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第11回 争奪戦:まあるい「福笑い」

(一肆、毎日お疲れ様。よしよし、えらい子ですね。たまにはゆっくりおやすみなさい.....................)


窓の外には、紫色の雲が流れる異空間の夜空が広がっている。


俺は、いつものロッジのリビングにある大きな革張りのソファに深く腰掛け、5人の視線を全身に浴びていた。


「いいですか、一肆。これは、貴方の感受性を正しく規律するための訓練である……べきですっ!」


セラフィの厳格な声が響き、俺の視界は真っ白なシルクの布で完全に遮断された。


「あはは、一肆、あたしがどこにいるか、わかるかなぁ?」


「ボクもいるよ! びゅーんってね!」


目隠しの向こうから、賑やかな声と、それぞれの女の子が放つ特有の「丸い魔力」が漂ってくる。


今回の争奪戦は、この状況で彼女たちの「双丘」の感触だけを頼りに、誰が誰かを当てるという、あまりにも過酷で甘美な「福笑い」だった。



俺は、限界を超えた統計データアナリストの脳で、急速に思考を走らせる。

視覚という外部入力の約80%を失った。だが、俺には数値化された触覚データがある。


接触面の弾性係数『k』を導き出し、さらに肌の表面温度『T』をサンプリングすれば、個体識別は 99.9% の確率で成功するはずだ……。


「ご主人様! 待っててくださいっ、ククリがいきまーすっ!」


パタパタという尻尾の音が近づいたかと思うと、次の瞬間、俺の胸元に強烈な質量が飛び込んできた。


「ふぎゃ……っ!?」


「えへへ、どうですか、ご主人様っ! わたしの丸いところ、わかりますかっ!」


俺の顔面を、メイド風戦闘服に包まれた、圧倒的なボリュームのEカップが埋め尽くした。

ククリのそれは、元気な犬獣人らしく高熱を帯びており、俺の頬を伝わる心拍数は120bpmを超えている。


この高い弾力性と、溢れんばかりの忠誠心が籠もった重み……。


「……ククリ、だな」


「わんっ! 大正解ですっ、ご主人様っ!」


彼女が嬉しそうに俺の首筋にスリスリと双丘を擦り付けるたび、俺の脳内ログには、最初の基準となるデータが克明に刻まれていった。


だが、これはまだ、暴風雨のような多幸感の入り口に過ぎなかった。



「あはは、次はあたしだよぉ、一肆。当てられるかなぁ?」


ククリが名残惜しそうに離れると、入れ替わりに少しひんやりとした空気が肌を撫でた。


次の瞬間、頬に触れたのは、先ほどのククリのような圧倒的な肉圧ではない。だが、しなやかでどこか吸い付くような、独特の弾力を持った一対のBカップだった。


俺は脳内の解析サーバーをフル回転させる。

皮膚表面温度『T』は周辺気温よりわずかに低い。だが、死後硬直とは無縁の、マシュマロのような柔軟な反発係数。そして時折、頬をチリリと掠める「縫い目」の硬い感触。


「……ゾーイ、だな。その肌の温度と、糸の感触は隠せない」


「正解、あはは! さすが一肆だねぇ。あたしのパーツ、よく覚えてくれてるんだ」


ゾーイが満足げに喉を鳴らして離れていくと、間髪入れずに、今度は熱風のような圧力が俺を襲った。


「オレを外したら、このロッジごと海の底に沈めてやるぜ、野郎!」


荒々しい言葉と共に、今度は非常に引き締まった、弾力性に富むBカップが俺の腕に強く押し当てられた。


先ほどのゾーイと同じBカップという規格でありながら、その性質は対極にある。日焼けした肌が放つ健康的な熱量と、潮風と潮騒を想起させる、微かな塩の香り。


俺は心拍を整え、弾性係数『k』の差異を瞬時に計算した。


「……マリナだ。この、鍛えられた船乗りのような筋肉の張りと、熱い肌……間違いない」


「へっ、当たりだぜ! オレ様の双丘を忘れるなんて、万死に値するからな!」


目隠しの下で、俺は冷や汗を流しながらも確信を深める。


ゾーイの弾性係数を『kz』マリナのそれを『km』とすると、明らかに『kz < km』という不等式が成立している。


統計データアナリストとして、この微細な触感データのコントラストを識別することに、奇妙な高揚感を覚え始めていた。


だが、この二人の「Bカップ」による二択は、これから始まる怒涛のような多幸感の、ほんの準備運動に過ぎなかった。



「次はボクの番さ! 捕まえられるかな、びゅーんってね!」


