吾輩の勇姿
第四十七章~理事長の天海真実の巻
刃物を振り回していた高校生が気絶し、異形が消え去ったことで群衆、生徒たちは若干収まり……はしなかった。
負傷した生徒、男女問わずは痛がっているし、かなり深くさされた守衛二人の呻{うめ}き、収まれと言う方が無茶である。
「どうしたの! 一体なにがあったの!」
半ば悲鳴のような声は、理事長の天海真実{あまみ・まなみ}氏だった。
「応急処置は順番にしとるから、後は救急車待ちやで」
口調はのんびりと、しかし手さばきは素早く、露草氏が言った。傷口を消毒してガーゼをテープで固定して止血、を手際よくやっていた。
説明は大道少尉からだった。
「天海は覚えておらんかもしれぬが、タロンが現れたのだ。そこで伸びている高校生に憑いてな」
「佐久間くんじゃないの! どうして彼が?」
フルネームは後で聞いたのだが、彼は佐久間準{さくま・じゅん}と言うらしい。天海氏曰く、スポーツ万能、容姿端麗、成績優秀と言う高校生の鏡のような生徒なのだとか。
「タロンはのう、心の隙間に入り込む。この高校生にそれがあったというだけであろう」
「そんな、佐久間くんに限って……」
「せやからな真実{まなみ}、少尉も言うとるやろ? 隙間があったんやわ、知らんけど。まあ人間、うわべだけやと解らん言うことや」
それよりも先に負傷者を、と僕が言うと、天海氏はおろおろしつつ頷いた。そこで丁度、救急車のサイレンが聞こえた。
「あそこの守衛二人、奴らが一番深手らしいから、優先させるが良い。さて、少年」
僕にまだ仕事があるのかと思ったら、違った。
「吾輩は空腹ぞ。食堂へ行くぞ。怪我の治療は露草と救急隊員に任せるが故、急ぐとしよう」
何というか、図太いのか無神経なのか、頼れるのかどうだか分からない人であるが、佐久間準なる少年を救って、タロンを駆逐したのは事実である。
と、大道少尉はぽんと手を叩き、天海氏に提案した。
「吾輩、なかなかに活躍したと自負するが故、食堂は天海、お前のおごりというのはどうだ? 悪くない取引だと思うが?」
「え? ええ、それは全然いいのだけれど、タロン? 何が起きたのかまだサッパリで……」
「そこらの生徒のスマホでも覗けば、吾輩の勇姿が記録されておろう。では行くぞ、少年」
一部の生徒からの歓声を受けつつ、僕と大道少尉は食堂へと向かった。
これでいいのだろうか、とか思いつつ。




