No.55 セラフィ:断罪の法廷と、白紙に戻るDカップの免罪
耳を塞ぎたくなるような喧騒が、嘘のように消え失せていた。
俺の心の中に澱のように溜まっていた、覚えのない罪悪感や、社会的な責任という名の重石。それが今、真っ白な霧の中に溶けていくような感覚がある。
視界の端で、純白の羽根がゆっくりと舞い落ちる。
俺の顔は今、神官服に包まれた、驚くほど柔らかく、それでいて重厚な感触の中に深く沈められていた。セラフィの、揺るぎない正義を象徴するようなDカップの膨らみが、俺の頬を優しく包み込んでいる。
「……もう、自分を責める必要はありません。一肆、貴方の責任は、今、私がすべて白紙にしました」
あれほど厳格で、一分の隙も許さなかった彼女の声が、今は慈雨のように穏やかに俺の脳内に響く。
なぜ、説教ばかりしていたはずの彼女が、俺をこうして抱きしめているのか。
逆回転を始める時計の針に誘われるように、俺の意識は、あの地獄のような断罪の瞬間へと引き戻されていった。
時間が遡り、事の発端へと意識が沈んでいく。
舞台は異世界の「空中断罪法廷」。浮遊する無数の傍聴席から、顔の見えない裁判官たちが、俺の些細な不手際を「正義」という名の刃で叩き続けていた。
「規律違反である! 貴様の存在は社会の不利益である!」
前世で、ネットの海や組織の歯車の中で、正論を武器にした過剰なバッシングに晒されたあの記憶。逃げ場のない空中、一歩でも踏み外せば奈落の底。俺を糾弾するように、鋭角な木槌「ブレード・ガベル」が次々と召喚され、空を埋め尽くしていく。
孤独と恐怖に震える俺は、この不条理を終わらせるために光を掴んだ。
「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー55!」
ぼよよぉんっ!
厳かな法廷の空気を切り裂く、重厚でしなやかな反発音。
光の中から現れたのは、六枚の純白の翼を広げ、頭上にまばゆい輪を戴いた上級天使、セラフィだった。露出を極限まで抑えた厳格な神官服が、その豊かなDカップの双丘をきつく締め上げている。
だが、助けを求めた俺に対し、彼女が開口一番に放ったのは救いの言葉ではなく、峻烈なお説教だった。
「一肆! そもそも貴方の召喚の仕方は、あまりにも不作法であるべきです! 大体、さきほどからの立ち振る舞いも規律に欠けています。天使を呼ぶからには、それ相応の……」
止まらない小言。長電話のように続く説教の嵐。しかし、俺を叱りつける彼女の六枚の翼は、まるで寒さに震える小鳥のように微かに揺れていた。
彼女もまた、知っているのだ。正義という刃で叩かれることの、底知れない恐怖を。
だからこそ彼女は、自らに厳しいルールを課し、理論武装という名の鎧を纏って、この断罪の場に降り立ったのだ。
耳を劈くような断罪の残響。
「一肆! 貴方の不手際は、万死に値するであるべきです!」
裁判官たちの罵声と共に、巨大な木槌が俺の頭をかち割ろうと振り下ろされる。
正論という名の暴力に押し潰されようとしたその瞬間、セラフィが俺の前へ立ちはだかった。
「そんな攻撃、私が認めませんっ! めっ、ですよ!」
彼女は厳格なデザインの神官服に包まれた、そのDカップの胸を大きく張った。
俺は彼女の純白の六枚の翼に守られながら、右手を突き出した。
「万物円満!」
俺の放った『π=314』の波動が、セラフィのDカップへと吸い込まれていく。神官服の下で、彼女の双丘が神聖な反発力を帯びて、まばゆく発光し始めた。
「一肆、見ててください。規律を乱すカドっちょは、私が全部丸くしてあげますっ!」
──慈愛の光背!!
セラフィは六枚の翼を羽ばたかせ、光り輝く天使の輪を頭上に戴きながら、毅然と法廷を見据え、振り下ろされた鋭利な木槌を、Dカップの胸で真正面からどうどうと受け止めた。
本来なら肌を切り裂くはずの衝撃は、円満な力によって神聖なエネルギーへと変換される。
キィィン、という澄んだ音と共に、木槌はセラフィの胸の弾力に触れた瞬間、その「角」を失い、丸くて美しい、光り輝く「天使の輪」へと姿を変えた。
俺を裁こうとした凶器が、世界を照らす慈愛の光へと逆転した瞬間だった。
俺を糾弾する正論やバッシングという名の「外れ値」が、彼女のDカップという「神聖境界条件」によって完璧に正規化されていく……。
悪意を祝福へと昇華させる、究極の免罪アルゴリズム……。
木槌の雨は止み、騒がしかった空中法廷は、降り積もる白い羽根に覆われて静まり返った。
俺を断罪しようとした匿名の悪意たちは、彼女が作り出した無数の天使の輪の輝きに呑み込まれ、霧散していった。
セラフィは一つ大きなため息をつくと、先ほどまで止まらなかった小言をピタリと止めた。
「一肆、お説教はもう終わりです。……そんなに、泣きそうな顔をしないでください」
彼女は六枚の翼を優しく畳み、俺を真正面から抱きしめた。神官服の厳格な布地越しに、豊満なDカップの胸が俺の胸板に押し当てられる。
「免罪のフルコース」
天使の権限が行使された。それは、犯した罪を裁くのではなく、背負わされた責任の重さそのものを無に帰す究極の癒やし。
俺の頬を包む彼女の胸は、ルールに縛られていた時よりもずっと柔らかく、俺の心に深く刻まれていた「社会的な正解」への強迫観念を、溶けるように消し去っていく。
俺は、限界を超えた統計データアナリストの脳で独白を開始した。
俺の意識を蝕んでいた自己嫌悪という名の「帰無仮説」が、彼女のDカップという「有意水準」によって棄却されていく……。
過去も未来もすべてをリセットする、究極のゼロ点補正……。
正論で世界を叩き伏せるのではなく、ただ丸く抱きしめることで導き出される、唯一の真実……。
「……めっ、ですよ。一人で全部、背負い込もうとするなんて。次からは、まず私に相談すべきです」
セラフィの最後の一言は、もう説教ではなく、ただの不器用な願いのように聞こえた。
俺は彼女の温かな胸の中に顔を埋め、かつてない心の軽さを噛み締めた。
やはり、世界は(許されて)丸いほうがいい……











