海鮮丼とざるそば
第四十九章~俺たちはパトカーじゃあないんだの巻
静かな、しかし空調の効いた快適な食堂で食事をしていると、どやどやと人が入ってきた。
鳳蘭子{おおとり・らんこ}氏、乾源一{いぬい・げんいち}氏、そして、ワルサー・Ⅼ・シューメイト大尉と彼の部下らしき黒服が三名。
「ふむ、鳳に乾、ワルサーか。随分と遅い到着であるな」
海鮮丼を頬張りつつ、大道少尉は嫌味ギリギリの科白を吐く。
「俺たちはパトカーじゃあないんだ、勘弁してくれよ、少尉」
乾氏が煙草を咥えたまま返す。火は当然付いていない。
「これでも全速で来たのだから。それで、タロンと被害は? 見てきた範囲だとかなりの生徒が負傷していたみたいだけれど?」
同じく火のないメンソールを咥えた白衣の鳳氏が聞く。
「少年?」
大道少尉に振られて、僕は箸を置いてスマホを見せつつ説明する。
「これが今回のタロンとその被害者です。名前は佐久間くんと言うらしいです。この学園の高等部一年だとか。被害はざっと二十名といったところで、重症は二人。いずれも露草先生が応急処置をして、今はたぶん病院に搬送されていると思います」
動画を見せつつざっと解説する。と、乾氏から溜息が出た。
「蘭子がEMRドップラーでタロンを感知して急いだんだが、完全に出遅れたな」
「まったくデース! 車両を緊急走行用に改良しなければなりまセン! ポリスとの連携が必要デスね!」
ツナギ姿のワルサー大尉がやれやれとゼスチャーして乾氏を継いだ。
「ともかくまずは真実{まなみ}に謝罪と、保証の話をしないと。彼女、まだここにいるわよね?」
鳳氏が聞くので、僕は、はい、とだけ返した。
「少尉には改めて感謝するし、事後処理はこちらに丸投げしてもらっていいわ。何というか、おつかれさま」
「タロンの一匹程度で疲れる吾輩ではないが、ふむ、事後処理とやらは任せる。鳳、この海鮮丼、食うか? 美味であるぞ?」
結構よ、と鳳氏は返し、改めて一礼してから背を向けた。きっと天海真実{あまみ・まなみ}理事長のところに向かうのだろう。
「ならば乾はどうだ? わさびが効いたタイは絶品ぞ?」
「誘いはありがたいが、こっちはこれから事後処理だ。今度にするよ」
「ワルサー?」
ノンと短く返すワルサー大尉に、大道少尉はやや不満気味だった。
そして僕ら二人を残して全員が食堂から消えた。
「全く、昼飯も食わずに職務とは、難儀な連中よのう?」
「え? ええ」
慌ててざるそばに向かう僕。タロンとその前の錯乱した高校生との一戦などなかったかのような、大道少尉だった。
うーむ、やはり図太い方だ、僕は思った。




