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No.56 ノア:Aカップがもたらす退行への誘い

石造りの冷たい回廊に、重苦しい碑文が並んでいる。


ここは異世界の遺跡「責任の揺り籠」。壁に刻まれた文字は、常に俺に「完璧な大人であれ」と説教を垂れ、一歩進むごとに難解な論理パズルが思考を削り取っていく。


前世でもそうだった。新人のミスを被り、後輩の相談に乗り、自分の仕事は後回しにして「頼れる先輩」を演じ続けていた日々。


もう、誰かの面倒を見るのは疲れたんだ。

そう吐き捨てようとした瞬間、カツン、という乾いた音が足元で響く。


意思を持った鋭角な積み木、スクエア・ブロックが、意思を持って俺の進路を塞いでいた。角の尖ったブロックはわざとらしく俺の足元に散らばり、転ばせようと虎視眈々と隙を伺っている。


「……大人になんて、ならなきゃよかった」


逃げ場を失った俺は、膝をつき、心の奥底から溢れ出た情けない声を絞り出す。


「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー56!」


ぼよよぉんっ。


冷徹な遺跡の空気を塗り替えるような、どこか懐かしく、そして控えめながらも温かな反発音が響き渡った。

柔らかな光の中から現れたのは、清潔感のあるエプロンを身に纏い、素朴なリボンで髪をまとめた女性、ノアだった。


彼女は地に足をつけると、目の前の敵よりも先に、情けなく座り込む俺の方を見て、困ったように眉を下げて微笑んだ。


その胸元は、これまでのヒロインたちのような圧倒的なボリュームこそないが、エプロンの下に確かな安らぎを感じさせる、可憐で円満なAカップの膨らみを宿している。


「一肆くん、そんなに難しいお顔をして……めっ、でちゅよ?」


ノアは俺の目の前まで歩み寄ると、膝をついて俺の目線に合わせ、腰に手を当ててぷくっと頬を膨らませた。


彼女の背後では、鋭角なスクエア・ブロックたちが不気味な音を立てて蠢いているが、彼女はそんなものなどまるで見えていないかのように、俺という「迷子」に全神経を注いでいる。


「いい大人が、そんなに肩に力を入れてちゃダメでちゅ。ほら、お口を開けてくだちゃい」


彼女がエプロンのポケットから取り出したのは、小さな動物の形をしたクッキーだった。


挿絵(By みてみん)


