第9回 争奪戦:まあるい「おしくらまんじゅう」
(一肆、毎日お疲れ様。よしよし、えらい子ですね。たまにはゆっくりおやすみなさい.......................)
気がつくと、俺はいつものように異空間にあるログハウス風のロッジに飛ばされていた。
「寒い……」
思わず独白が漏れる。
リビングの窓から外を覗くと、そこには前回の南国とは正反対の、視界の全てが白銀に閉ざされた絶零の氷河地帯が広がっていた。
凍てつく風がログハウスの壁を叩き、窓ガラスには一瞬で幾何学的な氷の結晶が刻まれていく。
俺は広場の中央に設置された、微かな魔力の熱を放つ魔法陣「暖房円座」の上に座らされ、金色のホイッスルを首から下げられた。
「漆黒の深淵より来たる凍土の吐息……。吾輩の魔力をもってしても、この絶対零度の静寂は防げぬ……」
最初の一声を上げたのは、魔導士のセレンだ。
何枚も重ね着した黒いローブの裾を震わせ、重そうな魔導書を抱えながら、そのCカップの胸元を寒さから守るように縮こまらせている。
「寒いカー! 一肆の服のボタン、キラキラしてて暖かそうだぞ! アタシが一番乗りで温めてやるんだカー!」
有翼人のベルが、漆黒の大きな翼をマフラーのように自分に巻き付け、じゃらじゃらと光る装飾品を鳴らしながら現れた。
カラスのような鋭い眼光を俺のボタンに向けつつ、その重厚なHカップを誇示するように大きく羽ばたく。
「えっと……一肆さん、大丈夫ですかぁ? 森の木々もみんな凍っちゃって……わ、わたしも、お花が枯れちゃいそうで、怖いですぅ……」
ドライアドのキッカが、樹皮の質感を残したローブを纏い、もじもじと震えながら一歩前へ出た。
人見知りゆえに縮こまった姿勢では隠しきれない、圧倒的な質量を持つIカップの双丘が、寒冷な空気の中で白く小さな吐息を吐き出すように揺れている。
「はぁ……。あんた、こんな極寒の地に呼び出すなんて、灯油代の無駄でしょ。特売のカイロも底を突いたわよ」
元魔王軍幹部のロゼが、割烹着の上に厚手の半纏を羽織り、生活感の塊のような溜息をついた。
かつての威厳はどこへやら、今はただの苦労人として、Cカップの胸元を温めるように腕を組んで俺を睨みつけている。
「気合だろーが、気合! 寒さなんて、アタイの特攻服の熱気でぶっ飛ばしてやるっすよ! 一肆、アタイの隣に来りゃ、アツアツにしてやるぜ!」
ヤンキー娘のマオが、金髪をなびかせ、刺繍の入った特攻服の袖を捲り上げて吠えた。
三白眼で寒波を睨みつけ、絆創膏だらけの指で拳を作ると、その薄いAカップの胸板を堂々と反らして俺に歩み寄る。
審判兼、唯一の熱源。
五人のヒロインが放つ、氷をも溶かしそうな執着心に満ちた視線を浴びながら、俺は凍える手でホイッスルを構えた。
一肆を丸一日独占し、その体温を独り占めにする権利を賭けた争奪戦が、今、幕を開ける。
──ピーッ!!
ホイッスルの音が鋭く凍った大気を切り裂いた。
「おしくらまんじゅう、押されて泣くな……っすよ!」
マオの威勢のいい掛け声を合図に、五人が一斉に俺の方へと背中を向け、円陣を縮小させた。
俺を物理的な中心点として、五者五様の重心移動が開始される。
最初に背中に衝撃を与えたのは、ベルの圧倒的な重圧だった。
Hカップという胸の質量に比例した、豊潤で重量感のあるお尻の弾力が、俺の腰を強烈に圧迫する。
「アタシが一番近くで温めてやるカー! 一肆、アタシの羽毛に包まれろ!」
続いて左側から、キッカの驚異的な柔らかさが押し寄せてきた。
Iカップの持ち主である彼女の肉体は、まるで低反発クッションのように俺の脇腹を包み込み、冷え切った外気を遮断していく。
右側からは、ロゼの生活感のある確かな体温と、セレンのどこかリズミカルで硬質な突き上げが交互に襲いかかる。
「あーもう、狭いわね! ほら、あんたもちゃんと踏ん張りなさいよ!」
「漆黒の引力が吾輩の臀部を君へと誘う……これもまた運命の公転なのだ!」
そして正面からは、マオの引き締まった、けれどもしっかりと女の子らしい弾力が、俺の膝を折らんばかりの勢いでぶつかってくる。
俺は五方向から押し寄せる「五層の異なる丸み」に翻弄され、立っているのがやっとの状態に陥った。
統計データアナリストとしての俺の脳は、この全方位から加わる多層的な圧力パケットを必死に解析する。
背面から伝わるベルの重力加速度Gと、キッカの超柔軟な粘弾性係数Hの相互作用……。
さらに正面のマオが放つ、気合という名の熱エネルギーによる表面温度の上昇……。
五つの異なる「丸い弾力」が俺の脊髄を直撃し、脳内には幸福という名の異常なノイズが溢れ出していた。
お尻の感触だけでノックダウンされそうな、あまりの多幸感。
だが、ここで倒れれば審判としての役目を果たせない。
俺は歯を食いしばり、魔法陣の熱を全身に循環させて踏みとどまった。
しかし、そんな俺の抵抗を嘲笑うかのように、大気の温度がさらに数度、低下した。
