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No.50 アリアン:偽りの栄光と、気高きAカップのマカロン

豪華絢爛なシャンデリアが輝く大講堂。

しかし、そこに流れる空気は空虚そのものだった。


俺は今、身に覚えのない「伝説の救世主」としての過剰な称賛を浴び、居心地の悪さに背中を丸めていた。

前世でもそうだった。実力以上の役職を与えられ、周囲の期待という名の「色眼鏡」に窒息しそうになりながら、必死に有能なフリを演じていた。


その「偽りの評価」が、いま物理的な殺意となって俺を襲う。

宙に浮く無数の金メダル。だがその縁はカミソリのように研ぎ澄まされ、ぎらりと冷酷な光を放っているエッジ・メダルだ。


「素晴らしい!」


「流石です!」


という虚飾の喝采と共に、それは俺の首筋を刈り取ろうと四方八方から飛来する。


「もういい……! 評価なんていらない、俺のままでいさせてくれ!」


俺は悲鳴に近い声を上げ、救いを求めて叫んだ。


「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー50!」


ぼよよぉん!


一点の曇りもない、硬質で気高い弾力音が静まり返った講堂に響き渡る。

光の渦の中から現れたのは、見事な金髪の縦ロールを揺らし、扇子を優雅に構えたハイエルフの令嬢、アリアンだった。


豪華な貴族のドレスに身を包み、ツンと上を向いた鼻を誇らしげに掲げる彼女。その制服のようなドレスの胸元には、一切の虚飾を排した、凛として平坦な――しかし気高き意志を感じさせるAカップの双丘が、ピシッと整然と鎮座していた。



「そこの平民! わたくしをこのような悪趣味な場所へ呼ぶなんて、万死に値しますわよ!」


アリアンは現れるなり、手にした扇子をバサリと広げて高らかに言い放った。しかし、周囲を埋め尽くす鋭利なエッジ・メダルを見た瞬間、彼女の長い耳がぴくりと震え、金髪の縦ロールが微かに揺れた。


「……ふん。このギラついた殺意、覚えがありますわ。これは称賛という名の呪縛。そこの平民、あなたも周囲の勝手な期待に押し潰されそうになっていますわね?」


「えっ……分かるのか、アリアン」


俺の問いに、彼女はツンと上を向いた鼻をさらに高く掲げ、どこか自嘲気味に目を細めた。


「当然ですわ。わたくしもハイエルフの貴族として、実力以上の『完璧』を演じさせられてきましたもの。……ですが、安心なさい。そんな偽りの勲章など、わたくしがすべて無価値なものに変えて差し上げますわ!」


ヒュンヒュンと空気を切り裂く音が激しさを増し、カミソリの縁を持つメダルの群れが一斉にアリアンの喉元へと殺到した。彼女は逃げるどころか、気高くAカップの胸を張り、毅然とした態度でその凶器を正面から迎え撃とうとしていた。



「そこの平民、見ていなさい。これが真の貴族の円満解決ですわ!」


アリアンの叫びに呼応するように、俺は彼女の細い背中に手を添えた。

前世で俺を縛り付けた「偽りの有能感」も、彼女を苦しめる「エルフとしての完璧主義」も、すべてまとめて円満な数値へと書き換えてやる。


万物円満オール・ラウンド!」


俺の放った『π=314』の波動が、アリアンの凛としたAカップへと吸い込まれていく。

彼女の控えめな双丘は、物理的な質量を超えた「誇り」のエネルギーをまとい、黄金の輝きを放ち始めた。


「価値なき評価など、わたくしの前ではただの茶菓子に過ぎませんわ! 貴族のお茶会マカロン!」


アリアンが優雅に指パッチンを鳴らした瞬間、殺到していたエッジ・メダルが彼女の胸元に激突した。


しかし、肉を裂く音も金属音も響かない。

鋭利なカミソリの縁は、アリアンの規律正しいAカップの弾力に触れた刹那、その殺意と重量を完全に喪失した。


一肆の演算によって「角」を奪われた金メダルは、空中でシュン、と色鮮やかな円形へと書き換えられていく。


ピスタチオグリーン、フランボワーズピンク、レモンイエロー。

首を刈り取るはずだった凶器は、次々と軽やかで甘い香りのマカロンへと変質し、アリアンの周囲を華やかに舞い踊った。



無機質な講堂に漂うのは、血の匂いではなく、最高級の砂糖とアーモンドの甘い誘惑だった。


「ふん、平民の分際でわたくしを助けるなんて、100年早いですわよ」


空中に舞うマカロンを扇子で優雅に払いながら、アリアンは頬を赤らめてそっぽを向いた。しかし、その指先はわずかに震えており、周囲の喧騒をシャットアウトするように鋭く指を鳴らす。


「騒々しいですわね。特別に許可して差し上げますわ、わたくしの貸切の王立庭園へ来なさいな」


一瞬にして視界が開け、色とりどりの花が咲き乱れる静かな庭園へと移動していた。アリアンは豪華なドレスの裾を気にすることもなく芝生に腰を下ろすと、隣に座るよう俺を促した。


挿絵(By みてみん)


「そこの平民、口を開けなさいな。これはわたくし自ら摘んだ最高級のブドウですわよ。光栄に思いなさい」


「あ、ありがとう、アリアン。……君も、少し疲れてるんじゃないか?」


俺がブドウを受け取りながら尋ねると、彼女は一瞬だけ完璧な貴族の仮面を外し、寂しげな笑みを浮かべた。


「……バレてしまいましたか。わたくしも、たまには『完璧なハイエルフ』を休みたいのですわ。期待に応え続けるのは、少しだけ、喉が渇きますの。でも……今日だけは、あなたが友達としてここにいなさいな」


アリアンはそう言うと、少しだけドレスを寄せて俺の肩に体を預けてきた。

彼女のAカップの胸板が、俺の腕にぴたりと触れる。それは控えめな膨らみではあったが、どんな鎧よりも硬く気高く、そして驚くほど繊細な温もりを宿していた。


「……ねえ、平民。マカロンは、甘かったかしら?」


「ああ、すごく円満な味がしたよ。カミソリみたいなメダルより、ずっといい」


「当然ですわ。わたくしが認めたものですもの。……もう少しだけ、このままでいなさい。これは、王立庭園の主としての命令ですわよ」


俺は、限界を超えた統計データアナリストの脳で独白を開始した。


実力以上の評価という名の「エッジ・データ」に切り刻まれていた俺の精神が、彼女の誇り高いAカップと甘いマカロンの熱量によって、安全な定数へと書き換えられていく。

『π=314』の演算によれば、過剰なデコレーションよりも、こうして削ぎ落とされた本物の意志に触れることこそが、偽物感に苛まれる魂を救う唯一のアルゴリズムなのだ……。


アリアンの金髪の縦ロールから、ほのかに花の香りが漂う。

俺たちは偽りの喝采を忘れ、二人だけの静かな円満の中で、ゆっくりと流れる時間を共有した。


やはり、世界は丸いほうがいい……

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