俺が呆気にとられている間に、それは放り込まれるように俺の口の中へ。素朴で優しい甘さが広がり、パズルを解き続けて熱を持っていた脳が、ふっと軽くなる。


「……ノア、俺はもう、しっかりしなきゃいけないんだ。ここを突破しないと」


「だーめ、でちゅ。そんなに頑張りすぎたら、心がトゲトゲになっちゃいまちゅよ? 一肆くんは、今はただの『いい子』になればいいんでちゅ」


彼女は俺の頭を優しく引き寄せ、自分の胸元へと導いた。

そこに広がるのは、圧倒的な質量ではない。だが、清潔な石鹸の香りが漂うエプロン越しに伝わる、確かな温もりと、控えめながらも柔らかなAカップの円満な曲線。


それは、何者かにならなければならないという強迫観念から、俺を切り離してくれる不思議な弾力だった。


彼女が俺を子供扱いするたびに、俺を守っていたはずの「大人のプライド」という名の鎧が、一枚ずつ音を立てて剥がれ落ちていく。


「さあ、悪いブロックさんたちは、わたしが『お片付け』してあげまちゅね。一肆くんは、そこで見ていてくだちゃい」


ノアは俺の頭を撫でながら、ゆっくりと立ち上がった。その控えめな胸元は、これから始まる「全肯定」の予感に満ちて、静かに輝き始めている。



「お片付けの時間でちゅよ! 悪い角っちょさんたち、みーんな丸くなれ、でちゅ!」


ノアの宣言に応じるように、周囲に散らばっていたスクエア・ブロックが意思を持って結合し、鋭利な角を剥き出しにした巨大な壁となって俺たちを押し潰そうと迫りくる。


大人の責任、社会の規律、逃げ場のない正論。それらが物理的な質量となって、俺の視界を真っ暗に染めていく。


だが、俺はノアの背中に手を添え、彼女の控えめな胸に宿る「無償の愛」という名の定数にすべてを賭けた。


万物円満オール・ラウンド!」


俺が放った『π=314』の波動が、ノアの清潔なエプロンの中、可憐に膨らむAカップの双丘へと集束していく。


その小さな胸が、円満な力を得てまばゆい光を放ち、周囲の空気を優しく震わせた。


「ゆりかごボール・プールでちゅ!」


ノアは逃げるどころか、迫りくる巨大な積み木の塊に向かって、そのAカップの胸をふんわりと突き出した。


グシャリ、と嫌な音がするはずの激突。だが、鋭い角を持ったブロックたちは、ノアの胸に触れた瞬間に吸い込まれるような弾力で受け止められた。



神聖な弾性を帯びた彼女の胸が、物理的な衝撃を「遊び心」へと変換していく。


俺の目の前で、凶器だったスクエア・ブロックが次々とパステルカラーの柔らかいカラーボールへと姿を変え、遺跡の床を埋め尽くすように跳ねていった。


俺を圧迫していた「尖ったストレス」という名の離散データが、彼女のAカップという名のカーネル関数によって、完璧な平滑化スムージングを施されていく……。


エントロピーが増大する断罪の場を、一瞬にして安全な遊戯空間へと書き換える、究極の位相変換……。


「わあ、きれいでちゅね! 一肆くん、もう危なくないでちゅよ」


積み木の壁は跡形もなく消え去り、回廊は色とりどりの丸いボールで満たされた。

ノアは弾むボールの上で、勝利の報告をするように、その控えめな双丘を小さく揺らして俺に微笑みかけた。



カラフルなボールが埋め尽くす遺跡の床は、もはや冷たい石の回廊ではなく、柔らかな遊び場へと変貌していた。


俺を追い詰めていた「完璧な大人」への強迫観念は、跳ねるボールの音と共にどこかへ消え去り、残されたのは心地よい疲労感だけだった。


「一肆くん、頑張ったいい子には、ご褒美をあげまちゅね」


ノアが優しく微笑み、俺をボールの海の中へと導く。

彼女は膝をつき、俺の頭をそっと自分の膝へと乗せた。


「究極のバブみタイム」


彼女がそう呟いた瞬間、俺の視界は彼女のエプロンの温もりで満たされた。


控えめなAカップの胸。だが、そこには物理的な容積を超えた、無限の包容力が凝縮されていた。


彼女の心臓の鼓動が、薄い胸元を通して俺の耳に直接伝わってくる。その規則正しいリズムは、どんな高精度のメトロノームよりも正確に、俺の荒れた精神を鎮めていく。


「はい、温かいミルクでちゅよ。ゆっくり飲んで、ねんねしてくだちゃいね」


いつの間にか用意されていた哺乳瓶のような温かなボトルを口に含ませられ、俺の喉を優しい甘さが通り抜けていく。


ノアは片手で俺の頭を撫でながら、もう片方の手で絵本を開き、穏やかな声で物語を読み聞かせ始めた。


俺は、限界を超えた統計データアナリストの脳で独白を開始した。


俺を縛り付けていた「社会的地位」という名の多重共線性が、彼女のAカップという名の正準相関解析によって、完全に解消されていく……。


『π=314』の演算が導き出すのは、あらゆる複雑な変数を排除した、純粋無垢な幼児への回帰……。


数値化できないほどの安らぎ。大人の尊厳という名の不要な外れ値が、彼女の温かな胸の中で「ゼロ」へと丸め込まれていくのを、俺は朦朧とする意識の中で感じていた……。


「……すー、すー……」


俺の耳元で、物語を読む声がいつの間にか心地よい子守唄に変わっていた。


「いい子でちゅね、一肆くん……。明日のことも、お仕事のことも、みーんな忘れていいんでちゅよ」


ノアの小さな、けれど誰よりも深い慈愛に満ちた胸に抱かれ、俺は深い眠りの底へと落ちていった。


やはり、世界は丸いほうがいい……

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