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二話 魔王の娘

 魔王の部屋から飛び出た雪比は、行き先が決まっているかのように方向を定めて飛んでいた。

 衝動的に飛び出したように見せかけたのは魔王に反省をさせるようにだ。


「姫様ぁー!」

 後ろから急に近づいてくる声に追手かと思い、スピードを上げたが、声の主が姿を表すと顔をほころばせた。


「リューゴ! 背中貸してって!」

 魔王が作った国には三年間の義務教育期間がある。平民から貴族まで一つの学び舎に集まり、同じ同胞なのだという認識をつける。これにより種族間での差別はほとんどなくなったという。魔王の一番の功績とも言われることだ。


 もっと学びたいものは図書館に通ったり、義務教育後、別の学校に通ったりする。

 リューゴはその時の雪比の同級生だ。白銀の体を持つドラゴンの子供。魔王に忠誠を誓っている白竜一族の一人息子だ。家一軒ほどの大きさがあるが、それでもまだ子供である。



「龍王国の王都まで飛んでいって!」

 雪比は真っ白なリュー後の首に跨ると体の後ろに向かって生えている二本の真っ直ぐな角を掴んだ。


 魔王の治める魔王国と、龍王が治める龍王国の間には巨大な山脈がそびえ立っている。魔王と勇者の働きにより、道が作られて簡単に行き来できるようになったとは言え、そこを通るには高い金がかかる。雪比は、一人で山を越えていくつもりだった。


「不法入国……」

 そう言いながらもしっかりと翼をはためかせて飛んでいるのは学生時代にしつけられていたのが、よく効いているのだろう。


「大丈夫よ。私が行くことは連絡しているわ」

 普段から飛ぶことはない雪比と常に空を飛んで移動するリューゴとでは、速さももちろんだが、風邪を読み、風にのる技術が圧倒的に違う。


 天空を制する竜の背中に乗り、雪比は予定より遥かに早く龍王国王都外壁近くへと着いた。


「父ちゃんに死にたくなかったら王都には近づくなって言われたからここまでだけど……一体何しに行くの?」

 龍王国の王都は高い壁に囲まれており、出入りは厳重に管理されている。龍王国の王都は全ての物が時代を先行している。それを他国へと盗まれないような措置なのだ。

 王都は夜でも昼のように明るく、人々は魔導列車に乗り、広い王都を移動する。全ての流行が始まると言われている街で世界中のセレブが集まる場所だ。



「友達とお茶よ」

 なるほど、とリューゴは頷いた。

 魔王の娘だけあって雪比の顔は広い。王都内にいる友だちもいるだろう。



 リューゴは雪比と別れて、また魔王国へと戻るために飛び始めた。

 龍王国では龍は神聖視されている。しかし必ずしも安全というわけではないのだ。


「何か厄介ごとに巻き込まれないといいけどなぁ~」

 最近父親が何か不穏な空気を感じ取っていたのはリューゴも知っていた。だからだ。

 しかしリューゴはあの溺愛にも程がある魔王を思い出し、心配するのはやめた。

 何かあっても魔王が解決してくれるはずなのだ。


 リューゴは雪比を見つける前のように曲芸飛行をしながら魔王国へと戻っていった。

 魔王と四天王との壮絶な闘いに巻き込まれるとも知らず。




 雪比は王都付近の森へ着地し、王都を囲む壁へと歩いていった。飛んでいったら注目されるからだ。


 王都へと入る門には長蛇の列ができている。

 王都へと一財産を作りに来た商人。士官をしてもらおうとやってきた冒険者。

 もちろんしっかりとした身分証明書がなければ入れないし、身分証明書があっても紹介状がなかったら入れない場合もある。もちろん金は取られ、荷物は全て検査される。それでも入りたいと思うのが王都なのだろう。


