桜桃学園理事
第十四章~天海真実の巻
「折角ビーンズにおるんやし、真実{まなみ}でも呼んでみるかな」
ビーンズとはこのカフェの名称で、真実とは露草氏の友人の天海真実{あまみ・まなみ}氏のことである。どうやら今日の露草氏は暇らしい。
「真実ちゃん? まだこれないんじゃないかな。彼女の学園て二十二時頃までだったような」
「天海のお嬢? ふん、桜桃{おうとう}学園理事などと大袈裟なあやつか」
僕は天海氏とはあまり面識がないのだが、若くして桜桃学園理事を務める清楚な方である。
「もしもーし、露草や。今からビーンズこおへんか? いや、お酒とちゃうわ。今な、美咲らとお茶しとんねん。それであんたもどないかな思うてや……ああ、ええよ。待っとるわ、ほな」
露草氏はスマホを置くと、コーヒーを一口すすり、溜息をついた。
「どうかしましたか?」
僕が尋ねると「ヤニ切れ」とだけ返して、露草氏はカフェ入口にある灰皿に掛けて行った。
「ペプシのお替りをしますけど、お二人はどうします?」
「なんかさあ、飲みすぎで水腹なんだけど。真実ちゃん来るまであたしはいいや」
「吾輩は貰うぞ。して、そろそろ夕刻、飯の準備でもせねばな」
ビーンズの店内は涼しくて快適だったが、ヘビースモーカーな露草氏にはやや居心地が悪いらしい。
洒落た内装の店内にレトロな家具と凝ったカフェである。
と、露草氏がもう一人を連れて戻ってきた。
「みなさんこんばんは、天海です。葵{あおい}からお酒が飲めるって聞いて駆けつけました。お久しぶりです」
「せやからそれはここちゃうて。うち、バイクやから飲まれへんし、運転手くんも可哀相やろが」
挨拶と共に早々と登場した天海氏は、にこにこと愛想を振りまいていた。




