地獄語
第四十六章~真・ダブル・カイザーナックルの巻
男子高校生、改め、タロンは未だ高校生の体内に潜んでいる。
しかし身体能力は人間のそれを遥かに超えており、一瞬で大道少尉との間合いを詰めてきた。
「ちぃっ! 露草の教え子を手荒にはしたくないのであるが、ちと我慢せよ」
どっ! と鈍い音は大道少尉の左ボディブローが高校生を捉える音。足元が浮くほどのそれだったが、高校生はニヤリと笑って、意味不明な言葉を発していた。
「地獄語でぎゃあぎゃあとやかましいわ!」
今度は高校生からの、高校生らしからぬパンチが飛ぶ。が、大道少尉はそれをアッパーで弾いた。
大道少尉の奮戦に周囲から歓声が上がる。しかしである。基本的にタロン関連は極秘なのだ。といってももはや手遅れなのだが。
いちおう「撮影とかは止めて下さい!」と僕は言うが、当然聞く者などいない。
「良いではないか、少年。吾輩の事務所の宣伝にもなる……ふんっ!」
再びのパンチ、かなり鋭いそれを肘で受けつつ、大道少尉は言う。
「では、タロンよ。そろそろ本気を出させてもらおうかの?」
言うと大道少尉は昨晩見せたあの純銀のメリケンサックを装着した。今回は両手に。
ギャァ! と聞き取れない声を発する高校生が再び迫ったところに――
「真! ダブル! カイザァァァァ……」
ぐっと拳を胸元で溜めてから、
「ナックルゥゥゥゥ!」
物凄い速度の拳が二つ、大道少尉から出た。そして高校生は三メートルほど吹き飛んだ。
「そら、出てこい、タロンよ」
言った直後、昨晩見たのと同じ姿のタロンが高校生から剥がれるように現れる。
背翼、鉤爪、鋭い牙、肌は土色で目はない、一見すると裸のようなそれを見た群衆から悲鳴が上がる。
「ギャラリーサービスと行きたいところだが、吾輩はまだ昼食前故、早々に終わらせてもらおうぞ」
背翼を羽ばたかせて猛速度で迫るタロンに対し、大道少尉は拳を構える。
「行くぞ! 真! ダブル! カァァイザァァァ! ナッコゥゥ!」
どどん! 二つ、鈍い音がするとタロンはリノリウム床に転げ、地獄語? とやらで呻{うめ}いていた。
そこに大道少尉が駆ける。
「とどめのぉ! 一撃ぃぃぃ!」
転がるタロンにまたがり、振り上げた右拳を突き刺す。
ばん! と弾ける音がして、タロンの頭部は四散した。
「ふん。これぞ吾輩の無敵の真・カイザーナックルである」
一瞬の沈黙の後、周囲から歓声が上がった。
僕も止めていた息をふぅと吐いた。




