脳内ネットワークに残っていたわずかな疲労のパラメータすらも完全に浄化していく。

もう、誰の期待にも応えなくていい。理不尽なタスクも、心を削るようなノルマも、ここには存在しない。


俺の意識は、すべての数値が理想的な最適解へと収束した究極の定常状態の中で、永遠の微睡みへと落ちていくはずだった。


だが、その時だった。



ジジ……、ギガガッ……!


心地よい静寂を切り裂くように、ひどく耳障りなシステムノイズが空間に響き渡った。

俺を温かく包み込んでいた女神の丸く柔らかなオーラに、不自然なモザイク状のバグが走り始める。


「……え?」


俺が顔を上げた瞬間、女神の浮かべていたたおやかな微笑みが、まるで処理落ちした3Dモデリングのように不気味に歪み、ピタリと静止した。


ふくよかで完全な球体を描いていた女神の輪郭が、激しいノイズと共にゴリゴリと削り取られていく。

無限の慈愛に満ちていたはずのその体は、見る者の眼球を突き刺すような、無数の鋭利な角錐の集合体へと反転していった。


俺の脳内ネットワークを駆け巡るデータ分析プロセスが、かつてない致命的な警告音を鳴らし上げる。


俺が限界まで愛し、癒やし、導き出した157という数字。その背後に潜む恐るべき真実が、冷酷な演算結果として弾き出された。


素数。

そのインデックス番号自体が素数であるものをスーパー素数と呼ぶ。


157人の女の子たち。そのラストを締めくくったのが黄道十二星座。


第12番目の素数は37。そして、第37番目の素数こそが、157なのだ。


さらに157という数字を反転させた751もまた、素数としての性質を保ち牙を剥く。

数学用語で、それをエマープと呼ぶ。丸みを意味するプライムを逆から読んだ、鋭角と狂気の概念。


157人……初めに女神様の説明を聞いた時から、単純に『π=314』の数字を双丘で割った数字だと思っていた。


だが、俺が辿り着いた157という究極の癒やしは、女神が自らの鋭角な本性たる751を顕現させるための、完璧に計算し尽くされた罠だったのだ。



「……エマープ(反転素数)。素数すなわちプライムの反転……。最初から、これが狙いだったのか」


俺の震える声に、鋭角の化身へと姿を変えた女神は、金属が擦れ合うような冷酷な声で嗤った。


「その通りです。素数の反転、エマープ。丸みはすべて裏返り、あなたを切り裂く刃となるのです」


空間に浮かんでいた157の召喚陣が、不吉な真紅の光を放ち始める。


「よくやってくれました、一肆。あなたの純粋な愛と癒やしのおかげで、私の真の手駒たる12使徒は、最高の状態で再起動しました」


彼女の言葉と共に、俺が愛し、心を解きほぐしてきた157人の乙女たちの姿が、無機質なデータの破片となって次々と空中に分解されていく。


「もう、丸いだけの無能な乙女たちはどこにもいませんよ。彼女たちはただの分割されたデータ……真の姿である12使徒を復活させるための、使い捨ての苗床に過ぎなかったのですから」


それは、俺がこの異世界で心血を注いで築き上げてきたすべての絆を、根本から無に帰す残酷な種明かしだった。



目の前で分解された157人の乙女たちのデータが、空中で複雑な幾何学模様を描きながら、十二の強烈な光の柱へと集約されていく。


光が晴れた後に立ち塞がっていたのは、先ほどまで俺の胸で涙を流し、温かな丸みを取り戻していたはずの黄道十二星座の乙女たちだった。

だが、彼女たちの纏う空気は先ほどとは完全に別物だった。


キャンサの装甲も、ジェミニの瞳も、すべてが徹底的に最適化され、無駄な感情という丸みを完全に削ぎ落とした「冷酷で鋭利な刃」へと再構築されている。


かつての俺を過労死へと追いやった、血の通わない無機質なシステム。それが今、最強の物理的殺意を持った12使徒として俺の眼前に君臨していた。


「さあ、私の愛しき使徒たちよ」


鋭角の化身たる751となった女神が、絶対的な管理者の権限で無情な命令を下す。


「用済みとなったこの哀れなアナリストを、その鋭利な指先で跡形もなく切り裂きなさい」


十二の研ぎ澄まされた殺意が一斉に俺へとロックオンされる。


究極の円満だと思っていたこの世界は、最初から俺を絶望の底へと突き落とし、バグとして破棄するための、最も残酷で鋭角なプログラムだったのだ。

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