ペペロンチーノ一択!
第八十五章~ラグー・アッラ・ボロニェーゼの巻
僕とミサキ氏と大道少尉はサンバーバンで、残りは自転車で喫茶店トワイライトに到着した。時刻はそろそろ十九時と言ったところだがまだ営業時間らしかった。
外観こそどこにでもありそうな喫茶店だったが、中に入るとなかなかに凝った造りになっていた。やや暗めのスポット照明が良い雰囲気だった。
しばらく外で待っていると、あの黒髪ロングヘアのリカちゃんを含めた「リカちゃん軍団」と先の男子三人が到着。
「昨日ぶりですね」
リカちゃんが丁寧なお辞儀をしたので、僕もつられてお辞儀をする。
「ふむ、女子よ。お主も健在でなによりだ」
大道少尉は端から名前を覚えるつもりはないらしく、男子、だの、女子、だのと連呼するだけだった。
「あなたが「リカちゃん軍団」とかってののリーダー? あたし、鳩羽美咲。美咲でいいよ」
ミサキ氏が簡単に挨拶する。
「美咲さん、ですね。あれはアヤが勝手に名乗ってるだけですから気にしないで下さい。軍団て言っても私とアヤとレイコの三人ですし」
ひたすらに丁寧なリカちゃん。クラス委員とか言っていたな、ふと思い出す。
黒髪に天使の輪が光る、端正な顔立ちと読者モデルで通用しそうな見栄え。レイコちゃんやアヤちゃんとはまた違ったタイプの美人である。どうやら仲良しらしい須賀恭介{すが・きょうすけ}くんとお似合いで、ちょっと、いや、かなり羨ましい。
「さて、ここで立ち話もなんだし、入ろうか、リカくん」
須賀くんがリードする。その様子はこなれている風だった。
「ここはね! パスタ料理が旨いんだよ!」
アヤちゃんが扉をくぐりつつ言う。
「お、そいつは丁度いいや。あたし、主食はスパゲティだからな」
「美咲さんは彼氏さんとかにそれを振舞うんですかね?」
久作くんが問うと、ミサキ氏が少しフリーズした。
「あ、いや、まー、たまにね! あはは!」
「こんなアホの鳩羽に浮いた話なぞ皆無であるがな」
「うっせーよ! 空気読めって! 流れってもんがあるだろう、会話のさ!」
「美咲さん、美人なのにお一人なんですか?」
リカちゃんが追い打ちをかける。もっともそれは好意的な意味で、なのだが。
「リカちゃんは話が分かるね! そそ、あたしはこれでも美形私立探偵で通ってるのさ! このルックスだけで客が来ることもあるんだぜ?」
「……たわけが世迷言を」
大道少尉が一言でぶち壊しにする。
「何でもいいからさ、とっとと注文しようぜ? 俺、腹減ってるんだよ」
方城護{ほうじょう・まもる}くんが強引に話を持っていく。
「あたし、ジェノベーゼにする!」
「そうさなぁ、ボンゴレ辺りにしとこうかな」
「じゃあ私は無難にナポリタンにしようかしら?」
レイコちゃん、アヤちゃん、リカちゃんは早々にオーダーを決めた。
「速川、ピザ頼んで一緒に喰わねーか? ここのはいつもちょっと余るからさ」
「僕はそれでいいよ。須賀?」
「ふむ、俺は姉貴が晩御飯を用意しているだろうから軽めにしとこう。サラダとコーンスープ、これでいい」
学生組の全員のオーダーが決まったので僕らの番である。
「ペペロンチーノ一択! これが旨ければ認めてやるよ」
「吾輩はこのラグー・アッラ・ボロニェーゼとやらにするかのう」
絶対に分かっていないだろう、と内心ツッコミつつ、僕は毎度のペプシとピザトーストにした。
暫く談笑していると、テーブルに次々と皿が乗ってきた。二席に分かれているのだが、どちらも満杯だった。
「いただきまーす!」
半ば叫ぶようにレイコちゃんが言い、皆、それに続く。
そして暫くは全員黙々と食事をしていた。口火を切ったのは何となく予想通りのアヤちゃんだった。
「んまい! ボンゴレも定番だよねー! 定番が旨いトワイライトはあたし、大好きだぜ?」
「ん? このペペロンチーノ、かなりの腕前と見た! こんがりの玉ねぎの味がきっちりベーコンに染みてるし、オリーブオイルもひたひたで鷹の爪がいいアクセントになってる。九十五点だな」
自分で作れば百点、そう言いたいのだろう。
まあその根拠になる腕前は知っているので文句はないんですけどね。




