凄腕私立探偵
第十五章~つまらない話ですよの巻
カフェオレを注文した天海{あまみ}氏がテーブルに掛けてニコニコと笑顔だったので「どうかしましたか?」と声を掛けてみた。
「それはもう、お招きに感謝よ? さっきまでパソコンの経理ソフトとにらめっこだったから、肩がバキバキでね。それで今日は何の集まりなのかしら? 少尉さんまでいるなんて、めずらしいじゃない」
露草氏とはまた違った理知的な女性の天海氏は、仕事の疲れを吐き出さん勢いで言うと、カフェオレをすすった。
「吾輩ら凄腕私立探偵が顔を合わせると言えば、そう! 難事件! この世に解けぬ謎などないのである」
「あちーから葵ちゃんにゴチになってたの」
見事に意見が割れる。
「難事件て? 私立探偵て素行調査とかでしょ? 実際にあるの? 事件なんて」
「あるとも、天海のお嬢よ」
「まあ、ある意味、難事件だわな。今回は」
天海氏に二人が返す。
「何よ? もったいぶった言い方ねえ。君、教えてくれるかな?」
唐突に振られたので思わずむせてしまった。ペプシを含み、僕は返した。
「死人が出るほどの猛暑だっていうのに、お二人の事務所にはエアコンがないんです。そういうつまらない話ですよ」
言い終わりペプシを飲み干すと、天海氏がカラカラと笑った。
「ふう、これは失礼しました。確かに今年は猛暑だって言うけど、エアコン付ければいいじゃないの」
「真実ちゃんはいいよな。気軽にそう言えてさ」
「このブルジョワめが! 貴様に吾輩らの苦労は解らんわ!」
大道少尉がヒートアップするのをミサキ氏がどうどう、と制する。
「何や折角集まってるんのに喧嘩すんなや? ここは談笑スペースやで? ほれ、少尉。旨いもんでも注文せえや」
露草氏がニコチンを補充するために立ち上がりつつ、言う。
「肩がバキバキになるくらい仕事なさい。賃金は労働の対価であって、自ら勝ち取るものよ。これ、父上の口癖ね?」
カフェオレを一口、天海氏は涼しい顔だった。




