カッターナイフ
第四十五章~男子高校生らしきがの巻
お昼を知らせるチャイムが鳴る。スマホを見るまでもなく十二時らしかった。
「うちはお弁当やから、二人は食堂行くとええで。お金、まだあるんやろ?」
「む、待て……。ふむ、どうにかあるな。少年?」
僕は、ええ、とだけ返し、露草氏に一礼して保健室を出た。ミサキ氏は目覚め次第合流するだろうから大道少尉と二人だけで。
「さて、天海{あまみ}自慢の食堂とやらは吾輩の舌を唸らせるものなのか――」
そこで悲鳴が聞こえて大道少尉の科白は遮られた。女子高生のものらしい悲鳴だったのだが、続けて別の悲鳴も重なる。
「少年!」
「はい!」
僕は駆け足で悲鳴のした方向へ向かう。大道少尉はゆっくりと、しかし確実に後をついて来る。
廊下を曲がった、少し開けた場所に群衆が出来ており、その中心には……。
「カッターナイフ?」
男子高校生らしきがカッターナイフを振り回しており、既に数人が負傷していた。
男子高校生の目は正気ではないように見え、何事かを叫びながらカッターナイフを振り下ろしている。
「とにかく離れて!」と僕は群衆に叫ぶ。
その直後に守衛が二人やってきた。のだが――
「さ、刺された?」
たかがカッターナイフだと侮{あなど}っていた。守衛二人はかなり深く刺されたようで、その場に倒れこんだ。
そして、その刃が女子高生の一人に向かった瞬間である。
「カァイザァァ!」
どん! と鈍い音がして男子高校生の腕は弾け、カッターナイフも手元から離れた。
「……ナックル!」
大道少尉であった。僕はほっと安堵の溜息を吐いた。
「無事、ではなさそうだが、無敵私立探偵の吾輩が来たからには、貴様はもうお終いである!」
大きな拳を二つ、胸元に構え、大道少尉は言った。
「少尉!」
「言葉は不要ぞ、少年よ。見よ、こやつ、タロンだ」
……え? 僕は驚いた。鳳蘭子{おおとり・らんこ}氏からのアラートは来ていないのに、と思ったらスマホに着信。
『君? 美咲か少尉は一緒? タロンアラートが――』
「遅いぞ鳳!」
大道少尉がスピーカーモードのスマホに向けて一喝する。
「負傷者が既に出ておる! 乾{いぬい}とワルサーも待機させておけ! それと救急車の手配だ! タロンは吾輩が仕留める! 急げよ!」
普段は「あんな」なのに、この人は本気で頼れるな、僕は心底感心した。




