マルボロ・マイルド
第六十八章~県警の刑事だったと言う経歴の巻
ミサキ氏がタダになったシュゼット風クレープいちごソースを平らげた頃に、ようやく鳳蘭子{おおとり・らんこ}氏と乾源一{いぬい・げんいち}氏が現場となった喫茶店・ビーンズに到着した。
「ハロー、蘭子さんに乾さん。あれ? ワルサー大尉は?」
「ごめんなさい。遅れてあれなんだけど、現場検証を先にしてもいいかしら?」
メンソールにマッチで火を付けつつ、白衣の鳳氏は言い残して、気絶している女性店員のほうに歩く。
「俺は目撃者の証言集めだな。君、動画を転送してもらえるかい?」
半分灰になったマルボロ・マイルドを咥えた乾氏が僕に言うので、その通りにした。
「毎回すまんね、助かるよ。さて、店員さん。彼女の、まずは名前と年齢を教えてもらえるかな?」
よれたスーツの乾氏は手早く手帳に証言を書き込んでいた。まるで熟練の刑事のようだった。実は乾氏が県警の刑事だったと言う経歴は随分後になって聞くのだが、その時はまだ知らなかったので、それっぽいな、程度だった。
「八木由紀{やぎ・ゆき}、二十三歳ね、見た目通りの学生か元学生といったところか。彼女の勤務態度に不信な……なし、か。何でもいいんだが悩んでいるとか困っているとかの話は?」
質問されている男性店員は少し考えてから、そういえば、と口にする。
「元彼氏の借金? 金額は、不明か。ちなみにバイトはここだけで?」
「もう一軒掛け持ちしていると聞いたことがありますが、詳しくは何とも……」
「充分だ、ありがとさん。蘭子! こっちは大体終わったぞ。おっと、すまないが灰皿を拝借」
店内の禁煙マークなど無視して乾氏はマルボロ・マイルドを継ぎ足す。
「まだ目覚めないけれど、目覚めたところで記憶はないのだから一緒ね。外傷もなし、ってこのエプロンについてるススは?」
鳳氏が聞いてきたので、ミサキ氏が応えた。
「ああ、それはダリルの跡っしょ? ガンパウダーが飛んだだけ。んで、タロンの痕跡はあった?」
「完全に灰化しているから、サンプルとして持ち帰るけれど、きっと何もでないでしょうね、いつものことよ。彼の撮影した動画が全てだけれど、まあ検証には足りるでしょう。じゃあ、乾さん?」
「了解だ」
「何? もう帰るの? 一服してけばいいじゃんか。喫茶店だぜ? ここ」
「立て込んでいるのよ。ワルサー大尉の方も気になるし、あちらに増援が必要な可能性もあるの。だから私たちは本部待機なのよ、ごめんなさいね」
スマホで八木由紀という店員を何枚か撮影すると、鳳氏は足早にビーンズから出て行った。
「君も美咲もごくろうさん、今度メシでも奢るよ。少尉も、またな」
「ふむ、乾よ、ワルサーによろしくとな」
「ああ」
言い残して乾氏も消えた。
疾風怒濤とはこういうことなのかな、とか思ったりした僕だった。




