空飛ぶタロンも一撃ぞ
第九十一章~迫撃こそ最強にして無二の巻
天海真実{あまみ・まなみ}氏が去って更に一時間。日付をまたいで午前零時過ぎ、もう日曜日である。
「ほな、うちもそろそろおいとまするわ」
喫煙スペースから戻った露草氏がバド片手に言う。
「え、そうなの? ここって二時閉店でしょ? まだ時間あるじゃん」
カルピスソーダ割りを飲んでいたミサキ氏が若干不満そうに返した。
「今日は旦那、夜勤やねん。そろそろ戻るころやから晩御飯の用意せんとあかんねん」
「そういや葵{あおい}ちゃんの旦那さんて、乾{いぬい}さんの元部下だったよね?」
「せやで。お陰様で今では警部補やけど、未だに乾には頭上がらん言うてたわ」
バドワイザーの最後の一口を飲み終えた露草氏は、スマホを取り出す。
「何だ? ラブコールってか?」
「タクシーやって。こんだけ飲んで飲酒検問にでも引っかかったら洒落にならんからな。辻さん、ラベルダちゃん置いてくさかいよろしゅうな?」
「かしこまりました」
タクシーは五分とかからずで到着した。
「ほな、三人はゆっくりしてくとええわ。少尉、ごちそうさま。また今度奢るわ」
「ふむ。露草も達者でのう」
そして露草氏はチェリー・ビーンズを後にした。と思ったらすぐに戻って来た。
「雨降っとるで? 気いつけて帰りいや?」
今度こそ本当に露草氏はタクシーに乗り込んで去っていった。
「雨かあ、また湿度上昇だな、こりゃ」
僕らはと言えば、話し相手が辻氏だけになったこともあり、ほぼ無言でそれぞれ飲んでいた。もっとも僕はペプシなのだが。
「しっかし、四枚羽、タフだったなぁ。あんなのがうろちょろしてたら弾丸が幾らあっても足りないぞ?」
「迫撃こそ最強にして無二! アホの鳩羽は研鑽するが良い」
「あのなぁ、羽根が四枚てことは確実に飛ぶって意味だぞ? ご自慢のカイザーナックル、届かないだろうが」
「我が脚力をもってすれば、空飛ぶタロンも一撃ぞ」
「おめーも飛ぶんかい!」
そんなタロン談義をしていたら、二時間はあっという間に過ぎた。見ると辻氏が片付けを開始していた。
「さて、あたしらもそろそろ帰るとすっか」
「それは良いがアホの鳩羽よ。どこで涼む?」
「ん? 蘭子{らんこ}ちゃんからの手付金で事務所にエアコン付けたんじゃねーの?」
「それが難儀な話でのう。この時期、業者は立て込んでおるとかで月末まで現状のままなのだ」
「アホかテメーは。それこそ蘭子ちゃんにお願いしろよ。エアコンの一つ二つ、速攻で付けてくれるって」
それを言うならミサキ氏も同類ではないか、と思わず口に出そうになった。
「バカ少尉がどこに行くかは知らんけど、あたしはアユムちゃんところに行くぜ? 送ってもらった勤務表で今日は休みの筈だからねん」
下心が丸見えである。きっと、いや、間違いなく前村歩{まえむら・あゆむ}巡査部長は剥かれて遊ばれるのだろうと容易に想像出来た。僕の存在などお構いなしに、である。もっとも僕は『フォートギルド』が出来れば満足なのだが。
「ならば我々もここで解散であるな。支払いは吾輩に任せよ」
「言われるほど飲んでもないけど、端からそのつもりだっつーの」
そして僕ら三人は辻氏に挨拶を残してチェリー・ビーンズを出た。
「早速カブ、降ろしますよ?」
「良きに計らえ」
大道少尉のカブをサンバーバンから降ろし、僕とミサキ氏は車両に乗った。
「サラダバー」
例によってミサキ氏の謎の挨拶で僕らは解散した。のだが、
『そこのカブ! 止まりなさい!』
出発して五秒でいきなりスピーカーに怒鳴られた。ミニパトである。
飲酒運転で免停確実。
ご愁傷様です、と内心で祈る僕であった。




