かっこええジッポライターの火のつけ方
第七十七章~二度目となる私立桜桃学園の巻
僕らは二度目となる私立桜桃{おうとう}学園に到着した。山を大きく削った立地なので市街地からはかなり距離があり、喧騒とは無縁な場所である。
駐車場にはBMWからポルシェ、果てはフェラーリまでとかなり高価な車両が駐車されている。おそらく教員のものだろう。その様子を見るだけでここにかなりの資本が入っていると想像出来る。
さすがは天海{あまみ}グループ傘下である。
聞いた話だと運営は天海真実{あまみ・まなみ}氏らしいが、資本提供は彼女の姉の天海真琴{あまみ・まこと}氏によるものらしい。かなりの手腕らしく服飾ブランドAMAMI
僕は学園までの道中、二人にそんなことを話していたのだが、暑さもあって半分通じたかも怪しいところだった。まあ知らなくてもいいことなんですけどね。
照り付ける陽光の中をぐいぐいと歩き、見知った用務員さんに要件を伝える。名目は露草氏との面会、にしておいた。
「ああ、また君らか。どうぞ。道、解るよね?」
二度目ということもありほぼ顔パスだった。僕ってひょっとして好青年に見えるのかな? とか思ったが少し違った。
「そっちの大きいあんた、昨日の事件で活躍したそうじゃあないか。同僚もなんとか意識を戻したし、感謝するよ」
「ふむ、吾輩にかかればあの程度、造作もないわい。同僚とやらには後日、花でも送るが故、よろしくと伝言を頼むぞ」
ふはは、と笑いを残し、ミサキ氏に背を押される格好で大道少尉はその場から離れた。僕も続く。
「ちぇっ、あたしだったら絶対被害者ゼロで終わらせてたってのに、完全にいいところ取られてるよ」
「何度も言うが、寝ていたアホの鳩羽が悪いのだ」
言いつつ静かな廊下を幾つか曲がると、目的地である保健室が見えてきた。
僕がコツコツとノックをすると「空いとるでー」とあの間の抜けた関西弁が返ってきた。
引き戸を開けると、こちらも毎度だが、もやがかかっていた。煙草の煙である。
「なんや、あんたらかいな。電話もよこさんと、入れ違いやったらえらいことやで?」
ああ、と僕は今更気付いた。どうして電話一本いれずに来てしまったのだろうか、と。
「まあいいじゃん。どーせ葵{あおい}ちゃんてば毎日ここに籠ってるんでしょ?」
「げふんげふん!」
前者がミサキ氏で後者が大道少尉、いわずもがなだが念の為。
「何や? ああ、煙か。ちょい待ちいや」
言うと露草氏は窓を少し開けて換気を開始した。
「重大発表や。うちな、ラッキーストライクからキャメルに変えたねん。まだちーと慣れへんけど、そこそこ旨いで」
露草氏には重大らしき、僕には全くピンとこない発表に、はあ、とだけ返す。
「何や? 僕は大学生やろ? 煙草は吸わんのかいな?」
「吸ってる奴も結構いますが、大半は見た目重視ですよ」
「そんなもんやて。うちかて最初はそうやったしな。男子連中がかっこええジッポライターの火のつけ方とかやっとったわ。懐かしいなあ」
そういえばゼミの先輩の何人かがそんなことをやっていた。煙草を咥えてアコースティックギターで下手くそなJポップを歌ったりだとかあれこれ。
真面目な大学生など、二流大学には数えるほどなのだ。みんなバイトに忙殺されるか仕送りで遊んでいるかの二択である。
ちなみに僕は仕送りでそこそこ真面目に授業を受けつつ、残った時間は『フォートギルド』に注いでいるので不真面目なほうである。




