ヒレステーキ三百グラム
第七十五章~フォォォーク・エンド・ナァァイフ! の巻
鳳{おおとり}研究所を出たのが正午だったので僕らのサンバーバンは渋滞に捕まってしまったが、どうにかこうにか喫茶店・ビーンズに舞い戻ることが出来た。
「さてと、お昼はなににしよーかなー」
「吾輩はヒレステーキ三百グラム! コーンスープとライス大盛りで願おう」
店員の板倉さんは少し驚いた風だが、そこは営業スマイル。すぐに取り繕う。
「ドリアってあります?」
「チーズドリアでしたら」
「おお、んじゃそれ」
僕は食欲があまりなかったのでツナサンドと毎度のペプシを注文する。と、僕はあることに気付き、板倉氏に質問する。
「スタッフの八木さん、でしたっけ? 彼女は?」
「気分がすぐれないと言っていたので帰宅してもらいました」
タロンに憑かれていたのだ、当然といえば当然である。聖水弾頭とは言え五十口径を受けて無事なのが不思議と言うもの。
「あのさ、少尉。話変わるんだけどさ……」
「肉なら自前で注文せよ、アホの鳩羽よ」
「ちげーよ! タロン。三日連続て尋常じゃなくないか? ワルサー大尉の分も入れたら四件目だぞ?」
「ふむ。確かにな。なんとか言う学校では多数の負傷者も出ておるし、油断ならぬな」
大道少尉の言っているのは私立桜桃{おうとう}学園でのカッターナイフ事件のことだろう。ミサキ氏は寝ていたので伝聞だが、僕の撮影した動画は見せてあるので大筋は伝わっている筈である。
「しかしな、アホの鳩羽よ。吾輩らは末端が故、鳳の指示を待つのが得策であろう。まあ例外はあるがな」
鳳蘭子{おおとり・らんこ}氏の扱うEMRドップラー装置はかなりの精度でタロンを感知できるが、そこは機械、どうしても若干のタイムラグが発生してしまい、カッターナイフ事件ではそのラグのお陰で負傷者が増えた。
鳳氏を責める気は毛頭ないが、あの場に大道少尉がいなかったら……想像するだけで恐ろしくなるというもの。
「タロンの大量発生、てのがあたしの見立てなんだけど、どう思う?」
「スイーツの如く甘いアホの鳩羽よ。吾輩は出てくると思っておる、大物がな」
「大物て、角突きとか四枚羽とか? まさか! タロンは地獄の住人で見た目は全部一緒だぜ?」
「ふん、だと良いがな。む、ヒレステーキ到着である! フォォォーク・エンド・ナァァイフ!」
「……うるせーよ」
退魔師ならではの二人の会話はヒレステーキ三百グラムで中断された。
それにしても物騒だな、と僕は思った。タロンの大量発生にしろ、大物にしろ、である。




