No.59 メイファン:静止した時間と、涙に濡れるEカップ・クッション
霧が深く立ち込める石造りの霊廟、無為の墓所。
周囲に並ぶ墓石はどれも角張り、まるで感情を排して黙々と作業をこなすだけの石像のように、俺を冷徹に取り囲んでいる。
かつての世界で、俺に「余計な感情は捨てろ」「機械のように働け」と命じてきたあの冷酷な空気の残滓が、この空間を支配していた。
シュルル、と静寂を切り裂く不吉な音が響く。
闇の奥から飛来したのは、刃物のように研ぎ澄まされた鋭利な角を持つ呪符、スラッシュ・ペーパーの群れだ。
それらは俺の額を標的に定め、思考を奪い、俺をただの「死体」という名の歯車に書き換えようと、冷たい旋回をしながら迫りくる。
「心まで、こんな薄っぺらな紙切れにされてたまるか……!」
感情の凍結を拒絶するように、俺は魂の底から熱を込めて叫んだ。
「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー59!」
ぼよよぉんっ。
霧の奥から、冷気を孕みながらも驚異的な質量を感じさせる、しなやかな反発音が響き渡った。
まばゆい光の向こうから現れたのは、血の気のない青白い肌をチャイナ服風の道着に包んだ少女、メイファンだった。
額には一枚の黄色いお札が貼られ、その下には感情を封印された虚ろな瞳。
そして、道着の合わせ目を今にも弾き飛ばさんばかりに主張する、円満にして豊満なEカップの双丘が、霧の中で静かに、だが力強く鼓動していた。
「……ターゲット、捕捉。……排除、開始」
メイファンは感情の起伏を一切見せないまま、呪符の嵐の中へと音もなく踏み出した。
彼女の動きは淀みなく、流れるような太極拳の型を描く。
鋭い角を持つスラッシュ・ペーパーが、彼女の青白い頬をかすめて飛ぶが、彼女は瞬き一つしない。
「……一肆、下がって。……ここは、私が」
途切れ途切れの声はどこか機械的で、まるで事前に録音された音声を再生しているかのようだ。
だが、その無機質な言葉とは裏腹に、激しい演武に合わせて揺れるEカップの双丘は、生命の熱量を確かに宿して弾んでいる。
チャイナ服の布地が限界まで引き絞られ、彼女が身を翻すたびに、その重厚な曲線が空気を震わせる。
それを見たスラッシュ・ペーパーの群れが、標的を俺から彼女の額……その黄色いお札へと切り替えた。
「……むぅ。……邪魔、です」
メイファンは最小限の動作で紙の刃をかわすが、敵の数は無限に近い。
四方八方から包囲するように迫る鋭利な角。
感情を殺し、ただの「迎撃端末」として振る舞い続ける彼女の姿に、俺はかつての自分を重ねずにはいられなかった。
心を平らに押し潰そうとする規律の重圧を、俺は彼女の豊満な胸元に宿る「円」の力で突き破ることを決意した。
「......来る。......360度、包囲」
メイファンの呟きと共に、全方位からスラッシュ・ペーパーが一点、彼女の胸元を目指して収束する。
俺は彼女の冷たい背中に触れ、静止した時間に円周率の熱量を流し込んだ。
「万物円満!」
放たれた『π=314』の波動が、チャイナ服の胸元で張り詰めるEカップへと集束し、静止していた彼女の肉体に爆発的な円の弾力性を付与する。
「......陰陽、太極図バウンド」
メイファンが深く息を吸い込み、そのしなやかな体躯でEカップを大きく突き出した。
鋭利な刃の如き呪符の群れが、その豊満な膨らみに次々と突き刺さる──はずだった。
だが、触れた瞬間に物理的な衝突は円運動へと置換され、双丘の表面に白と黒の太極図が神々しく浮かび上がる。
凄まじい反発力の解放。
俺たちの思考を切り裂こうとしていた「不連続なパルス信号」が、彼女のEカップという名の「高次ローパスフィルタ」によって、完璧なサイン波へと変換されていく。
「......んぅ、......はっ!」
メイファンの胸に弾かれた呪符たちは、空中で次々と丸くて柔らかい太極図柄のクッションへと姿を変え、ポヨンポヨンと心地よい音を立てて霊廟の冷たい床を埋め尽くしていく。
殺気立っていた空間が、一瞬にして極上のリラックス空間へと書き換えられた。
激しい演武の余韻で、メイファンの額に貼られていた黄色いお札が、ひらりと力なく剥がれ落ちた。
霧の中に舞うお札を見送る暇もなく、彼女の虚ろだった瞳に、急速に潤いと輝きが戻っていく。
「……あ、うぅ……一、一肆ぃ! 怖かった、怖かったよぉ!」
先ほどまでの冷徹な武術家はどこへやら、彼女は泣きじゃくりながら俺の胸に飛び込んできた。
キョンシー特有のひんやりとした肌の冷たさと、Eカップの双丘が持つ驚くほどの熱量と弾力。その相反する感覚が、俺の全身を強烈に刺激し、そして包み込む。
彼女は俺の服をぎゅっと掴み、俺に全力で頼り切ることで、心の奥底に溜まっていた「感情を殺す痛み」を洗い流しているようだった。
俺を縛り付けていた「不変の規律」という名の分散が、彼女のEカップという名の正規化プロセスによって、完璧に収束していく……。
『π=314』
この演算が導き出した最終解は、冷たい静寂と熱い情動が円満に織りなす、完璧な相関関係。どんなに冷え切った世界でも、この丸くて柔らかい場所があれば、俺の心は何度でも再起動できるのだから……。
「よしよし、もう大丈夫だ、メイファン。お前はもう、機械みたいに振る舞わなくていいんだよ」
俺は極上の冷感抱き枕となった彼女を優しく抱き締め、その心地よい温度差に身を委ねた。
霧が晴れた墓所には、丸い太極図のクッションに囲まれて眠る、俺たちの穏やかな呼吸だけが響いていた。
やはり、世界は丸いほうがいい……