ロッジの空気が一変し、肌を撫でるような微風が吹き抜けた。


次の瞬間、俺の顔を包み込んだのは、質量があるのかさえ疑わしい、不思議な浮遊感を伴ったEカップだった。

風の精霊、ウィンの双丘だ。


彼女の体は半透明で、触れているはずなのに重力を一切感じさせない。まるで温かな空気の塊に顔を埋めているような、実体のない柔らかさ。


俺は混乱する脳内で、必死にデータを照合しようとする。


ウィンの圧力『Pw』と、最初のククリの圧力『Pk』を比較すると、こちらも明らかに『Pw < Pk』という極端な差が出ている。だが、その圧力のなさが逆に、俺の三半規管を狂わせていく。


「不謹慎ですが……これも貴方を正しく導くための試練です。覚悟しなさいっ!」


ウィンの風が止む間もなく、今度は重厚で、一切の妥協を許さないような圧力が正面から叩きつけられた。


六枚の翼を持つ天使、セラフィのDカップだ。


厳格なデザインの神官服という「遮蔽物」越しではあるが、その内側に秘められた双丘の密度は凄まじい。

規則正しく、かつ厳格に俺の頬を圧迫するその弾力。


俺は解析精度を極限まで高めるため、ついに禁断のスキルを発動させた。


万物円満オール・ラウンド!」


俺の叫びと共に、ロッジ内に『π=314』の波動が吹き荒れる。

その瞬間、俺に触れている彼女たちの「まあるいパーツ」の力が、通常の100倍にまで増幅された。


「ひっ、あぎゃああああ!?」


数値化しきれないほどの多幸感が、津波となって俺の脳内ネットワークに流れ込む。

弾性係数、熱伝導率、摩擦係数。それらすべての変数が限界値を突破して振り切れた。


ククリの熱狂、ゾーイの不可思議、マリナの勇ましさ、ウィンの自由、そしてセラフィの慈愛。

五者五様の「丸い力」が、円満の波動によって一つの巨大な宇宙へと統合されていく。


俺は、限界を超えた統計データアナリストの脳で独白を開始した。


個体識別用の「特徴量」がすべて消失し、世界が「究極の球体」へと収束していく……。

俺の演算回路は、この過剰な多幸感という名の『DoS』に耐えきれず、激しいスパークを上げ始めた……!


「一肆!? 顔が真っ赤! 大丈夫かなぁ?」


「めっ、です! 意識をしっかり持ちなさいっ!」


ヒロインたちの困惑した声が遠のき、俺の意識は真っ白な光の中に飲み込まれていった。




一肆、起きて!一肆!


ククリの必死な声と、濡れた鼻先が頬に触れる感触で、俺はかろうじて意識の淵から這い上がった。

目隠しの布はいつの間にか外され、ロッジの天井にある円形のシャンデリアが、俺の火照った視界を優しく照らしている。


視界が安定してくると、心配そうに俺を覗き込む五人のヒロインたちの顔が見えた。


「あはは、一肆の頭から煙が出てたよぉ。あたしたち、ちょっとやりすぎちゃったかな?」


「……反省すべきであるべきです。ですが、一肆が識別不可と言ったのは、私たちの規律が等しく完璧であった証拠ですね」


セラフィがもっともらしい理屈で締め括ろうとするが、彼女の顔もどこか満足げに赤らんでいる。



結局、今回の争奪戦に勝者はなかった。

誰の感触が一番だったかという問いに対し、俺の脳が出した最終回答は「すべてが極上の球体」というエラーログだったからだ。


俺はソファに沈み込んだまま、五人の熱量と、微かに残る五種類の弾性の残響に包まれていた。



五つの異なるサンプリングデータは、スキル『オール・ラウンド』による増幅を経て、もはや個体差という名の残差を消失させた……。


『π=314』の演算が導き出した最終解は、全ヒロインによる多幸感の飽和状態……。


このロッジという閉鎖空間において、俺の意識が陥落したのは、統計学的に見て必然の帰結なのだと、俺はぼんやりとした思考で再確認する……。


「……まったく、情けねえ野郎だぜ。だが、まあ、たまにはこういう円満な結末も悪かねえな」


マリナが笑いながら俺の肩を叩き、ウィンの風がロッジの熱気を心地よく逃がしていく。


(俺の心の中のざわつきが静かにスーッと引いていく……)


俺は彼女たちが作る温かな輪の中心で、二度目の意識の混濁、今度は心地よい眠りへと誘われていった。


やはり、世界は丸いほうがいい……

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