No.35 ニナ:情報遮断の毛布とDカップの完全防音室
(あれ、俺はこんな暗い部屋で何やってんだろう……)
日の光が一切入らない、完全防音のゲーミングルーム。
俺はゲーム画面の淡い光に照らされた記憶を、必死にさかのぼってみた。
前世から続く情報過多と眼精疲労で限界を迎え、とにかく何も考えずに癒やしてもらおうとニナを召喚したのだ。
しかし、彼女は言葉少なに俺の腕を掴むと、いきなり自分の引きこもり部屋へと連れ込み、有無を言わさずコントローラーを握らせてきたのだった。
(そうだ、あれからずっとこの部屋で、何時間もゲームしてるんだっけ……)
現実逃避のまどろみの中、分厚い毛布を被った隣からダウナーな声が響く。
「一肆氏、そこ右だわ。エイムがガバガバで草」
ダボダボのジャージ姿の吸血鬼、ニナが、俺の腕にDカップの胸を密着させながら文句を言ってくる。
ゲームの世界に完全に没入しかけたその時、俺のポケットで情報端末が震えた気がした。
前世の、四六時中画面を見続け、連絡に即レスしなければならないという強迫観念が、現実の平和を侵食し始める。
俺が思わず端末を取り出し、画面の強烈なブルーライトを浴びてしまった瞬間、トラウマが実体化した。
──ファントム・バイブレーション・シンドローム
部屋の空間が歪み、無数の魔物、スクエア・モニターが空中にポップアップする。
鋭角なモニターたちは俺たちを取り囲み、未読メール、ニュース速報、通知音といった処理しきれない情報の濁流を無限に浴びせかけ、精神のメモリをすり減らそうとしてくる。
「まぶしいわ……ニナの目が死ぬ……」
日光に等しい強烈なブルーライトと情報量に、吸血鬼のニナはジャージの萌え袖で顔を覆ってうずくまってしまった。
俺は情報を処理しようとモニターの電源を探すが、消しても消しても情報は無限に増殖し、脳はフリーズ寸前まで追い込まれる。
なすすべをなくしたその時、うずくまっていたニナが俺の腕を強く引き、分厚い毛布の奥底へと無理やり引きずり込んだ。
「ウザいだわ。リアルなんて、所詮はバグだらけのクソゲーだわ。一肆氏、さっさとログアウトしろ」
すべての情報を処理するのではなく、完全に遮断する。
その引きこもりの極意に気づかされた俺は、毛布の暗闇の中で魂のスキルを発動した。
「万物円満!」
俺の『π=314』の力が、ニナの丸いエネルギーを百倍に増幅させる。
「包み込め、漆黒を纏いしマント!!」
百倍のエネルギーを得たニナが中二病全開で叫ぶと、二人を包む分厚くふかふかな毛布が絶対的な防壁となり、外部からのブルーライトも通知音も完全に遮断した。
誰にも見られなくなったスクエア・モニターたちは、情報を押し付ける先を失って部屋の片隅で勝手にショートしていくが、結界の中の俺たちの耳にはもうそのエラー音すら届いていない。
外部の存在など完全に忘却した毛布の中は、ニナの甘いシャンプーの匂いだけが充満する、狭くて温かい密室になっていた。
俺の背中には、ジャージ越しのDカップの柔らかな双丘がこれでもかと押し当てられている。
「よそ見したらペナルティだわ……。 ニナの体温だけ感じてればいいんだわ……」
「ごめん、ニナ。 なんか、外のノイズが気になっちゃって……」
「リアルにマジレスするなんて情弱の極みだわ……。 ほら、一肆氏のHP、もう赤ゲージで草。ニナが回復してやるんだわ……」
そう言うと、ニナは俺の背中にDカップをさらに強く押し付けてきた。
彼女が呼吸をするたびに極上の弾力が背中の形に合わせて形を変え、色白でひんやりとした彼女の細い腕が俺の首元に巻き付く。
「すげぇ、柔らかい……なんか、嫌なこと全部飛んでいきそう……」
「飛んでいくんじゃなくて、完全にシャットアウトするんだわ。ここはニナと一肆氏だけの、絶対安全なセーブポイントだし」
耳元で囁かれるダウナーで甘い声。
肩には彼女の頬がすり寄るように乗せられ、コントローラーを握る俺の手に、彼女の小さな手が重なった。
「ほら、ボス戦始まるんだわ……。ニナの胸で癒やされながら、しっかりサポートするんだわ……」
「ああ、任せろ。もう画面のポップアップなんか、一つも見えないからな」
「ニナだけ見てれば、全部うまくいくんだわ……」
社会のノイズを完全にシャットアウトした極小の密室で、彼女のDカップの質量と依存的な温もりに全身を委ねながら、俺たちはただ一つのゲーム画面だけを見つめていた。
俺は限界を超えた脳で独白を開始する。
四六時中押し寄せる情報過多という過剰な入力データが、毛布という絶対的な物理ファイアウォールによって完全にパケットロスされている……!
そして、背中に密着するDカップの接触圧と、彼女の体温という単一の極上データのみが脳内メモリを独占し、自律神経のパラメーターが完璧な引きこもり状態へと最適化されていく……!
「ニナの部屋……すげぇ落ち着く……もう一生、ここから出なくていいや……」
「……ん。ずっとニナと一緒に、ダメ人間になるんだわ。明日も明後日も、ずっとニナの胸の中でゲームするんだわ……」
外部の脅威がどうなったかなど完全に頭から抜け落ち、俺はDカップの暴力的な柔らかさと毛布の温もりに自我を溶かされながら、終わらないゲームの夜へと深く沈んでいった。
やはり、世界は丸いほうがいい……