 門の横には貴族用の馬車が通る道がある。

 雪比は列を無視して、そこへと近づいていった。いまだ若い門番が雪比を止めようと手を伸ばしかけたが、古くから務めている門番がその手を止めて静かに頭を下げる。若い門番もそれにならい慌てて頭を下げた。


 雪比は少し微笑んでそれに応え、門に手のひらをつける。

 後ろでは若い門番が叱られているのが、聞こえた。


 従者もいない子供を王族だと思うほうがおかしいと思うけど。あまり叱らないでほしい。と思ったが、ここで無駄な行動を起こすのは目立つだけだと知っていたので無言で合言葉を唱える。


『魔王の愛する娘』


 雪比はこの言葉の意味は知らない。しかしこれを言えば通されると知っていた。この言葉はこの大陸ではどこにも使われていない。それどころかこの世界の言葉ではない言葉である。


 ゆっくりと巨大な門が開いていく。雪比は全てが開ききる前に間をすり抜けた。

 列を待っている人達の羨ましそうな視線を浴びながら雪比は王都の雑踏の中へと消えていった。

 


 門を警備しているものたちは門が閉まった途端に慌ただしく動き出した。

 列の進むスピードは更に遅くなり、並ぶ人々を苛立たせた。




 雪比は暇を持て余していた。

 予定時刻よりずいぶん早めに着いてしまったのだ。


 洋服もアクセサリーも魔王が無駄に買ってきたのがたくさんある。それに装飾品や服は魔王国製のものが多い。わざわざ王都で買う必要はないのだ。魔王城でも手にはいらないものと言ったら、露店などで売っている簡単な軽食だが、今から友達とお菓子を食べに行くので、その選択もない。


「王都に一人でいるってもしかして初めてかも」

 友達と待ち合わせしたり、父親と行ったりしたことは何度もあるものの、こんな風に一人で、というのは経験したことがなかった。一人で時間を潰せるところなどもちろん知らない。



「可愛いお嬢さん。良かったら僕と一緒にお茶でもいかがですか?」

 その声に一瞬驚いたものの、すぐにある人を思い出し、微笑みを作る。


「ごめんなさい。これから友達とお茶会なんです。お茶以外ならお付き合いしますけど」

 雪比が後ろを振り向くとそこには顔の下半分を鉄製の仮面で覆った女性がいた。長い金髪は後頭部で縛られていて、体型を隠すような無骨な金色の鎧を着ている。女騎士といった風貌だ。


 雪比は思っていた姿と違うのに驚いたが、あることを思い出し納得した。

 冒険者ギルドのギルドマスターは個にして全。

 何人ものギルドマスターがいるが、それは全て一人なのだと。



「他の女の子と一緒ならともかく、雪比ちゃんと二人きりの時に男なのはあの馬鹿に殺されるからね」

 さらっと魔王のことを馬鹿呼ばわりしたが雪比も気にした様子はない。


「いつもうちの父に気を使ってすみません」

 ギルドマスターは苦笑していた。あの父親から生まれた子供とは思えない。魔王とその娘を知っているものは皆思うことだ。


 龍王国には魔物に特化した機関がある。冒険者ギルドだ。魔物の頭数をコントロールしており、密猟や絶滅危惧種の乱獲を防ぐのが主な仕事だ。

 その頂点に存在するギルドマスターは国王や、勇者にも匹敵する権力を持っているという。


「こういう接待が僕の仕事だからね。それに魔王が君を大切に思い、溺愛するのもよくわかるよ。君は君のお母さんにそっくりだからね」

 雪比はその言葉に目を見開く。


「母上を知っているんですか?!」

 雪比は母親を知らない。歴史の中にでも魔王の初めての家臣と言われているだけだ。一体母親がどんな人なのか。雪比が生まれた時に母親は死んだと言われた。

 雪比は母親の種族もしらない。持っているのは体の形や硬さを自由に変える能力だけだ。そんな能力を持った魔物なんて聞いたこともないし、魔王も同じ能力を持っているから、魔王からの遺伝かもしれない。

