旧型のGT-R
第九十六章~両手十二発も使わせる相手の巻
新塚{にいづか}のアパートで一通りの調査を終えた僕らは、時間も遅いのでそこで解散することにした。
「アユムちゃん、また遊ぼうねー。葉月{はづき}ちゃんも、ばいばい」
「あ、はい」
「あなた達、くれぐれも無茶しないでね?」
「無茶はしても無理はしないのが吾輩、案ずるなかれ、葉月よ」
パトライトを付けていないミニパトと言うのは案外と地味だな、そんなことを思いつつ僕は二人を見送った。
「俺は研究所に戻って仮眠だが、三人はどうする?」
乾{いぬい}氏の問いかけにミサキ氏は、うーむ、と思案する。
「夜で随分と涼しいし、久しぶりに事務所に戻ろうかな。バカ少尉もだろう?」
「サラミと缶ビールが残っておるが故、そうなるのう」
では、と、僕はサンバーバンのハッチを開いてラダーをかけて、大道少尉のカブを降ろした。
「乾さんは車? エアコンなしでよければ研究所まで乗せてあげるけど?」
「俺はタクシーでも呼ぶからご心配なく。進展があったらまた知らせるから、その時はよろしくな」
言って乾氏はスマホを取り出した。タクシーを呼ぶのだろう。
「んじゃあ、全員ここで解散てことで、サラダバー」
僕は助手席にミサキ氏が乗り込むのを確認してからサンバーバンを発進させた。ミサキ探偵事務所までは結構な距離がある。時間にして四十五分といったところだろうか。
深夜FMラジオをチューニングすると、洋楽を流している局があったのでそれをBGMに軽いドライブとなった。
「ふぁっ、さすがに少し眠いや。今日は導入剤なしでも眠れるかな?」
無理でしょう、と一言で返す僕。普段十一錠もの導入剤を飲んでいるだから当然と言えば当然のリアクションである。
幾つかの信号を過ぎて、夜道を三十分ほど流した頃だった。爆音を響かせる車とすれ違った。
「もう二時過ぎだってのに、元気な奴もいるもんだ」
その数分後だった。すれ違った車が僕らの車両の後ろにピタリと張り付いていた。ハイビームが眩しいなあと思っていたら……。
「なあなあ、ひょっとしてあたしら、煽られてない?」
ミラーを覗くが眩しくて距離が確認できない。が、確かにそんな感じだった。
「こんな軽の箱バン相手に何を――」
ドン! いきなりの衝撃に僕は慌ててしまった。やられた、らしい。
「この鳩羽さまに向かってくるとはいい度胸だ! おい! 少し距離を取れ! エンジンルームに一撃入れてやっから!」
言いながらミサキ氏はベッセル・リボルバーを腰から抜いて、窓から上半身を出す。
「あれは旧型のGT-Rか。どこの小僧だか知らないけど、その車、一発でオシャカにしてやっぜ!」
二度目の衝突の直後にベッセルの発砲音が重なり、僕の鼓膜はビリビリと震えた。ミラー越しで見ると、黒いGT-Rのボンネットから白煙が上がっていた。
「あたしに突っかかるんなら装甲車でも持ってこいって話だ、なあ?」
クリーンヒットしたのが嬉しいのか、ミサキ氏は上機嫌のご様子だった。僕はと言えば、ぶつけられたながら、相手の安否が気になって仕方がなかった。
「どうせロールバーでも組んでるだろうから、どっかに突っ込んでも平気だよ。心配ばっかしてると白髪になっちまうよ?」
そうは言っても、である。僕はサンバーバンをUターンさせて、路上で停止した黒いGT-Rに寄せた。爆発しなかったのが不思議なほどの白煙、きっとラジエターを貫通したのだろう。
一分ほど様子を見て、どうやら無事そうだったので再び帰路に付こうとした矢先であった。白煙越しに誰かが出てきた。運転していたらしき男性は暗がりで良く見えないが、まだ若そうだった。男性はドアを蹴る恰好で路面に立ち、そしてこちらに向かってきた。
面倒な展開になりそうだな、と思ったが、かなり違った。ミサキ氏がダリル・リボルバーを抜きつつサンバーバンを降りたのだ。
「今日……昨日か、どっちにしろ大漁だな。車からは下りずに撮影しなよ?」
GT-Rの運転手はハイビームによるシルエットで視認が難しい。が、ミサキ氏の反応から相手が何者なのかが分かった。
「お前さあ、マビノギオンとやら、知ってる奴か?」
男性はミサキ氏の問いかけには応えず、代わりに鋭い蹴りを放ってきた。が、……。
ドン! ダリルの一撃で男性運転手はGT-Rまで吹き飛んだ。
「正当防衛だからね、念の為。さて、今回は一撃で終わるか……なぁ!」
ダリル・リボルバーの大口径弾丸などまるで効果がない様子に、ミサキ氏は思わず語尾を荒げる。
「また「これ」か! 短期決戦、行くぜ!」
ゴゴゴン! 弾倉に残ったダリルを全て撃ち込むと、男性は吹き飛び、その衝撃でGT-Rのヘッドライト片方が割れた。そして路面に腰を落とし、見た限り気絶してしまっていた。
「さて、出るか? 四枚羽……先手ぇ!」
ゴゴン! まず二発、ベッセルが吠えた。先の新塚{にいづか}なる男の例もあるのでミサキ氏は次を警戒する。
「出た! 残り三発!」
残弾を全てタロンに撃ち込むと、ギャア! と短い悲鳴が聞こえた。飛びそこねたタロンはヘッドライトのもう片方に向けて墜落する。
両手のリボルバーをスイングアウトさせて空薬莢をばら撒き、ゆっくりとリロードし、構えるミサキ氏。
だが、追撃はなかった。かろうじて見える程度の灯りだが、タロンは灰化し始めていた。
「両手十二発も使わせる相手か、面倒だな。そろそろ弾丸を補充しないとマヂで危ういかもなー」
タロンを始末し終えたミサキ氏はスマホで鳳{おおとり}氏に連絡しているようだった。
事後処理とは言え、こうも立て続けでは大変だろうな、僕は鳳氏を案じた。




