金髪とかテキトーな呼び方するなし!
第七十八章~今晩は二人のおごりでチェリー・ビーンズの巻
保健室の換気が一通り終わったところで露草氏はキャメルに火を付けた。
「そんで、今日は何やねん? また涼みにでも来たんかいな?」
「へっへーん! それがさ、葵{あおい}ちゃん! あたしらは今、ちょいとした小金持ちなのさー」
言いつつ乾{いぬい}氏から預かった例の封筒を見せる。
「どれどれ。ほー、なかなかやんか。うちのボーナスくらいあるやん。どないしたん? あのでっかい拳銃で銀行でも襲ったんかいな?」
「失敬な! 報酬だよ、ほうしゅー! ビーンズでタロンに遭遇しちゃったのさ」
「吾輩はこれである! 刮目せよ!」
「ん? ほうほう、きっちり百万円かいな。蘭子{らんこ}のところはお金あるんやなあ」
せや、と露草氏は煙草を灰皿に一旦置いて、伸びをする。
「二人がそないにお金あるんやったら、今晩は二人のおごりでチェリー・ビーンズ言うんはどうや? 奢り奢られで世の中回るもんやで?」
「いいとも! なあ? バカ少尉?」
「無論である! 露草には借りもあるしな。大いに飲むが良い!」
と、保健室の扉がガラリと空いて、女子高生が飛び込んできた。
「葵ちゃーん! 遊びに来た……あ! お兄さんと少尉じゃん!」
先日知り合った女子高生グループ「リカちゃん軍団」の一人、橘綾{たちばな・あや}ちゃんだった。
「んで、そちらのお姉さんはどちらさん?」
「そりゃこっちの科白だよ、金髪」
「金髪とかテキトーな呼び方するなし! アヤちゃんだよ! 橘綾!」
「はいはい。あたしは鳩羽美咲。バカ少尉と同類だよ、遺憾ながらね」
「同類て、ひょっとしてお姉さんも私立探偵なの!」
先日も思ったが、アヤちゃんは……うるさい。女子高生が元気なのは良いことなのだろうが、彼女は普通の三倍くらい元気で、そしてひたすらにやかましい。見栄えを差し引いても耳が痛くなるというもの。
「そう、私立探偵兼退魔師。武器はこれ」
前村歩{まえむら・あゆむ}巡査部長から借りっぱなしのピンクのカーディガンで隠れていたホルスターから、左のダリル・リボルバーを抜き放つ。
「! すっごい大型リボルバーじゃん! 熊でも撃つの?」
「熊は出たら撃つけど、これは対タロン用……てタロンで通じるんだよな?」
「あれでしょ? 佐久間準{さくま・じゅん}から出てきた怪物でしょ? リンリンの新聞に動画があったからみんな知ってるよ」
「リンリン?」
「奈々岡鈴{ななおか・すず}ちゃん。鈴だからリンリン、広報部のエースで取材から記事起こしまで全部一人でやってるって」
桜桃新聞は僕も見たが、あの完成度をほんの半日で仕上げるとは、奈々岡という彼女はかなりなのだろうと伺える。
カメラワークもだが、文才にも優れているらしい。全く羨ましい限りである、と、そんなものと無縁な僕は思った。




