No.29 テラ:Gカップのどろんこセラピー
アナログな承認プロセスという無意味なバイナリデータは、人間の創造性を根こそぎ奪い取っていく。
前世の俺は、内容ではなく形式だけを重んじる書類の山と、ハンコのためのハンコを要求する徒労感に、精神のキャッシュクリア不良を起こしていた。
俺は今、息をするのも困難なほど山積みになった石板の底で這いつくばっている。
ここは、形式主義の呪いによって生み出された魔物、却下のゴーレムが支配する徒労の墓場。
見上げれば、天井を覆い尽くすほどの巨大な四角い印鑑の雨、ハンコ・キューブが、俺の存在意義そのものをペシャンコに押し潰そうと迫り来ている。
あんな形式だけの重圧で、再び俺の価値が否定されてたまるか。
俺は肺に残った最後の空気を振り絞り、絶望と共に魂の呪文を叫んだ。
「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー29!」
ぼよよぉんっ!
重苦しい空気を泥のように跳ね除け、次元の弾力境界が分厚い音を立てて突破された。
現れたのは、大きめの麦わら帽子を目深に被り、泥だらけのオーバーオールを纏った大地の精霊、テラだった。
のんびりとした瞳の下には、オーバーオールの金具を引きちぎらんばかりに主張する、規格外のGカップの双丘がどっしりと鎮座している。
「こんな四角い石っころ、ちっとも面白くないべ。一肆くんも、一緒に土いじりするだ」
「テラ、遊んでる場合じゃない! 上が、上が潰れてくる!」
俺の悲鳴などどこ吹く風で、テラはその場にぺたんと座り込み、足元の土に水を混ぜて呑気に泥団子を作り始めてしまった。
その間にもゴーレムの放つ無数のハンコ・キューブは周囲の石板を取り込み、巨大な四角い城壁となって俺たちを完全に包囲する。
ガコン、ガコンと無機質な音を立てながら、四方八方、そして頭上から、絶対的な「却下」の壁が迫り来る。
逃げ場はない。あと数秒で、俺もテラも形式主義の壁にミンチにされる。
絶体絶命の死の恐怖の中、俺は祈るような気持ちで魂のスキルを発動した。
「万物円満!」
俺の『π=314』の力が、テラの丸い大地のエネルギーを百倍に増幅させる。
「できたべ! 特大の泥団子だ!」
百倍のエネルギーを受けたテラが両手で泥団子を掲げた瞬間、それは単なる泥の塊ではなく、圧倒的な大地の生命力そのものへと変貌した。
ドォォォォン!!
テラのGカップの揺れに呼応するように、泥団子は爆発的に膨張し、俺とテラを完全に包み込む超巨大なドーム『どろんこマッドボール』を形成する。
迫り来ていた鋭利な石の城壁は、この巨大な泥のドームに触れた瞬間、グズグズと音を立てて崩れ落ちた。
形式ばった硬いロジックが、大地の果てしない包容力に飲み込まれ、すべてが温かく柔らかな泥の一部へと強制的に同化していく。
圧倒的な物量による圧殺のピンチは、規格外の泥遊びによって完全に無害化されてしまったのだ。
城壁が崩れ去り、ドームの中には豊かな土の香りと、じんわりとした地熱のような温かさだけが残った。
へたり込む俺の体を、テラはふくよかな腕で抱き寄せ、そのまま泥のベッドへとゆっくり押し倒す。
「怖い思いさせてごめんだべ。でも、もう大丈夫だ。土は全部、優しく受け入れてくれるだよ」
テラは温かいミネラルたっぷりの泥を両手にすくい、俺の強張った顔や首筋、腕へと丁寧に塗っていく。
ひんやりとしているのに、体の芯からポカポカと温まっていく不思議な感覚。
そして何より、俺の顔のすぐ横には、泥だらけになったテラのGカップの巨大な双丘が、暴力的なまでの柔らかさで密着していた。
彼女が泥を塗るために腕を動かすたび、オーバーオール越しに伝わる豊満な果実の重みと弾力が、俺の体に押し付けられては形を変える。
泥の温熱効果と、母なる大地そのもののようなGカップの圧迫感。
体内に蓄積していたアナログな承認プロセスという無意味な毒素が、毛穴という毛穴から泥の中へと根こそぎ吸い出されていくのがわかる。
「人間も、形式ばったことなんて忘れて、泥んこになればいいだ。一肆くんの疲れ、オラが全部吸い取ってやるからな」
「テラ……すげぇ、気持ちいい……体全体が、溶けそうだ……」
「ふふっ、ええ子だべ。もっとオラに甘えていいだよ」
テラは俺の頭を胸の谷間に深く抱き込み、泥まみれの手で優しく髪を梳き始めた。
精神のデトックス効果が限界を突破し、俺の意識は泥のようにトロトロととろけ出していく。
理不尽な重圧も、冷たい石の壁も、ここにはもう何一つ存在しない。
「やはり、世界は丸いほうがいい……」
大地の精霊の底なしの包容力と、Gカップのぽかぽかなどろんこセラピーに完全に自我を溶かされながら、俺は賢者タイム気味に至福の微睡みへと落ちていった。











