オーバードース
第四十三章~スクールカウンセラーの仕事の巻
僕のイメージだと露草葵{つゆくさ・あおい}氏は寡黙な美人だったのだが、意外や意外、お喋りであった。
きっと自由に煙草が吸える環境だからかもしれないし、スクールカウンセラーという仕事柄なのかもしれないが、ともかく話上手だった。
「――せやからな、精神依存がないんなら導入剤は中毒とかにならへんのやで?」
相手は大道少尉だった。
「しかし! 露草よ。吾輩はこのアホの鳩羽が五十錠を超える薬を飲んでいる姿を目にしたことがあるぞ!」
「そんくらいでは胃が痛むくらいでなんもないって。オーバードースやろ? うつ病とかの患者がたまにやっとるけど、あんなん無意味やし」
オーバードース? 僕はスマホでその単語を検索してみた。
『オーバードースは、身体あるいは精神にとって、急性の有害な作用が生じるような量によって薬物が使用されることである。それによって一時的、あるいは永続的な影響があり、最悪は死亡することがある。略称は、ODで、服用量のdoseと、過剰・超過を意味するoverの複合語である……』
なんだか難しい解説が並んでいるな、とミサキ氏から合いの手が入る。
「薬の過剰摂取のことだよ。ネットとか見なくても目の前に専門家の葵ちゃんがいるんだから聞けよ。それ、逆に分かり辛いだろう?」
「まあ、あくまでうちの見解やけど、二百錠くらいならオーバードースで、五十錠やったらラムネ食うとるんと変わりないわ」
だから大道少尉の意見は的外れだ、と暗に言っているようだった。
「まあ、お医者さんの言う通りにせんでぎょうさん服用するようなアホは、端から医者にかかるな、言うんがうちの意見やな」
ふっ、と煙を吹いて露草氏は続ける。
「リストカットとかの自傷行為と同じやわ。本気で死にたいんやったら動脈を縦に切れっちゅう話な? せやない輩のやることは単なる自傷で、正直うちには理解できひんわ」
「生徒さんにはいないんですか? その、リストカットとか」
「おるで」
軽く返されて僕はやや驚いた。
「傷口消毒してガーゼ当てて、もうするなや、言うて終わりや。また来るんやけどな」
「葵ちゃん、それってスクールカウンセラーの仕事してねーんじゃね?」
「めんどくさいやん? 親か担任、友達にまず話して、駄目やったらうちの出番や。それができひんのやったら根本的に向いてないんや、学生っちゅうもんにな」
やはり、僕は思った。
この人は見た目通り、クールに過ぎるな、と。




