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No.58 チロル:地下迷宮の赤字決算と、Dカップの甘い収支報告書

足元に広がるのは、古びた帳簿が積み上げられたような不気味な回廊。

異世界の地下大迷宮「不渡りの回廊」……ここは、かつての俺を苦しめた理不尽な経費削減や、身を削るような自腹の記憶が具現化した地獄だった。


冷たい風が吹き抜け、カサカサという不吉な音が響く。

振り返れば、空を埋め尽くすほどの紙吹雪が俺を追っていた。


それはただの紙ではない。端がカミソリのように研ぎ澄まされた鋭角な請求書「カッター・ビル」の群れだ。

一万枚に及ぶ負債の刃が、俺の精神を根こそぎ切り刻もうと音を立てて加速する。


「もう、一円の余裕もないっていうのか……」


逃げ場のない行き止まりに追い詰められ、俺は震える手で光のトリガーを引いた。


「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー58!」


ぼよよぉんっ。


殺伐とした回廊に、まるでお金がたっぷり詰まった財布を弾いたような、重厚で景気のいい反発音が鳴り響いた。


まばゆい光の向こうから、大きな丸眼鏡を光らせ、長い尻尾をパタパタと揺らす小さな影が現れた。

彼女の胸元には、小銭がパンパンに詰まったがま口財布にも負けない、驚くほど豊満で弾力に満ちたDカップの双丘が備わっていた。



「ひええっ、これはまた酷い赤字決算っすね、お客さん! 顔色が完全にデッドラインを超えてるっすよ!」


チロルは大きな丸眼鏡を指先でクイッと押し上げると、俺の惨状を見て大げさに尻尾を逆立てた。


彼女の背負った巨大ながま口財布からジャラジャラと景気のいい音が響くが、本人の視線は俺のボロボロになった服と、絶望に沈んだ瞳に釘付けになっている。


「情報の対価は高いっすよ? この窮地を脱するルートを教えるなら、金貨……いや、特注のチーズ三ヶ月分は貰わないと割に合わないでチュ」


最初はがめつく指を立てて交渉を始めたチロルだったが、俺が「……もう、払えるものは何もないんだ」と力なく呟くと、その丸い耳がしおらしく垂れ下がった。


「……ったく、しょうがないっすねぇ! アタイは商売人であって、悪党じゃないっす! 今回だけ、今回だけは特別に貸しにしてやるっすよ。出世払い、期待してるっすからね!」


チロルはそう吐き捨てると、俺の前に立ちはだかった。


彼女のDカップの双丘が、俺を守るようにぐいっと前へ突き出される。

それはまるで、あらゆる損失を物理的に跳ね返すために設計された、世界で最も柔らかく、かつ強固な「防衛資産」のようだった。


「見てるっすよ、お客さん。アタイのこの『がま口』は、ただの飾りじゃないでチュ!」


彼女の胸元が、迫りくるカッター・ビルの銀光を反射して、黄金色の魔力を帯び始める。


鋭利な請求書の群れが、キチキチと嫌な音を立てて彼女の豊かな肉厚へと狙いを定めた。


「来るっすよ、お客さん! アタイのポートフォリオを傷つける不渡り債権は、一銭も通さないでチュ!」


チロルの叫びと同時に、数千枚のカッター・ビルが一斉に旋回し、鋭利な角を突き立てて俺たちへ肉薄した。

一枚一枚が俺の過去の過労を、サービス残業を、そして報われない投資を嘲笑うかのように空を切る。


俺はチロルの小さくも力強い背中に手をかざし、その豊満なDカップへと全演算能力を流し込んだ。


万物円満オール・ラウンド!」


放たれた『π=314』の波動がチロルの胸元に収束し、彼女の双丘を「あらゆる負債を甘い資産へと変換する円満な錬金釜」へと作り変えていく。


「がま口コイン・バストでチュ!」


チロルがそのDカップをグイッと突き出すと、周囲を舞っていた鋭い請求書たちが、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように彼女の谷間へと吸い込まれていった。



凶器であった紙片は、彼女の驚異的な肉圧によって瞬時に圧縮・整形され、角を失い、滑らかな円盤状へと形を変えていく。


チャリン、チャリン。


彼女の足元に降り注いだのは、鋭利な刃ではなく、金紙に包まれた丸くて甘いコインチョコの大雨だった。


俺を圧迫していた『負債総額』という名の変数が、彼女のDカップという名の『非線形変換関数』によって、瞬時に『純利益』へと置換されていく……。


『π=314』の演算が導き出すのは、カドの立った未払いの苦しみを、丸くて溶けやすい幸福な報酬へと一括決済する、究極のバランスシート修正……。


「へへっ、いい音っすねぇ! アタイの胸にかかれば、どんな督促状もただのオヤツでチュ!」


チロルは弾むDカップを誇らしげに揺らし、散らばったコインチョコを一枚拾い上げると、満足げに丸眼鏡を光らせた。


挿絵(By みてみん)


足元に降り積もったコインチョコの山が、地下迷宮の冷たい空気を甘い香りで塗り替えていく。


「赤字、大赤字っすよぉ……。アタイの貴重な魔力をこんなに使わされて、収支報告書を見るのが怖いでチュ」


チロルはそうぼやきながらも、チョコを一枚拾って俺の口に放り込み、自らもポリポリと齧りながら俺の手を引いた。


「でも、死んじゃったら元も子もないっす。お客さん、特別にアタイの『とっておき』に招待してやるでチュ!」


彼女に連れられて迷い込んだのは、迷宮の隅にある、誰の目にも触れない小さな「巣穴」だった。

そこは丸い土壁に囲まれた、驚くほど静かで温かな、世界で一番小さなセーフハウス。


チロルは俺を奥のクッションへ座らせると、自分もその隣に潜り込み、豊かなDカップの胸を俺の腕にぴたりと寄せた。


「秘密の隠れ家ごっこでチュ。ここなら理不尽な上司も、期限の迫った請求書も、誰も追ってこれないっすよ」


狭い空間。チロルのDカップから伝わる、がま口財布のような「中に大切なものが詰まっている」という安心感に満ちた弾力。


外の世界で削り取られた俺の精神的な残高が、彼女の隣にいるだけで、じわじわと回復していくのを感じる。


俺は、限界を超えた統計データアナリストの脳で独白を開始した。


俺の人生を蝕んでいた『経費削減』という名の負の期待値が、この狭く丸い空間において完全に遮断されていく……。


どれだけ計算しても割り切れない『情』という名の、最高の特別利益……。


帳簿上の数字なんてどうでもいい。今、俺の隣で幸せそうにチョコを齧る彼女の胸の鼓動こそが、最も価値のある資産なのだから……。


「へへ、お客さん、顔色が良くなったっすね。……今回はタダ働きっすけど、次はちゃんと色をつけてもらうっすよ?」


チロルは丸眼鏡の奥で悪戯っぽく笑い、俺の肩に頭を預けて尻尾を丸めた。


地下の静寂の中、俺は彼女の温かなDカップに包まれながら、かつてない心の黒字を噛み締めていた。


やはり、世界は丸いほうがいい……

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