No.15 カルミラ:魅惑のBカップ
「ずーっと、よしよししてあげるのっ……。また一緒に遊ぶのっ! 絶対なのっ!」
リルの妖精の着せ替えトランポリンで完全に癒やされた俺は、彼女が光の粒子となって消える前の、そんな無邪気で甘えたがりな別れの言葉の余韻に浸りながら、どんよりとした空気が漂う街へと足を踏み入れた。
しかし、そこは理のバグと人々のストレスが結びつき、他者からの冷酷な評価が具現化した最悪の空間だった。
シャッタード・ミラー。
地面が突如としてひび割れ、鋭利に割れた無数の鏡の破片が刃となって突き出し、俺の姿を歪に映し出しながら精神をえぐろうと迫ってきたのだ。
俺の脳内のデータ分析プロセスが、自己をすり減らす他己評価と、無数の鋭角な悪意の反射を警告する。
前世で俺を精神的に追い詰めた、冷酷な人事評価や、歪んだ陰口、自分が他人の目でどう見られているかという終わりのない恐怖のトラウマそのものだった。
あんな冷たくて尖った鏡の破片に、俺の魂の価値を再び歪められてたまるか。
俺は迫り来る無数の鋭角な鏡の刃に向かって、魂の呪文を叫んだ。
「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー15!」
ぼよよぉん!
どんよりとした街の空気を震わせ、次元の弾力境界が突破される音が響いた。
妖しい紫色の煙の中から現れたのは、抜けるように白い肌と赤い瞳を持つ、豪奢なゴシックロリータドレスを着た吸血鬼の貴婦人だった。
スレンダーで退廃的なラインを際立たせるその胸元には、夜の闇に溶け込むように静かに、しかし確かに実るふくらみがある。
Bカップ。
俺の脳内データが瞬時に弾き出す。
過剰な主張はないが、吸い込まれそうなほどの魔力と、背徳的な柔らかさを持った夜の双丘だ。
「お呼びかしらぁ。ナンバー15、夜の貴婦人カルミラよ。あんな見苦しくて尖った鏡なんて、私がまあるい夜の底へ沈めてあげるわぁ」
カルミラは蠱惑的に微笑んで自ら名乗りを上げ、荒れ狂う鏡の刃の前に優雅に立ち塞がった。
無数の鋭角な悪意が襲いかかってくる中、俺はすかさずスキルを発動する。
「万物円満!」
俺の『π=314』の力が、カルミラの丸いエネルギーを百倍に増幅させる。
「邪魔な子たちねぇ……ブラッド・ムーン」
カルミラが天に向かって細い指先を掲げると、空に巨大で完璧な丸みを帯びた赤い満月が浮かび上がった。
百倍に増幅されたまあるい月光が街全体を照らすと、鋭利な刃として暴れていた鏡の破片たちはその性質を完全に失っていく。
鋭角だった鏡は赤い光を吸い込んで丸く縮み、あっという間にふかふかで肌触りの良い、丸くて黒いベルベットのクッションへと姿を変えていった。
戦闘は一瞬で、そして夜の魔法によって妖艶に丸く収まったのだ。
「ふふっ、醜い破片はみんな柔らかなクッションになったわ。さあ一肆、他人の汚い目に晒されて、さぞ心がささくれてしまったでしょう。こちらへ座りなさいな」
カルミラが指を鳴らすと、無数に生まれた丸いベルベットのクッションがふんわりと積み重なり、極上の座り心地を約束する即席の玉座を作り上げた。
俺が促されるままに深く腰を沈めると、カルミラは俺の足元に跪くように見せかけて、そのまま俺の太ももの上へと跨るように乗り上げてきた。
闇の貴婦人の身繕い。
それはただの奉仕ではない、極上のクッションで作られた玉座に俺を座らせ、Bカップの控えめで柔らかな胸を密着させながら、髪を梳き、爪を磨き、所有物としての絶対的な価値を囁き続けることで、自我を完全に明け渡させる特技だ。
「あの鋭い鏡の破片を見たら……前世の職場で、自分がどう評価されているか、陰で何を言われているかばかり気にして、心がすり減っていた記憶が蘇ってきて、息が詰まりそうだったんだ」
俺がベルベットの感触に体を預けながら恐怖を吐露すると、カルミラは艶やかな銀色の櫛を取り出し、俺の髪を優しく梳き始めた。
「下等な人間どもの評価なんて、家畜の鳴き声と同じだわ。私の愛するあなたが、豚の言葉に耳を貸す必要なんてどこにもないのよぉ」
カルミラの冷たくて滑らかな指先が俺の頭皮に触れ、背徳的な香水と薔薇の香りが脳をくらくらとさせる。
「あんな薄汚い鏡であなたを測ろうとした連中こそ、己の醜さを知るべきだわ。あなたはただ、私の瞳の中にある、この上なく美しい自分の姿だけを見ていればいいのよぉ……」
「カルミラ……。そっか、俺はずっと、家畜の鳴き声に怯えていただけだったんだな……」
「ええ、その通りよぉ。さあ、次は指先を綺麗にしてあげるわ」
カルミラは俺の手を取ると、ドレス越しにBカップの双丘を俺の胸板にぴったりと押し当てながら、ヤスリで俺の爪の先を丁寧に、そしてまあるく磨き始めた。
控えめなサイズだからこそ、彼女の高鳴る魔力の鼓動と、冷たい肌の感触が直接伝わってくる。
「カルミラの胸……冷たいのにすごく柔らかくて、心地いい……。それに、髪も爪も綺麗にされていくと、なんだか俺自身がすごく価値のあるものになったみたいだ……」
「あなたは価値があるどころか、この世界で一番美しい、私の大切な所有物なのよぉ。他人の評価なんて捨てて、私にすべてを捧げて、まあるく綺麗になりなさいな……」
「ああ……もう、他人の目なんてどうでもいい……カルミラのモノになるのが、一番安心する……」
「ふふっ、いい子ねぇ。隅から隅まで、私が綺麗にしてあげるわぁ……」
「やはり、世界は丸いほうがいい……」
吸血鬼の貴婦人が与えてくれる傲慢な肯定と、Bカップの密着による妖艶な身繕いに完全に自我を溶かされながら、俺は賢者タイム気味に平和を噛み締めていた。











