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吾輩のカイザーナックル支援

第八十七章~河野と藤原、致命傷の筈の二人が平然と立っているの巻


 騒動があったので僕はスマホの着信に少し遅れてしまった。見ると鳳{おおとり}氏からであった。

 毎度の如くスピーカーモードで出ると、鳳氏がかなり慌てていた。

『やっと出たわね! 大変よ! EMRドップラーがタロンを二体も感知したわ! 場所は送ってあるけれど、あなたたちとほぼ重なる座標よ。異常事態だからくれぐれも注意して頂戴ね? ワルサー大尉の二の舞はゴメンだから』

 急を要する案件である! しかし僕が気になったのは「ワルサー大尉の」の部分だった。彼になにかあったに違いない。

「今のは?」

 と、久作くん。

「タロンだよ、久作くん。桜桃{おうとう}新聞とやらで知ってるだろう? あれが近くに潜んでるらしいってこと」

「近くというか、目の前だな、恐らく」

 応えたのは須賀恭介{すが・きょうすけ}くんだった。

「河野と藤原、致命傷の筈の二人が平然と立っている。やれやれ、佐久間準{さくま・じゅん}の次はこの二人ときたか。方城、速川」

「タンマタンマ! 二人が強いのは分かったけど、こっから先はあたしらの領分。いいから任せときなって。バカ少尉!」

「この、ラグー・アッラ・ボロニェーゼとやら、美味いぞ、アホの鳩羽よ」

「食ってんじゃねー! あたしが先鋒をすっから、学生諸君のフォローは任せるぞ?」

 言いつつミサキ氏は二挺のリボルバーを抜き放つ。

「な、なんです? そのヘビーバレル?」

 問いは久作くんからだった。

「後で説明するよ……来るぞ!」

 最初に襲って来たのは先ほど方城護{ほうじょう・まもる}くんの蹴りで沈んだ筈の藤原という学生だった。

 蹴りのダメージは微塵もないようで、相当に素早くミサキ氏に迫って来た。近距離、三メートル程度のところでダリル・リボルバーが火を噴いた。

 ゴン! と轟音が店内に響き、食器類がびりびりと揺れる。

 ダリルの弾丸を受けた藤原は壁に激突し、そして……。

「まずは一匹目だな! 喰らえっつーの!」

 右のベッセル・リボルバーが爆音を叩き出す。照準は藤原と言う学生の少し上、タロンである。

 半分憑依したままらしく下半身は藤原の中だが、タロンの頭部に着弾したようで、その頭部は四散した。

「次は――」

 言いかけたところでミサキ氏は河野の手にある特殊警棒をモロに受けてしまった。完全に不意を突かれたようだった。

「美咲さん!」

 リカちゃんが絶叫する。ミサキ氏は頭部に警棒を受けたようで、額に血がにじんでいた。

「速川!」

 須賀くんが珍しく声を荒げると、久作くんが河野に迫った。

 ふっ、と息を吐いてから久作くんの肘打ちが河野を捉える。見た限りダメージはないようだが、河野は少しよろめいた。

「あいたた、ちょいと油断したかな? もう平気だから下がってて!」

 再度、左のダリルを構えてから、速射。バン! と言う発砲音で河野は藤原と同じく壁に激突した。が……。

「……あれ? 出てこない? クリーンヒットだったぞ?」

 壁に激突した河野は再び警棒を振り回しながらミサキ氏に迫る。

「こいつか! ワルサー大尉が苦戦してたってのは!」

 ダリルを構え直すより早く、警棒が襲ってくる。

「カイザァァ!」

 バン! と言う打撃音で河野の手から警棒が離れた。大道少尉である。

「……ナックル!」

 ふん、と構えている大道少尉。先日のカッターナイフ事件を連想させる光景だった。

「だから貴様はアホなのだ鳩羽よ。学生相手に油断とは同業として恥ずかしい限りであるぞ?」

「はいはい、油断しましたよ! まさかダリルの一撃に耐える奴がいるなんてな。でもな、だったらこうだっつーの!」

 直後、ミサキ氏は弾倉に残った聖水弾丸四発を全て河野に叩き込んだ。

 爆音で店が倒壊しそうな勢いだった。

「ひゃー!」

 レイコちゃんが逃げまどっていたが、そこは久作くんがフォローしてくれた。

「さすがにどうだ!」

 無理矢理に引きずり出されたタロンは、初めて見る四枚羽だった。が、ミサキ氏は構わずベッセルを向ける。

「どうせこっちも一撃じゃあ済まないんだろ? だから大サービスだ、喰らえ!」

 ゴゴゴン! ベッセル・リボルバーを連射すると、今度はアヤちゃんから悲鳴が上がった。

「頭に二発、胸元に三発! さすがに効いたろう? 大人しく地獄に帰りやがれってんだ!」

 ギャア! と奇声を発したタロン・四枚羽は四肢をばたつかせて、そして灰化していった。

 僕と学生全員がふうと溜息を吐く。どうにか退治したらしい、と。

「美咲さん、頭部の怪我は?」

 唯一冷静な須賀くんがミサキ氏に声を掛ける。

「ああ、モロに喰らったけど、なに、許容範囲さ。後で止血して包帯でも巻いとくよ」

 額からの流血を拳でぐいと拭い、ミサキ氏は笑顔で応える。

「しっかし、タフなタロンだったなあ。こりゃあワルサー大尉、無傷じゃあないかもね」

「アホの鳩羽よ、吾輩のカイザーナックル支援への感謝が足りぬぞ?」

「へいへい、あんがと。でも仕留めたのはあたしだからな?」

 どうやら鳳氏からの報酬の話らしい。

 切り替えが早いというか、打算的というか、タフというか、いかにもである。

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