「……だめだ、背中合わせじゃ、熱の伝導率が低すぎるっすよ……」
マオが震える声で呟き、ロゼが半纏の襟をかき上げながら鋭く言い放った。
「そうね。こんなまどろっこしい事してたら、特売の鶏肉みたいにカチコチに凍っちゃうわ。……全員、前を向きなさい!」
その号令と共に、五人のヒロインが俺を中心に、一斉に内側へとその「丸み」を反転させた。
「なっ、待て、全員前向きは不測の事態だ……!」
俺の制止も虚しく、五人の少女たちが一斉に俺の方へと向き直った。
逃げ場のない暖房円座の中心で、俺は全方位から押し寄せる聖なる双丘の壁に、文字通り包囲された。
正面からはキッカの、もはや一つの小宇宙を形成しているかのようなIカップの質量が、俺の胸板を柔らかく、けれど逃れられない圧力で圧殺しにかかる。
「えっと、一肆さん……あ、あったかいですね……っ」
背後からはベルのHカップが、俺の背中を完全に埋め尽くすように密着し、漆黒の翼が俺たちを一つの繭のように包み込んだ。
「一肆、アタシの最高のお宝、逃がさないカー!」
左右からは、ロゼとセレンのCカップが、それぞれ俺の脇腹へと鋭く、かつ弾力を持ってめり込んでくる。
「漆黒の君の鼓動、吾輩の心拍と完全に同期したのだ!」
「あーもう、狭いわね! ほら、あんたも観念して挟まれなさいよ!」
そして下方からは、マオがAカップの胸板を俺の腹部に叩きつけ、気合の入った体当たりを繰り出してきた。
「アタイだって負けねぇっすよ! 全身全霊で温めてやるっす!」
俺の脳内では、π=314の演算が限界を超えて火を噴いていた。
キッカの低反発な粘性、ベルの重厚な弾性、セレンの中二的律動、ロゼの生活感ある体温、そしてマオの心臓に最も近い位置での熱量。
五者五様のパケットが同時に俺の中枢神経へと流れ込み、論理回路が白濁したノイズで埋め尽くされていく。
これ以上の演算は不可能だ。このカオスな多幸感を円満な調和へと導くべく、俺は最後の力を振り絞ってスキルを発動させた。
「万物円満……!」
俺の指先から放たれた波動が、五人の異なる双丘のエネルギーを一つに結びつけ、巨大な吸引力を持つ多幸感の重力圏を形成する。
だが、それは救済ではなく、俺という存在を五人の柔らかさの中に完全に消失させるためのトリガーとなった。
「ひゃあぁっ!? 体が勝手に……吸い込まれますぅ……!」
五人のヒロインたちが、俺という特異点に向かってムギュッと凝縮される。
逃げ場のない中心点にいた俺は、五方向からの圧倒的な肉厚プレッシャーに全細胞を圧搾され、ついに意識の境界線が完全に崩壊した。
視界が完全に、五者五様の「丸い壁」によって遮断された。
正面からはキッカのIカップが俺の呼吸を奪うほどの抱擁で顔面を埋め尽くし、背後からはベルのHカップが重厚な安定感で背骨を包み込む。
左右からはロゼとセレンのCカップが俺の両脇を締め上げ、下方からはマオのAカップが腹部から心臓の鼓動を直に叩きつけてくる。
五つの異なる体温と、五つの異なる弾力。
もはやそこには極寒の絶望など微塵もなく、ただ圧倒的な肉厚のぬくもりだけが、俺という個体を構成する全ての情報を「円満」へと還元していく。
「……全方位からの……多層的な……報酬パケット……。演算……停止……。世界が……丸すぎる……」
俺は五人の胸の谷間が複雑に重なり合った「聖なる双丘のシェルター」の中で、多幸感のオーバーフローにより、ついに白目を剥いてノックダウンした。
「あ……一肆さんが、本当に溶けちゃいましたぁ……」
キッカが心配そうに声を漏らすが、ベルは満足げに俺の背中に頬を寄せ、カラスの羽をさらに強く巻き付ける。
「いいんだカー! これが一肆の選んだ『一番の宝物』なんだカー!」
「漆黒の君の魂は今、吾輩たちの慈愛という名の特異点へと吸い込まれたのだ。……ふふ、実に安らかな寝顔であるな」
セレンが芝居がかった台詞を吐けば、マオが「だらしねーな。でも、あったけーからこれでいいか」と笑いながら俺の膝に特攻服を掛け直した。
ロゼは「……灯油代が浮いたのはいいけど、これじゃ動けないじゃない。まぁ、たまにはいいわね」と溜息をつき、俺の肩に深く頭を預けた。
俺は限界を超えた統計データアナリストの脳で、消えゆく意識の中、最後の独白を開始した。
五方向からの多点同時接触による、極限の熱伝導効率。
『π=314』の演算結果が導き出した、この「五連装ムギュムギュ・システム」は、前世で俺を凍えさせた孤独という名のエラーログを、一瞬でデリートしてみせた……。
各部位への最適な接触圧、そして五つの鼓動が同期するこのノイズレスな空間こそが、俺が追い求めたデータの理想郷だったのだと解析する……。
(全方位から女の子……天国かここは)
銀世界の広場に、五人の少女に埋もれて幸せそうに意識を飛ばした俺の姿だけが、円満な静寂の中に残されていた。