 口止めされているのか。魔王城ではよく似ている、と言われることはあったものの、詳しく話してくれる人はいなかった。


 しかしギルドマスターまで口止めはされていないだろう。雪比にとっては母親のことを知る貴重な機会だ。


「ありゃー、これは言わないほうがよかったかな」

「いえ! 教えてください!」

 雪比は体を一歩踏み込み、ギルドマスターへと迫った。

 ギルドマスターはそんな雪比を横目に少し考えていたようだが、まあいいかという風に首を振った。




「少し歩きながら話そうか。ここに立っていても邪魔だしね」

 そう前置いてから、ギルドマスターは昔を思い出すように話し始めた。


「君のお母さんを一言で言うと……そうだな。無愛想っていう言葉は一番似合っていたかな。

 透き通るような青色の髪、眠たげな柔らかい瞳、背は小さくて、いつもふわふわした服を着てたな。洋服と目の色、髪の色以外は本当に雪比ちゃんにそっくりだ。あったら双子みたいに思えただろうね。

 僕が魔王と君のお母さんが付き合い始めたって聞いた時は正気かと思ったな。だって全く種族も違うし。その頃は異種族間で結婚するなんて相当な変態以外はありえなかったからね。君のお父さんは相当な変態だったってことだ」


 雪比が生まれた時には異種族での結婚は普通にあることだった。一体どれほど昔のことなのか。

 そして魔王が変態だったということを聞いてやはり、という気分になった。変人だから変態なのだ。


「周りは微妙な反応だったね。だって付き合い始めてもイチャイチャするわけでもないし、話す言葉は増えたわけでもない。表情が豊かになることもない。

 魔王が無理やり関係を築いたんだとか言う人もいたね。僕もそれを行っている一人だったけど」

 雪比が抗議の声を上げようとしているのを仕草で黙らせ、ギルドマスターは話を続けた。


「僕がそれを撤回したのは魔王が死んだ時だよ。

 死んだ時のことは俺が話すことではないから言わないでおくけれども。


 見ていたのは僕と勇者だけかな。

 他の魔王の家臣達は自殺しようとしたり、それを止めようとしたり勇者に襲いかかろうとしたり、色々殺伐としていたからね。八人中二人しか生き残れなかった過酷な戦いだったからね。


 その中で驚いたのがさ。

 今まで感情の一つも見せなかった彼女が泣いていたんだよ。

 ボロボロの魔王の死骸にすがりついてさ。

 息をする必要も、食事をする必要もない。生理現象が一切ない彼女がしゃっくりまで上げてさ。

 生命の神秘を感じたよ。元から徐々に人間に近づいていっているのはわかっていたけどね。僕としては魔王は愛されていたんだなっていうので羨ましかったよ」


 雪比は色々と突っ込みたいところを我慢して話を聞いていた。

 死んだら、死ぬ。それはどの種族でも一緒だ。アンデッドとなって生き返ることはあっても、死者蘇生の術は存在しないと言われている。


「その事件の後は無口なのは変わらなかったけど、表情は少し変化が出るようになったな。

 僕が何を言っても無表情で無視なのに、魔王の一言で嬉しそうに笑うんだよ。

 手榴弾を投げ込みたくなるような円満なカップルだったね。手榴弾のサンプルが欲しければいつでも連絡してね。魔王国なら売りに出す許可も出るだろうし。

 話がそれたね。

 そしてラブラブな時期の後、君が生まれた。雪比ちゃんだよ。あの時の魔王は本当に馬鹿みたいだったな。今でも馬鹿だけど。


 そして魔王は子供ができる代償を知らなかったのさ。

 君のお母さんが死にかけた時は雪比ちゃん。君の生命にも平気で手をかけようとしてたよ。あの時ほど焦っていた魔王は見たことないね。いつも余裕そうな顔してるからさ。

 君のお母さんの涙ながらの懇願で君の生命は救われたわけだけど、君のお母さんは二度と目覚めなくなってしまった。いやー、あの時の落ち込みようはこっちまで気が滅入ったよ。

 結局四天王が君を手に持って、一日中説教してたら元に戻ったんだけどさ」


 雪比は最後の部分で立ち止まっていた。

 お母さんは二度と目覚めなくなった?


