奈々岡鈴
第五十章~大道少尉はマッスルポーズをするの巻
昼食を終えた僕らは露草氏の保健室に戻ることにした。
途中、先の騒ぎのあった広間を通ると、床に何ヵ所も血痕が残っていた。カッターナイフと侮{あなど}っていた、僕は内心で反省した。
群衆はもうまばらで、残った数名がスマホ片手に雑談している風だった。
と、学生らしきの一人が、
「写メいいですか?」
と聞いてきた。僕は、ええ、と返すが、違った。
「いや、そっちの大きい方」
桜桃{おうとう}学園の高等部の生徒らしい女子が言いつつ、スマホを構える。
「ん? 吾輩か? 写真の一つや二つ、構わんが? ポーズはこうか?」
言って大道少尉はマッスルポーズをする。
「いや、出来たらあのパンチを構えてる姿で」
「ほう、お主、我がカイザーナックルを見たのか。よかろう、ふんっ!」
大道少尉は大きな拳を二つ、顎の前に寄せて少し背を曲げ、しかし視線はスマホのレンズを睨んでいた。
「オッケーです! 撮りまーす!」
カシャッ、と小さな音がした。
「では吾輩らは行くと――」
「あの! この写真、友達に配ってもいいですか?」
「ああ、良い――」
ちょっと! と今度は僕が制する。
「ネットとかに上げるのは駄目ですからね? タロ……怪物の動画もですよ?」
例えネットで拡散されても、鳳蘭子{おおとり・らんこ}氏らの情報操作で上手く隠蔽される仕組みになっているのだが、いちおう僕は言った。
「吾輩が世間に注目され、大道探偵事務所が繁盛するというチャンスを、少年はみすみす見逃せと?」
「事務所の評判はいいですけど、タロンは口外禁止でしょうに。蘭子さんの仕事を増やさないで下さいよ」
ふむ、と大道少尉は鼻を鳴らす。
「我がカイザーナックルの無敵ぶりを広める機会はないか、仕方ないのう。女子よ? 少年の言う通りだ」
この女子高生、奈々岡鈴{ななおか・すず}と言う彼女が、実は桜桃新聞を作る報道部の人間だというのは、随分と後になって聞くことになるのだが、今は単なる女子高生その一。
僕はあまり警戒していなかったのだった、恥ずかしながら。




