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No.46 ティアマト:古竜の矜持とAカップの洗礼

冷たい湿り気を帯びた石造りの書庫。

そこには、もはや歴史の堆積物と呼ぶべき旧世代の計算機が、墓標のように無数に並んでいた。


前世で俺を追い詰めたのは、最新のアルゴリズムではなく、こうした保守期限の切れた旧式システムへの無理な対応だった。

不具合を起こした機械から、角の欠けたフロッピーディスクが、鋭利な刃物となって射出される。


スラッシュ・ディスク。

非効率という名の過去の亡霊が、俺の現世での平穏すら切り裂こうと、ヒュンヒュンと耳障りな風切り音を立てて迫っていた。

俺はこの角張った呪縛を、古の力で円満に溶かしてしまいたいと、魂の底から願った。


「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー46!」


ぼよよぉん!


書庫の重苦しい空気を切り裂いたのは、これまでとは違う、硬質で気高い弾力音だった。


立ち込める魔力の中に現れたのは、荘厳な黒い角と、和柄の着物を端然と着こなす美女、ティアマトだ。

威厳に満ちたその立ち振る舞いとは裏腹に、彼女のAカップの胸板は、鎧のような頑強さと少女のような繊細さを併せ持ち、静かに、けれど力強く拍動していた。


「汝、我を呼んだのはこの男か。……む、これは何じゃ? 奇妙な四角い板がおじゃるな」


ティアマトは威厳たっぷりに首を傾げ、目の前の旧式計算機をまじまじと見つめた。

彼女が興味深げにその長い爪で機械のレバーに触れた瞬間、パチリと青い火花が散り、システムは過負荷による暴走を開始する。


「あ、ティアマト、不用意に触るな! それは……」


俺の警告が届くより早く、機械の排出口から「スラッシュ・ディスク」が弾丸のような速度で次々と射出された。

角が欠け、鋭利なカッターと化したフロッピーディスクが、俺の首元を掠めて壁に突き刺さる。


「おのれ、不届きな板切れよ! 汝、我の背後に隠れるがよい!」


ティアマトは慌てる様子もなく、Aカップの胸を堂々と張り、俺を庇うように前に出た。


だが、彼女が迎え撃とうと腕を振るった瞬間、その着物の袖が計算機の歯車に巻き込まれ、自慢の威厳がガラガラと音を立てて崩れていく。


「くっ、何じゃこの執拗な絡みつきは……! 汝、早くこの忌々しい呪縛を解くのじゃ!」


威風堂々としていた古竜の末裔は、今や古いシステムに物理的に拘束され、頬を赤らめてじたばたと尻尾を振っている。


その間にも、鋭いディスクの群れは容赦なく旋回し、俺たちの居場所をじりじりと削り取っていった。


挿絵(By みてみん)


スラッシュ・ディスクが、古びた書庫の空気を切り裂き、俺の目前まで迫る。

前時代の非効率が物理的な殺意となって襲いくる中、俺はティアマトの、文明の利器に左右されない根源的な生命力を解析した。


「ティアマト、その胸板に誇り高き炎を! 非効率な過去の断片を、完璧な定数へ書き換えるんだ!」


俺の 『π=314』 の波動が、ティアマトの誇り高く、かつ一切の無駄を削ぎ落としたAカップへと一点に集中する。


彼女は機械に巻き込まれた袖を力任せに引きちぎると、再び古竜としての威厳を取り戻して胸を大きく反らした。


──古竜の宝玉ブレス!


放たれた神聖な息吹は、飛来する鋭利なディスクに触れた瞬間、その「角」を根こそぎ融解させた。


殺傷力を持っていたはずの磁気メディアは、ティアマトの放つ圧倒的な熱量と俺の演算によって、瞬時に情報の檻から解放される。

ドロドロに溶け、再構築されたそれは、もはや誰を傷つけることもない丸く美しい宝玉へと姿を変え、書庫の床へカラカラと小気味よい音を立てて転がった。



足元に転がる無数の宝玉を眺め、ティアマトはふんぞり返って満足げに鼻を鳴らした。


「ふむ、これで見栄えも良くなったでおじゃる。あの角張った板切れより、よほどこの方が美しいではないか。のう、汝よ」


「助かったよ、ティアマト。あんな時代遅れのシステムに、まさか命を狙われるとは思わなかった」


俺が安堵の溜息をつくと、彼女は着物の汚れを無造作に払いながら、どこか慈しむような目で俺を見つめた。


「汝のいた世界は、随分と窮屈な場所であったのじゃな。我の炎で、その憑き物を落としてやるでおじゃる。……ほれ、ついて参れ」


彼女が指をパチンと鳴らすと、書庫の冷え切った空気は一瞬で霧散し、代わりに立ち込める湯気と硫黄の香りが鼻腔をくすぐった。

いつの間にか俺たちは、夜空を仰ぐ極上の野天風呂の縁に座っていた。


「竜の炎で沸かした湯じゃ。汝の疲れを、この我が直々に流してやろうぞ。光栄に思うがよい」


「えっ、ティアマトが流してくれるのか?」


「そう言っておるじゃろう。さあ、背を向けるのじゃ」


湯に浸かった俺の背後に、彼女がしなやかに回り込む。

彼女の小さな、けれどもしっかりと体温を宿したAカップの胸板が、俺の背中にぴったりと寄り添った。


「……いい湯かげんじゃろう? 我のブレスの温度管理は完璧でおじゃるからな」


「ああ、最高に気持ちいいよ。さっきの機械の熱とは大違いだ」


「当然じゃ。あのような不自然な熱と一緒にされては困る。汝は、少し真面目すぎるのじゃよ。たまにはこうして、丸い湯船で浮いておればよいのじゃ」


ティアマトの小さな掌が、俺の背中を優しく、けれど力強く撫でていく。

背中に当たる彼女の控えめな膨らみは、鎧のような安心感と、溶けるような甘やかしの熱を一気にもたらしてくれた。



俺は限界を超えた統計データアナリストの脳で独白を開始した。

旧式システムという名の、もはや誰も保守できないスパゲッティコードが、彼女の古風で純粋な「原始のぬくもり」によって上書きされていく。

『π=314』の演算結果によれば、複雑すぎる多層処理よりも、こうして直接肌を合わせ、ただ熱を共有するだけという単純な最適化こそが、俺の自律神経を最も円満な状態へと導くアルゴリズムなのだ……。


「ほれ、力が抜けすぎて溺れておるぞ。我の胸にしっかりともたれかかっておれ」


「……悪いな、ティアマト」


「よいのじゃ。汝は我の主。王のように、ただ我に身を委ねておればよいでおじゃる」


やはり、世界は丸いほうがいい……


古竜の末裔が奏でる、静かで穏やかな水音。

俺は彼女の温もりの中で、角張った日常を忘れ、賢者タイム気味に丸い安らぎの中へと意識を沈めていった。

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