怪物タロン
第十七章~正常世界の住人の巻
「それにしても美咲ったら、随分と大人しいのね、今日は」
運ばれてきたレタスピラフをぱくり、天海{あまみ}氏は言った。対するミサキ氏はというと……。
「あたし、エアコンばて中。なんかだるいよう」
「アホの鳩羽はだから修行が足らぬのだ。見よ、吾輩のこの食べっぷりを」
うーんと唸るミサキ氏に大道少尉が活を入れる。おごりだからと食べたい放題な大道少尉、説得力は、薄い。
「ああ、それ解るわよ。私も仕事中はカーディガン羽織ってるもの。あら、これ美味しい」
桜桃{おうとう}学園理事室には当然エアコンがあるだろうし、女性の冷え性という話も聞く。
しかしである。今年に限っては、いや、おそらく今後もだろうが真夏の恐ろしさは尋常ではない。四十度を超える熱中症アラートは、ある意味タロンよりも恐ろしいのである。
そういえばタロンだが、今の面子で唯一その存在を知らないのが天海氏だったりする。色んな意味で天海氏は正常世界の住人であり、地獄の使者、怪物タロンとは無縁なのだった。なのでミサキ氏がダリルとベッセル、二挺のリボルバーを扱うことも実は秘密にしている。あくまでミサキ氏は私立探偵であるのだ。
「美咲よう」
アイスコーヒー片手で露草氏が声を掛ける
「エアコンばてするなら、うちのライダースジャケット貸そか? 汗でべったりでよければ。体冷やすんはあんまり良うないで」
「うう、大丈夫。ありがと」
ミサキ氏は礼をしつつツマミでオーダーしたピーナッツを頬張った。




