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活発な部活なんて誰も言ってない



世界は繰り返す。

まあ当然だけど、朝は普通にやってきた。いつもの朝のルーティンで、学校へ行く準備をする。


夏が近づいてきた。

花の香りは消えて、代わりにアスファルトの熱気と湿った空気の匂いがする。

面倒ではあるけど、冬より夏を待ち望んでる奴もいるらしい。でも、俺からすればどっちも面倒だ。短命な秋の方が、よっぽど好きだ。


朝の学校は、いつも静かだ。運動部は朝練があるから、決して静かじゃないんだけどな。星ヶ丘はスポーツが有名で、特に野球は強い。朝からちゃんと練習してる奴らには、いつも頭が下がる。でも、俺には真似できない。できないんじゃなくて、めんどくさいからだ。


教室に入ると、数人はもう来ていた。今日が提出期限の宿題を忘れた奴らは、早めに来て誰かのを写す。だから、こんなに早くても、もうみんな何かしらやってる。


人を避けながら、自分の席に座る。誰かに挨拶する手間を飛ばして、さっさと着席する。


日が昇るにつれて、生徒の数も増えてくる。みんな挨拶を交わして、グループごとに集まり始める。でも、俺は一人で席に座ったまま。


「おっす」


一人の生徒が、静かに近づいてきて、声をかけた。朝にわざわざ挨拶してくるのは、クラスでこいつだけだ。でも、こいつを友達って呼んでいいのかは、よくわからない。


「ああ、伊吹(いぶき)か。」

「なんだよその反応。親友が来てやったってのにな。」


そう言って、俺の前に空いてる席に座る。なんでこいつがわざわざ話しかけてくるのか、正直よくわからない。たぶん、ただの変なやつなんだろう。かなりの確率で。


「今日は雨降りそうだな。どう思う、(とし)?」


窓の外を見ながら、伊吹が聞いてくる。


「はあ?」

「お前ならわかるだろ?」

「知るかよ!」


こいつは、よく根拠のないことを言う。昨日だって、転校生を狙ってるって勝手に決めつけてたしな。根拠のない決めつけは、勘違いの沼に引きずり込まれるだけだ。


そんな話をしてたら、伊吹が窓の外、校門の方を見ながら言った。


「うわ! 見ろよ。」


俺も見てみると、確かに下の方が騒がしい。何人かの生徒が同じ方向を見ていて、その視線の先には、校門の前に止まった黒い車があった。


妙に見覚えのある黒い車……


「あの車から降りてきたの、()()()じゃね?」


案の定、車から出てきたのは美栄だった。まるでおとぎ話のお姫様みたいに、優雅だった。ただ、馬車じゃなくて、現代風の高級車ってところか。


「転校生って、金持ちなのか? 日本に来る前はイギリスに住んでたって聞いたけど。」

「そうらしいな。」

「全然興味なさそう。つまんね。」


つまんなくて何が悪い。


しばらくして、伊吹は自分の席に戻っていった。前に座ってた奴が来たから、仕方なく戻ったんだろう。


「おはよう。」


最近、やけに挨拶してくる奴が増えた。


「ねえ、おはようって言ったんだけどな。」


隣の席の女子が、ちょっとイライラした感じで繰り返す。


「おはよう。」


返事をすると、美栄(みえ)はにっこり笑って、それで朝の会話は終わった。


どうやら、クラスメイトに俺と話してるところを見られないようにしてるみたいだ。それは助かる。俺だって、噂になってる転校生と話してるのを、わざわざ見せびらかしたいわけじゃない。





一限目も二限目も、順調に進んだ。休み時間になると、みんな限られた時間を使って、他の奴と話したりして忙しそうだ。


「そんなわけで、俺が出した結論はこうだ。ゴキブリは人類の敵! 利はどう思う?」

「どんぶりは美味いよな。」

「どんぶり?」


「何の話してるの?」


そこに、空気を読まない奴が割り込んできた。


「うわっ! し、白幸さん!?」

「こんにちは。林くん。」

「あああ! 俺の名前、知ってる!」


伊吹が壊れたみたいに騒いでる。


美栄はクラスメイトに俺と話してるのを見られたくないんじゃなかったのか? 今、平然と教室のみんなが見てる前で話しかけてきたぞ。


「おい、利。白幸美栄(しらゆきみえ)だぞ! 本人だ!」

「知ってるから、耳元ででかい声で言うな。」


美栄は、笑顔で立ってた。


「林くん、ちょっと利に用があるんだけど、席外してくれない?」

「よ、用? 利に?」


伊吹は呆然として、金魚が水槽から飛び出して、自由だと勘違いしたみたいな顔してる。


「は、はい! どうぞどうぞ! それじゃあ!」


おい、置いてくなよ!


「ふふっ、林くんって面白いね。」

「お前の面白いの定義は、要研究だな。それで、何か用か?」

「ふーん……」


顎に手を当てて、何かを考え込んでる。こういう仕草、現実でもやる人がいるんだな。フィクションだけかと思ってた。


「あ、そうだ。じゃじゃーん! これ見て!」


そう言って、一枚の紙を見せてきた。何かの申込書みたいだ。


「しーちゃんにもらったんだ〜」


しーちゃん?


「見ての通り、これは部活動入部届けだ。」

「それが、俺と何か関係あるのか?」

「知ってる? うちの学校、部活入らないといけないんだよ。でも、私、転校したばっかりで、どこに入ればいいかわかんなくてさ。だから、利に一緒に面白そうな部活探してほしいんだ。」


「「「「えええええ?! 」」」」


教室中に、でかい声が響き渡った。その瞬間、クラスメイトがみんな俺たちの会話を盗み聞きしてたことに気づいた。


「白幸さん、里仲のこと名前で呼んでる!」

「なんで里仲なんだよ!」

「怪しすぎる!何それ。」


一気に質問攻めだ。正確には、美栄に質問が集中してる。


これだよ、これ。だから美栄とは、少なくとも教室では話したくなかったんだ。注目されるのが、こんなに嫌だとは思わなかっただろうけど。


でも、美栄なら言い訳の一つや二つ、用意してるはずだ。あいつは白幸美栄だからな。


「えっとね…利は、私の恋人(彼氏)だから?」


「「「はあああ?! 」」」


おい美栄! 何言い出すんだよ!

