No.54 ウィン:束縛の神殿と、無重力のEカップ・スリープ
俺は、異世界の「不変の神殿」という名の檻に閉じ込められていた。
一歩歩くたびに、地面から伸びる重い契約の鎖が俺の足首を締め上げる。ここでは休息すらも義務であり、止まることさえ許されない過酷な規律が支配していた。
「……また、これか」
休日だろうと深夜だろうと鳴り止まなかった電話の音。断れば居場所がなくなると脅された、あの終わりのない残業。
前世で俺を縛り付けていた「休まらない日常」が、この神殿の重力となって俺を押し潰そうとしていた。
俺が自由を求めて足掻こうとした瞬間、壁や床から棘だらけの鎖が蛇のように飛び出してきた。
手足を縛り、物理的な拘束だけでなく精神までをも削り取る鋭角な凶器の群れ、スパイク・チェーン。
このままじゃ、俺は一生何かに縛られたまま終わってしまう。
俺は喉を震わせ、空に向かって叫んだ。
「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー54!」
ぼよよぉんっ!
重苦しい神殿の空気を切り裂くように、信じられないほど軽やかで弾力のある音が響き渡った。
光の渦の中から現れたのは、半透明の風を身に纏い、踊り子のような薄絹を揺らす少女、ウィンだった。彼女は地に足をつけることなく、数センチだけ浮遊したまま、その豊かなEカップの双丘を風に躍らせ、俺に悪戯っぽく笑いかけた。
「ボクを呼んだのは一肆かな? そんなに鎖に縛られてちゃ、どこにも飛んでいけないさ!」
ウィンは俺の周りを回るように、軽やかに空中で踊った。
彼女が動くたびに、薄絹の衣装から覗く半透明のEカップが、質量を感じさせない不思議な弾力でプルンと跳ねる。
俺を縛り付けるスパイク・チェーンが鋭い音を立てて彼女を捕らえようとするが、ウィンはその間を風のようにすり抜けてしまった。
「危ない! ウィン、その鎖はただの鉄じゃない。俺たちの自由を奪う、執念の塊なんだ!」
「しゅうねん? なにそれ、美味しいの? ボクはどこにも行きたくないし、どこへでも行きたいだけさ! びゅーんってね!」
彼女は笑いながら、俺の頬を指先でなぞった。
風の精霊である彼女には、物理的な重圧も、ましてや休日出勤の概念すらも通用しない。彼女が数センチ浮いたままEカップの豊かな胸を張ると、張り詰めた神殿の空気がわずかに和らぐのを感じた。
「でも、一肆がそんなに苦しそうなのは、風通しが悪い証拠だねぇ。ボクがこの窮屈な鎖を、全部空っぽにしてあげるさ!」
ウィンは俺の手首に食い込む棘の鎖を見つめ、悪戯っぽく瞳を輝かせた。その豊かな双丘が彼女の軽快な呼吸に合わせてゆらゆらと揺れ、俺の心にまとわりついていた義務感という名の重石を、少しずつ浮かび上がらせていく。
「あはは! 面白そうな鎖だけど……ボクの自由までは縛れないさ!」
ウィンが軽快に笑った瞬間、神殿中のスパイク・チェーンが一斉に唸りを上げ、俺たちを押し潰そうと殺到した。
この執拗な拘束を打ち破るには、彼女の風をさらに加速させるしかない。
俺はウィンの半透明な背中に手を添え、ありったけの演算を打ち込んだ。
「万物円満!」
俺が放った『π=314』の波動が、ウィンの踊り子のような衣装の下で揺れる、豊かなEカップの双丘へと集束していく。
その瞬間、彼女の胸元が猛烈な引力を帯び、周囲の空気をダイナミックに吸い込み始めた。
「ボクの風を、もっと丸く、もっと遠くへ……! つむじ風のバルーン!」
ウィンがEカップの双丘を激しく揺らすと、彼女を中心に巨大なつむじ風が発生した。
その風は殺到するスパイク・チェーンを次々と飲み込んでいく。
棘だらけで鋭角だった鎖は、ウィンの胸元から生み出された円満な風の力に触れた瞬間、その角を失い、プクプクと急速に膨らみ始めた。
凶器だったチェーンは、瞬時に空気がパンパンに詰まったパステルカラーの「丸い風船」へと変質し、神殿の重力から解き放たれて天井へと高く舞い上がっていった。
俺を縛り付けていた義務感や規律という名の「拘束条件」が、彼女のEカップが生成する「円満な負圧」によって完璧に相殺されていく……。
『π=314』の演算が導き出すのは、あらゆる重力から解き放たれた、究極の自由意志の方程式だ……。
「びゅーんってね! これで一肆も、ボクみたいに軽くなったさ!」
頭上の無数のバルーンを見上げ、ウィンは満足げに胸を弾ませた。神殿を支配していた重苦しい空気は、今やそよ風へと変わっていた。
「あはは! 一肆、まだ地面に足をつけてるの? そんなのつまんないさ!」
空に舞い上がる無数のバルーンを見上げていると、ウィンが俺の腕を引いて、ふわりと宙へ連れ出した。
神殿の重圧から解放されたはずなのに、俺の心にはまだ、休日返上で働かされていた頃の「いつ呼び出されるかわからない」という薄暗い予期不安が、澱のように残っている。
「ウィン、俺は……まだ少し、体が重いんだ。見えない鎖が、心に絡みついているみたいでさ」
「そんなの、ボクと一緒に空に溶かしちゃえばいいのさ! そよ風のゆりかご、スタートさ!」
ウィンが俺の背中に回り込み、半透明の細い腕を俺の首筋に回した。
次の瞬間、俺の体から完全に重力が消失した。彼女の魔法によって、俺たちは地上数十センチの空中で、ふわふわと漂い始める。
背後から密着するウィンの豊かなEカップ。
風の精霊である彼女の体は、驚くほど柔らかく、それでいて物理的な圧迫感を一切感じさせない。
まるで温かな空気の塊に包まれているような、不思議な安心感。彼女のEカップが俺の背中に触れるたび、そこから心地よい微風が吹き抜け、心の奥底にこびりついていた強迫観念を一枚ずつ剥がしていく。
「一肆、予定も約束も、今は全部忘れていいさ。ボクと一緒に、ただ流されるのが一番なのさ」
「……ああ。不思議だな、何もしなくていいっていうのが、こんなに幸せだなんて」
俺は、限界を超えた統計データアナリストの脳で独白を開始した。
俺を縛り付けていた時間という名の「制約変数」が、彼女のEカップがもたらす「無重力空間」によって、完全に無効化されていく……。
定数も変数も存在しない、究極の空白……。
自由奔放な彼女の胸の中で、俺という存在が世界の一部として再定義されていくのを、俺は浮遊感の中で解析する。
「びゅーん……すー、すー……」
いつの間にか、俺を抱きしめたままウィンが小さな寝息を立て始めた。
風のように気まぐれな彼女のことだ、目が覚めたらどこかへ飛んでいってしまうかもしれない。でも、今はその不確かさが、この上なく愛おしい。
俺は空中で彼女の柔らかな体温に身を委ね、深い、深い眠りへと落ちていった。
やはり、世界は丸いほうがいい……











