スクールカウンセラー
第四十二章~喫煙者にそないなこと言うても意味ないての巻
大きな山をえぐるように開発された私立桜桃{おうとう}学園。中高一貫で近辺では随一の進学校でもあった。
設立されてまだ十年ちょっとなので外観は綺麗だったが、途中の坂道はきつかった。
なにせ三人乗っていて、後ろには大道少尉のカブを搭載しているのだから。アクセルベタ踏みでも時速四十キロといったところだった。
どうにか桜桃学園の敷地内に到着した僕らは、まずサンバーバンを駐車場に止め、守衛室へと向かった。
「ああ、こんにちは。露草先生から伺っております。そちらからどうぞ」
守衛さんが丁寧に対応してくれて、ビニールスリッパまで出してくれた。この辺り、露草氏は抜かりないな、とか思ったり。
丁度授業中なのか、廊下は閑散としていた。僕ら三人は「保健室」と書かれた部屋に辿り着き、ノックする。
「はいな。空いてるでー」
あの関西弁が聞こえてきたので僕、ミサキ氏、大道少尉の順に保健室に入る。と、部屋は靄{もや}がかかっている風だった。
白衣にメタルフレームの露草葵{つゆくさ・あおい}氏の口には、当然というように煙草が咥えられている。靄ではなく煙草の煙らしい。
「まあ、座りぃや。そこのベッド、空いてるで?」
言いつつ露草氏は窓を少し開けて換気する。
「僕は煙草吸わんかったな? ちょこっと空気入れ替えるから我慢してぇや」
「お構いなく……げふっ!」
思わず咳が出てしまった。見ると露草氏の事務机の上の灰皿は、山盛りになっていた。
「露草よ。喫煙は肺気腫やら慢性閉塞性肺疾患、呼吸困難となる危険性があるぞ?」
「せやからな? 喫煙者にそないなこと言うても意味ないて、昨日言わんかったか?」
露草氏の後をミサキ氏が継ぐ。
「カフェイン中毒のてめーが言っても説得力ないっつーの」
「ふおっ! 吾輩は中毒ではなく、たしなむ程度である。アホの鳩羽よ。貴様こそ睡眠薬の中毒者ではないか」
大道少尉が切り返す。が、
「だれが中毒か。きちんと医者から処方されてる分をきちんと飲んでるだけだよ、バカ少尉。それと睡眠薬じゃなくて睡眠導入剤な?」
「なんや。美咲はまだ薬ないと寝られへんのかいな。難儀やなぁ」
換気を終えて早速口にした煙草に火を付けつつ、露草氏が言う。
「ああ。今日もまだ寝てないぜ、葵ちゃん。昨晩はアユムちゃんと遊んでて寝る暇なかったし」
「アユムちゃん? 誰やねん、それ」
あの! と僕は割って入る。ここで前村歩{まえむら・あゆむ}巡査部長の話題はさすがにNGだろう、そう思って。
「その……スクールカウンセラーって具体的にはどんなお仕事なんですか?」
「その名の通りやけど? 大雑把に言えば生徒のメンタルケアやな。若い子らはああ見えてナーバスやから、カウンセリングとか単なる話し相手とか、そういうんが必要やねん。受験生なんかは特になあ」
へえ、と僕は返す。
話を遮られたミサキ氏は若干不満そうだったが、黙って麦茶を飲んでおり、大道少尉も同じくだった。
僕が高校生だった頃はどうだったかな、思い出そうとするが上手くいかなかった。
きっと悩みなんてなかったのだろう。




