ナンパ
第二十章~アルマーニ男の巻
飲み始めて三十分ほどが経過していた。
ウィスキーをガブガブと飲んでいる天海{あまみ}氏はすっかり出来上がっており、ビールをぐびぐびと飲んでいた大道少尉もまた、ほろ酔い加減だった。
「ビールの旨さは泡にあると知れ! ここのビールはいつ飲んでも一級品であるな」
枝豆をつまみに大道少尉はジョッキを高らかと掲げる。
「ふふふ、少尉さんにさんせー! パピーに乾杯!」
グラスをあおる天海氏はかなりのハイペースだった。と、ミサキ氏がこぼす。
「いいよなあ、酒でテンション変わる人て。生まれついての下戸だからな、あたしは」
「うちはあんま変わらんけどなあ」
喫煙スペースから露草氏がやってきて、バドワイザーをぐいと飲んでいると、男が割って入ってきた。
「お嬢さん方、こんばんは。僕から一杯奢らせてください」
一見二枚目風、仕立ての良いアルマーニスーツを着込んだ、見知らぬ男だった。これは、ひょっとしてナンパという奴だろうか?
「あら、ご馳走してくれるって? 悪いわねえ。じゃあウィスキーお替り」
目がとろんとした天海氏がまず答えた。
「タダで飲めるなんて、あんた気前いいね。ノンアルカクテル追加ね、辻さん」
続いてミサキ氏。
「バドの一缶くらい自前で払えるんやけど、まあ折角やし、ご馳走になろうかいな」
喫煙スペースに行きたくてうずうずしている露草氏が最後に返した。
「それでは、みなさん。今宵の出会いに感謝を。乾杯」
……胡散臭い奴だ、キザったらしくもある。このアルマーニ男に僕はいい印象を持てなかった。
大道少尉も同意見らしく、枝豆の空を投げつけていた。この方、やることが露骨過ぎる。
「タダっていいよな、奢りって素敵な文化だよなあ」
只今絶賛金欠中のミサキ氏なので上機嫌だった。天海氏も同じくでこちらは完全に酔い。冷えたバド缶を受け取った露草氏は会釈して喫煙スペースに向かう。
どうやらアルマーニ男のナンパは成功なようで、僕と大道少尉は何とも難しい表情だった。




