第5回 争奪戦:まあるい「なかあて」
(一肆、毎日お疲れ様。よしよし、えらい子ですね。たまにはゆっくりおやすみなさい...........................)
その日、俺の脳内で女神様の声が聞こえた。
……なんだろう、いつもと変わらない女神様のご褒美タイムの合図。俺のデータアナリストとしての思考回路が、遠ざかる意識の中で、ほんの少しだけ違和感を感じていた。それが何かはわからないが、何かがおかしい気がする。
「……まあいっか、待ちに待ったご褒美タイムだ!」
次に気がついたときには、異空間にあるロッジの、まあるく白線が引かれた体育館のような広場に立っていた。
目の前にいるのは、マシロ、フローラ、シフラ、デュラ、ヒストリア。
俺の心をまあるく溶かしてくれた恩人たちだが、今回は雪女、アルラウネ、ミミック、首なし騎士、本の精霊という、物理法則も生態系もガン無視のメンバーだ。
俺がふかふかのマットの上で休息を満喫しようとしていると、5人が誰が俺を一番甘やかして骨抜きにするかで口喧嘩を始めてしまった。
埒が明かない状況を見かねたデュラが、自身の頭をポンポンと手のひらで弾ませながら提案する。
「いい案がある……『なかあて』で決めようではないか。当てた者が、主の休息を独占する権利を得るのだ」
シフラが強欲そうな瞳を瞬かせて尋ねる。
「面白そうですけど、ボールなんてどこにありますの?」
するとデュラはドヤ顔で、小脇に抱えていた自分の頭を高く掲げた。
「これだ!」
かくして、俺が円の中央である内野に立たされ、5人が円の外を取り囲むという狂気のゲームが幕を開けた。
生きたデュラの頭をボールとして投げられるという事実に戦慄するが、女の子たちはすっかりやる気満々だ。
まずボール(デュラの頭)を手にしたのは、雪女のマシロだった。
「一肆、当たったら一緒に冷たくひきこもろぉ……えいっ」
気だるげなダウナーボイスとは裏腹に、雪女の冷気を纏った絶対に避けさせない超高速の氷結ストレートが飛んでくる。
俺は前世で培ったデータアナリストの予測演算をフル稼働させ、間一髪でその軌道を回避した。
ボールはそのままフローラの手へと収まる。
「うふふ、私の可愛い苗木ちゃん。逃げちゃめっ、よぉっ」
おっとりとした声と大輪のFカップを揺らしながら、重戦車のような凄まじい威力の重いボールが投げ込まれる。
俺は必死に身を捩って躱し、思わず叫んだ。
「お前ら、愛の言葉吐きながら俺を殺す気か!?」
俺の悲鳴に、外野の女の子たちは極上の笑顔で返す。
「大丈夫ですわっ! もし骨が折れても、私の箱の中で一生保護して差し上げますから!」
「ええ、痛い記憶は私がすべて優しい童話に書き直してあげます」
シフラが強欲なカーブを投げ、俺はマットの上を転がって必死に避ける。
ドスッ、バシュッという鈍い着弾音と、デュラの「うむ、目が回るな」という間抜けな感想が体育館に響き渡る。
そして4人目、ヒストリアがボールを構えた。
大図書館の司書である彼女は、俺のこれまでの回避データと疲労度を完璧に計算し、絶対に避けられない死角への放物線を描いてデュラの頭を投げ放った。
「計算通りです。これで一肆様は私の……」
「やばい!これは避けられないっ!?」
ボールが俺の体に直撃する寸前。
突如、外野にいた首なしのデュラの本体が腕を引いた。
デュラハンの首回収スキルにより、ボールは空中で不自然にUターンし、デュラ本体の手の中へとスッポリと収まったのだ。
「ズルですわ! 今のは完全に当たってましたわよ!」
「計算外の物理法則です!」
外野からブーイングが飛ぶが、デュラは一切スルー。
そして、Hカップの超質量をダイナミックに揺らしながら、すかさず俺の顔面に向けて自らの頭を全力投球した。
「もらったぞ、一肆!」
ヒストリアの投擲を避けるために体勢を崩していた俺は、もはや反応できず、顔面へと飛来するデュラの頭を受け止めるしかなかった。
──むちゅっ
しかし、激突の痛みはなかった。
飛んできたデュラの頭は、俺の顔面にぶつかる寸前で空中で静止し、そのまま俺の唇に柔らかく自らの唇を重ね合わせたのだ。
デュラは最初から、俺の唇を奪うためにこのゲームを仕組んでいたのである。
「なっ……抜け駆けですわ!」
「顔面はセーフでしょ! 無効だよぉ!」
デュラの策に気づいた4人が、ルール違反を主張しながら一斉に俺へと群がってくる。
「私もキスするのよぉ!」
「記録の書き換えを要求します!」
マシロのDカップ、フローラのFカップ、シフラのCカップ、ヒストリアのEカップが一斉に俺にのしかかり、デュラ本体のHカップも背後から俺を押し潰す。
ひんやりとした雪見大福のような弾力、甘い花の蜜の香り、上質なベルベットの滑らかさ、インクと羊皮紙の知的な重み、そして重厚な鎧の下の無防備な超質量。
四方八方からぷるん、むぎゅっという極上の音が響き、雪、牡丹、金貨、古い本、そして騎士の汗の香りが混ざり合って俺の五感を完全に飽和させる。
俺は限界を超えた統計データアナリストの脳で独白した。
投擲物の弾道計算モデルに、まさか投擲物自体が自律的にキスを迫るというペイロードが実装されているとは……!
回避確率の算出パラメーターが根底から崩壊し、顔面への被弾という事象がポアソン分布の限界を超えて俺の唇に集中している……!
(……ご馳走様です)
限界を超えた多幸感と、5人の極上の質量によるキスの嵐に完全に自我を溶かされ、俺はなかあての勝敗などどうでもよくなり、だらしない笑顔を浮かべたまま静かにノックダウンしていた。