自分が何言ってるか、わかってるのか? いや、これ心中ものだろ。しかも、ダメージがこっちに偏りすぎだろ!


「里仲! 殺す、絶対殺すからな!」

「なんで里仲なんだ…」

「おいやめろ、嘘だから!」


必死に否定する。


これで俺の平和な高校生活は終わった……


「なーんてね。」

「そんな爆弾みたいなこと、冗談で済ますな!」


冗談だって言って誤解は解けたけど、殺意はあんまり収まってない気がする……


幼なじみだって説明したけど、それだけでもう火に油を注いだような状態だった。





放課後、部活見学に付き合うことになった。昨日みたいに昼休みを潰したくなかったからな。


「待ったか?」

「別に。」

「待っててくれてありがと。」


同じクラスなのに、教室の前で待ち合わせて、こんなベタな会話をする。


「どこか見てみたい部活とかあるのか?」

「うーん…星ヶ丘って、スポーツが有名だよね? 一応、見てみたいかも。」

「スポーツか。まあ、そうだな。じゃあ、行くか。」

「リョウカイ!」


夕焼けに染まった廊下を、最初の目的地、校庭に向かって歩き出す。


見学の旅、スタートだ。


まずはサッカー。


「疲れる。」


バドミントン。


「うーん…」


バレーボール。


「パンチはできない。」


バスケ部


「背が足りない。」


陸上。


「私はか弱い乙女なんで。」


水泳。


「泳げない。」


お、初耳だな……柔道?


「喧嘩しろってこと?」


案の定、全部断られた。


でも、まだ一つだけ見せてないスポーツがある。


「あ。」

「野球。」


そう、野球だ。これは絶対に入るだろ? だって美栄は野球が好きだし。


「どうだ?」

「私は……」


「あっ、二人とも野球に興味あるの?」


突然、先輩が声をかけてきて、野球部に興味あるか聞いてきた。


「部活探してたんです。」

「おっ、いいね! よかったら、ちょっとやってみる?」


先輩は優しくて、体験入部みたいな感じでやらせてくれるらしい。


「どうする、美栄?」

「...いいよ。」


さすが美栄。


今、俺たちはグラウンドの中にいる。ベンチで見学してる俺。バッターボックスに立って、バットを構えてる美栄。


さっき話しかけてきた先輩がピッチャーだ。


先輩が球を投げる。女の子だからって、手加減してるのがわかる。


野球をしてる時の美栄の表情は、いつもと違う。球を完璧に捉えて、全部当ててる。先輩は手加減なんてしなきゃよかったのに。


しばらくして、練習が終わった。美栄のところに行く。


「どうだった? 入部する気あるか?」


先輩が美栄に聞いた。美栄は無言で、何かを考え込んでるみたいだった。何考えてるのか、その表情じゃわからない。


「やっぱりやめときます。スポーツ部は向いてなかったみたいです。」


そう言って、美栄は笑った。でも、無理して笑ってるように見えた。


「あはは、それは残念。」

「ありがとうございました。お時間取らせてすみません。」

「いいよいいよ。またな。」


野球部の先輩と別れた。


意外だった。美栄なら絶対野球部に入ると思ってたから。


「なんで、話を断ったんだ?」

「ん?」

「だって、お前、野球好きだろ?」

「さあね? 気になる?」


からかうように聞いてくる。気になるに決まってるだろ。野球の話を断るなんて、俺の知ってる美栄じゃない。


「気になる。」

「ストレートだね。でも、嫌いじゃないよ。」

「……」

「教えてあげる。私の理由。」


急に耳元に顔を近づけてきた。何か囁かれるのかと身構えた。


()()()!」


「なんだよそれ。構えたのに。」

「何か期待してたの? えっちだな。」

「何かって、それ以外に何があるんだよ。」

「さあ?」


まともな答えを期待した俺がバカだった。


「そういえば、利は部活入らないといけないのに、入ってなかったよな?」

「誰が入ってないって言った?」


俺が部活に入ってないなんて、考えが甘すぎるぞ!


「え……じゃあ、入ってるの?」

「入ってる。」

「なに部?」


よく聞け! この俺の大発表!


()()()()()()()()!」

「……」


一瞬、沈黙。


「ダサすぎ!」

「好きに言えよ。でも、全校に100人以上いる、最高の部活だぞ。」

「えっ! 気象研究って、そんなに本格的なのか!?」

「いや、活動はしてない。ただの帰宅部だ。」

「今、心の中で尊敬してたのに、裏切られた気分!」

「誰も部活は活発だなんて言ってないしな。部員だってことに意味があって、卒業まではそれでいけるんだよ。」

「あ! 確かに!」


毎日天気予報があるのに、気象研究報告に何の意味があるんだ? 現代技術への冒涜だろ!


「私もそこ入る!」


そう決まった。


こうして、部活見学の旅は終わった。


「あ、利くん?」


茜?!

みえ:ちょっと、ギリギリすぎ! 危うく青春スポーツ小説に変わるところだったよ!

とし:スポーツ小説……?


最後まで読んでくれてありがとうございます!

実はスポーツ描写があまり得意じゃなくて、うまく書ける自信がなくて……。

野球は物語の中では大事な要素なんですが、キーワードには入れていません。

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