好奇心て言って欲しいな
第八十一章~奴が錯乱とは、如何にも奴らしいなの巻
「それで――」
シロップ入りのコーヒーを片手に須賀恭介{すが・きょうすけ}くんは口を開いた。
「奈々岡{ななおか}くんの記事と動画、あれは実物、ということで良いんですよね? タロンでしたか、あれも含めて」
「詳しくは彼とバカ少尉に任せるけど、あの桜桃{おうとう}新聞だっけ? あれに掲載されているのは全部事実だよ」
「佐久間準{さくま・じゅん}は俺のクラスメイトなんですが、奴が錯乱とは、如何にも奴らしいな。しかし刃物は頂けない。負傷者も大勢出たそうだしな」
語尾はまるで独り言のようだった。
「そして怪物、タロンか。確か鉤爪とかいう意味でしたよね?」
「おお! 須賀くんは博識だね。そう、タロンってのは地獄の使者で、意味は須賀くんの言う通り」
「地獄、ですか。にわかには信じがたいが、現実とは往々にしてそういうもの。受け入れましょう。こう言うのはどうかと思いますが、被害者にクラスメイトがいなかったのは幸いでしたね。野次馬でアヤくん辺りが突撃していたら無事では済まなかったでしょうから」
大道少尉のとなりにちょこんと座って麦茶を飲んでいたアヤちゃんがすっくと立ちあがり、抗議する。
「おいこら、須賀恭介! あたし、野次馬とかじゃねーぞ。好奇心て言って欲しいな」
「どう違うのか簡単に説明してもらおうかな、アヤくん?」
「まあまあ。須賀くんもアヤちゃんも、クラスメイトとやらも無事だったんだからいいじゃん? なあ、バカ少尉」
「……ふぉっ! ちと瞑想しておったわ。して、何ぞ?」
そういうのは瞑想ではなく、うたた寝と言うもの。
「佐久間とかって学生を殴ったとか、その後にタロン一匹仕留めたとか、そーいう話だよ、ったく」
大道少尉は残った麦茶をぐいとあおり、溜息一つで話を継いだ。
「ふむ、そんなこともあったかのう。吾輩、過去は振り返らない主義故、結果オーライと言うあれだな」
「過去って、少尉。昨日のことだよ? 少しは振り返ろうぜー」
アヤちゃんが返す。
「俺も少尉さんとやらの意見には賛成だな。学生は前を向いて歩くのが健全と言うもの。過去なんぞに微塵も価値はないさ。要点さえ押さえていれば、大抵の過去は無意味の塊だしな。そのための桜桃新聞だ」
長科白だが、どうやら大道少尉に同意している、とだけ分かった。
須賀くんはアヤちゃんとは正反対で、短くて済む話を長くする癖があるように、僕には映った。




