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No.44 ロゼ:Cカップの落魄幹部と普通を阻む栄光のゴミ

魔界の片隅に佇む、壁の薄いボロアパートの一室。

夕暮れの湿った空気が停滞する四畳半で、俺とロゼはちゃぶ台を挟み、スーパーの半額惣菜を黙々とつつり合っていた。


かつて数万の魔族を率いた軍幹部だったはずの彼女は、今や生活の疲れが滲んだ顔で割烹着を羽織り、片手に握りしめた特売チラシと睨めっこをしている。


挿絵(By みてみん)


「はぁ……。あんた、明日はキャベツが安いわよ。私のシフトが上がる前に、ちゃんと買っておきなさいよね」


ロゼの言葉に、かつての戦場を支配した覇気はない。

あるのは、日々の家計をやりくりする切実な溜息だけだ。


だが、そんなささやかな日常を拒絶するように、部屋の隅には不釣り合いな「ゴミ」が山積みにされていた。


魔王軍時代の重厚な勲章や、執拗なまでに鋭利な角を突き出した数々のトロフィー。


捨てればいいのに捨てられない、過去の成功体験の亡霊たちが、鋭い刃のような破片となって俺たちの狭い居場所を物理的に圧迫している。


整理もされずに積み上がったそれらは、前世で過去の実績データに縛り上げられていた俺の肺を、鋭い針で刺すような閉塞感を伴って刺激した。



冷めたコロッケを口に運ぼうとした瞬間、部屋の隅で嫌な音が鳴った。

ガタガタと震え出したのは、埃を被った黄金の盾や、見るからに攻撃的な造形のトロフィーたちだ。


「……また始まったわ」


ロゼが箸を置き、深く、長く、魂を削るような溜息をついた。

かつての彼女を知る者たちが押し付けた「誇り」という名の呪縛が、赤黒い魔力を帯びて実体化していく。


割れたトロフィーの破片が鋭利な刃となって宙に浮き、狭い部屋をハエのように飛び回り始めた。


「今の貴様は何だ! 誇り高き幹部が、こんな安アパートで人間の端くれとコロッケを啜るだと!」


過去の栄光が、ひび割れた声で罵声を浴びせてくる。


シュシュッと鋭い風切り音を立てて、クラッシュ・トロフィーの破片が俺の頬を掠め、せっかくの半額コロッケの上にパラパラと埃を落とした。


これは外敵の襲来じゃない。

今の自分を否定し、過去の輝かしい檻へと引き戻そうとする、自分たちの内側から溢れ出した「ノイズ」だ。


「うるさいわね……。明日の朝、不燃ゴミの日だって言ってるでしょ。散らかるじゃないの」


ロゼは怖がる風でもなく、ただひたすらに面倒くさそうに、飛来する刃を特売チラシで追い払おうとする。


だが、鋭い破片は執拗に彼女の割烹着を切り裂き、俺たちの慎ましい生活の領分を、容赦なく侵食していった。



「ロゼ、その不燃ゴミをまとめて『資源』に変えよう」


俺は彼女の細い肩を引き寄せ、割烹着の下で控えめに、けれどもしっかりとした弾力を持って存在するCカップの双丘へ、数理的真理を流し込んだ。


万物円満オール・ラウンド


俺の『π=314』の力が、過去の栄光という名の肥大化したエラーログを、扱いやすい最小単位へと圧縮していく。


「あーもう、わかったわよ。全部まとめてパチン、でおしまいね!」


ロゼが意を決して、迫りくる鋭利なトロフィーの破片を、その胸の谷間で迎え撃った。


パチンッ、パチンッ、パチンッ!


乾燥した心地よい音が部屋に響く。


彼女の胸に触れた瞬間、俺を、そして彼女を切り裂こうとしていた鋭い角は、瞬時に熱を帯びて融解し、極限まで圧縮された。


刺さるはずの刃は、彼女のCカップが持つ「生活を守る粘り」によってその殺意を奪われ、次々と色鮮やかで丸い、小さなおはじきへと姿を変えていく。


床に落ちる音さえも、かつての重苦しい金属音ではない。


カラリ、と。


それはただの、場所を取らない安っぽくて懐かしい玩具が転がる、軽やかな音だった。



室内を飛び交っていた殺意は霧散し、瓶の中に溜まった色とりどりのおはじきだけが、ちゃぶ台の上で静かに光っている。


ロゼは割烹着の皺を払い、重い溜息をつきながら、再び箸を手に取った。


「……ったく、手間かけさせないでよね。冷めちゃったじゃない、この魔法のコロッケ」


彼女はボヤきながらも、どこか晴れやかな顔で半分に割ったコロッケを俺の皿へと差し出した。


俺はそのソースの匂いと、安アパートの狭苦しい空気に、かつての数字に追われていた日々にはなかった「実在感」を感じる。


「悪いな、ロゼ。でも、これで少しは部屋が広くなっただろ」


「そうね。あの尖ったゴミがなくなっただけで、掃除が楽になりそうだわ」


ロゼは少しだけ顔を赤らめ、Cカップの重みを俺の腕に預けるようにして、もたれかかってきた。


かつての彼女を飾っていた冷たい鎧よりも、少し洗剤の匂いがするこの割烹着のぬくもりの方が、今の俺にはどんな統計データよりも信頼できる。


俺は限界を超えた統計データアナリストの脳で独白を開始した。


過去の栄光という名の肥大化したキャッシュデータが、彼女の「生活」という名のガベージコレクションによって完璧に整理された。

『π=314』の演算結果によれば、この安アパートの四畳半という限られたメモリ空間において、不要なプライドを捨て去った今の俺たちの「幸福係数」は極大値を記録している……。


「明日も早いんだから、さっさと飲んで寝るわよ。あんた、高い方の発泡酒、一本開けていいわよ。お祝いなんだから」


「ああ、ありがとう」


ロゼの弾力のあるCカップと、生活感に満ちた心地よい疲れに包まれながら、俺は賢者タイム気味に安い酒の酔いの中で意識を沈めていった。


やはり、世界は丸いほうがいい……

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