表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/78

最終章1

かつて、終わりのない残業と理不尽な要求によって過労死の淵に立たされていた俺の精神は、今や完全なプラスへと転換していた。


ナンバー145までの、多種多様なトラウマを抱えた乙女たち。

彼女たちを召喚し、その角張った痛みを円満の力で解きほぐすたび、俺自身の心もまた、極上の丸みと温もりに包まれていったからだ。


俺の脳内ネットワークを駆け巡る感情のグラフは、もはや下落することのない安定した上昇曲線を描き続けている。



果てしなく続くかに思えた癒やしの旅も、いよいよ最終局面に差し掛かろうとしていた。

俺の目の前に浮かび上がるのは、黄金に輝く十二の巨大な召喚陣。


黄道十二星座を司る、ナンバー146から157までの乙女たちを喚び出すための、最後のゲートだ。


データアナリストとしての直感が、彼女たちがこれまでの乙女たちとは次元の違う、強固で鋭角な使命とトラウマを背負っていることを告げている。

だが、今の俺に迷いや恐れは一切ない。


俺は大きく深呼吸をし、かつてないほどの熱量と包容力を込めて、十二の陣へ向けて一斉に詠唱を開始した。


「出でよっ、ぱいぱいっ! 黄道十二星座の乙女たち!」


世界を揺るがすような、圧倒的で神々しい反発音が、星空の広がる異空間に幾重にも重なって響き渡った。



光が収束した先には、十二の星座を冠する乙女たちが立ち並んでいた。


分厚い鋼の甲冑に身を包み「主はこのキャンサが絶対の殻でお守りします」と過保護なまでに周囲を警戒する蟹座の重装騎士。


大きな天秤を手に「この世の悪意は等しく裁かれねばなりません」と冷徹に告げる天秤座の盲目の裁判官リブーラ。


彼女たちの魂は、極端なまでに角張った使命感と、それに縛られる孤独なトラウマに覆われていた。


完璧主義ゆえに埃一つ許せず疲弊する乙女座のヴィルゴーや、毒を操るがゆえに誰とも触れ合えない蠍座のスコール。


かつての俺自身のように、理不尽な規律の奴隷となっている彼女たちを救うため、俺は持てるすべての魔力と包容力を解放した。


「もう、そんなに自分を縛り付けなくていい。ここでは全部、丸く収めていいんだ」


俺は彼女たちの尖った悲鳴を否定せず、ただ真っ直ぐに受け止め、解きほぐしていく。

固く閉ざされたキャンサの装甲を撫でてその奥の柔らかな素顔を引き出し、リブーラの厳格な天秤に傾きを許すような温かな感情を注ぎ込んだ。


十二の鋭利な星座たちは、俺の腕の中で涙を流しながら、少しずつ本来の美しい丸みを取り戻していった。



最後の試練として立ちはだかったのは、双子座のジェミニだった。

光と影、相反する二つの魂を一つの体に宿す彼女たちは、永遠に交わらない自己矛盾という鋭い刃で、自らの心を切り裂き続けていた。


「私を愛して」

「いや、私の方だけを見て」


互いの存在を否定し合い、引き裂かれそうになる彼女たちの悲痛な叫びを、俺は両腕を広げて同時に抱きとめた。


「どちらも俺の丸い世界に必要な、大切な半分だ。万物円満オール・ラウンド!」


放たれた『π=314』の波動が、ジェミニの背反する二つの魂を優しく包み込み、光と影の境界線を溶かして一つの完全な球体へと融和させていく。


彼女たちが俺の胸で温かい脈動を重ね、その涙が穏やかな寝息へと変わった瞬間。

俺の脳内ネットワークの深奥で、システムクリアを告げるような澄み切った電子音が鳴り響いた。


『──召喚体カウンター、157に到達。全結合係数、最大値を記録』


全157人の乙女たちとの間に結ばれた膨大な絆のデータが俺の精神と完全にリンクし、かつてない究極の「円満」が、世界を限界まで満たしていくのを感じた。



その直後、157人の乙女たちの笑顔に包まれていた異空間の空が、音もなく真っ二つに割れた。


亀裂の奥から溢れ出したのは、宇宙の星々をそのまま織り込んだような純白の光。

そして、その光の階段をゆっくりと降りてきたのは、背後に巨大な円環のオーラを背負った究極の存在だった。


「よく頑張りましたね、一肆。あなたの愛で、世界はついに丸く満たされましたよ」


ナンバー0、世界の管理者たる「まあるい女神様」


慈愛に満ちた柔らかくたおやかな微笑みと共に彼女が腕を広げると、俺の視界は、言葉では表現しきれない「無限大の双丘」が放つ温かな光に完全に飲み込まれた。


女神の宇宙の揺りかごのような胸の中で、これまでの157人との記憶が心地よく駆け巡り、俺が抱えていたすべての苦労や傷が完全に無へと還っていくのを感じた。


ついに俺は、終わりのない苦役から解放され、究極の安らぎを手に入れたのだ。


──この時の俺は、その無限の丸みの裏側に、恐るべき絶望の計算が隠されていることなど、知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あとりえむ ゲーム広場
異世界転生した天才物理学者 IQテスト まあるい陣取りゲーム

あとりえむ 作品紹介
異世界転生した天才物理学者 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