ステイ・ロー!
第八十六章~おめー人使い荒いぞの巻
二十時過ぎ。一通り食事を終えた僕らはソフトドリンクで一服中であった。
「ねえ、アヤ。私の口、平気かしら?」
リカちゃんがコンパクトを片手に尋ねる。
「うん、問題ないよ」
「私はバジルまみれなのだー!」
言いつつレイコちゃんは洗面に向かった。きっと歯磨きでもするのだろう。
雑っぽいアヤちゃん以外はそれぞれ身だしなみに気を使っている風だった。女子高生、それも一年生ならそんなものか、と僕は思った。
「食った食った、もうお腹一杯だよ!」
「そりゃあ良かったな、橘{たちばな}」
男子三人ではない声が割り込んできたので僕はやや驚いた。見るとそこには桜桃{おうとう}ブレザー姿の男子生徒が二人、いた。
「これはこれは、河野先輩。サッカー部はもう練習切り上げですか?」
感情を込めずに須賀恭介{すが・きょうすけ}くんが応える。
「須賀、てめーに用はないんだよ」
「なんだなんだ? 何事だ?」
ミサキ氏が尋ねるが、久作くんがそっと制する。
「藤原先輩もご一緒とは、野球部は怠慢なのだな」
河野と呼ばれた学生を無視して須賀くんは続ける。
「見ての通りで俺らは食事の最中。二人に付き合っている暇などないんですが、急用でも?」
「そーいう態度が気に食わないと以前言った筈だが、忘れたか? 須賀」
「……ふん、話にならんな。方城?」
「また俺に振るのかよ? おめー人使い荒いぞ、ったく。あー、河野センパイに藤原センパイ――」
言いつつ方城護{ほうじょう・まもる}くんは立ち上がる。上背は河野、藤原という二人の遥か上だった。
「前にも言ったけど、あんたらさぁ、はっきり言って邪魔。とっとと消えてくれ。折角のピザが不味くなる」
「方城! 貴様!」
藤原と呼ばれた方がいきなり方城くんの胸ぐらをつかんできた、が、
「ステイ・ロー!」
ぐっと姿勢を低くしてそれをかわす方城くん。
「ザコ風情が俺様にけしかけるなっつーの!」
かがんだ姿勢からかなり鋭い蹴りが出た。下から上に付きあげる格好のそれは藤原、ザコと呼ばれた彼の横腹にクリーンヒット。藤原は咳き込んでうずくまった。
「必殺の蹴りだ、三十分は動けないぜ、ザコ先輩?」
「方城!」
一歩引いていた河野という方が棒きれを振りかぶる。いや、棒ではない、あれは、
「学生の分際でまだ特殊警棒などを持ち歩いているとは、サッカー部は何をしたいのやらだな。速川?」
「僕? 方城に任せとけばいいものを。でも、アヤちゃんやリカさんもいるんだ、文句は言えないなあ」
須賀くんに言われた久作くんは素早く立ち上がり、特殊警棒を肘で打ち返す。その一撃で河野の手から簡単に特殊警棒は離れた。そして、いちおう、といった風に久作くんはもう一撃、腹部に掌底を叩き込む。
見た目こそ地味だが河野はかなり派手に吹き飛んだ。
終始絶句だったアヤちゃんとリカちゃんが、やっと溜息を一つ吐いた。
と、化粧室からレイコちゃんが戻ってきて、一言。
「誰かが「また」寝てる!」
「ふむ、男子二人よ。見事であると吾輩からの賛辞を送ろう」
「まったく、最近の学生は洒落になんねーな。久作くんのは護身術かい?」
ええ、とだけ返す久作くん。
「須賀は素手だと人並だから、毎回こうなんですよ」
「素手だと? 須賀くんはナイフでも扱うのかしら?」
まさか、とは須賀くんから。
「まあ、その話はいずれ。ともかく邪魔は消えた、ゆっくりしようじゃあないか」
確か三人は「リカちゃん軍団のボディガード」と言っていた、そう思い出した。
なるほど、と僕は感心しつつピザトーストを齧った。