「あれ? 言っちゃいけないことが混じってたかな……」

 ギルドマスターは眉間にしわを寄せて考え始めた。


「母上は、死んでいないのですか?!」

「死んでないけど……その辺は魔王本人に聞いてくれ。僕は少し話しすぎたみたいだ」

 二人はしばらく無言で道を歩いていた。


 母上は死んでいない。

 そのことを知った雪比は今直ぐ魔王国へと飛んで帰りたかった。しかし約束がある。


 雪比は頭を切り替えて、興味を心の隅へと追いやった。


「ギルドマスター、ありがとうございました」

「余計なおせっかいじゃなければよかったんだけどな……」

 ギルドマスターは雪比の知らない父親を知っている。それを聞けただけで雪比は王都に来た意味があると思った。

 雪比が知っている魔王は、野菜を育てたり、絵を描いたり、遊んでいる姿だけだ。

 他の人から魔王様は偉大なんだと言われてもいまいち理解できなかった。


 しかし今こうして話を聞くと、まるで別人のようにも思える。


 私が知っているのは、魔王が勇者と戦って負け、勇者の協力者となったということだけだ。

 多くの人は相打ちになって、お互いを認め合ったと信じているが、実際は負けたそうだ。しかも何度も。

 そのことを話す時、お父さんは苦虫を噛み潰したような顔をしていて、そんな父親を叱ったものだ。

 しかし何で戦っていたのか。どうやって戦っていたのか。そして魔王になる前は一体何だったのか。それは何も知らない。


「魔王のことを知りたいなら、神殺しの英雄の代から生きている者に聞くといいよ。しかし一番詳しく聞けて、後腐れもないのはやっぱり君のお父さんに聞くことだと思うけどね」

 ギルドマスターは頬をポリポリとかきながら宙を見つめている。本当にやらかしてしまったと思っているのだろう。


「私、お父さんのことを全然知りませんでした。今日帰ったら聞いてみたいと思います」

「うんうん、それがいい。おっと、もう時間じゃないのかい?」


 ギルドマスターに言われて懐中時計を見ると約束の時刻までもう少しだった。

 ギルドマスターに得られない情報はない。


「あ、ありがとうございました」

「暇つぶしの場所はまた今度ね。待ち合わせの場所まで送ってあげるよ」


 ギルドマスターは知っていて当たり前という風に待ち合わせ場所まで案内してくれた。


「ではではお嬢様方。この街で何か問題がありましたら、このゴールドをお呼びください」

 そう言ってギルドマスターは雑踏の中へ消えていった。



「今まで会ったことがない方ね。一緒にお食事ができたりしないのかしら」

 腰まで伸ばされた銀色の髪とぱっちりとした灰色の目。そして豊満な身体。

 そんなプロポーションが良い彼女の中でも最も目立つのがその髪から少し出る尖った耳だろう。

 彼女の名前はリリィ。エルフの国『クティリリアン』の次期女王候補の一人だ。

 雪比はこの人と待ち合わせしてたのだ。


「雪比ちゃんも大きくなったわね」

「お久しぶりです!」


 雪比とリリィは幼いころ、父親同士が会っている時に出会った。その頃から雪比はリリィのことを姉として慕っている。こうして時折会っては一緒に新作のスイーツを食べたりしているのだ。

 最近では次期女王としての苛烈な争いが始まり、会う機会が少なくなっていた。龍王国に来る用事があるというので会いに来たのだ。


「じゃあ、行きましょうか。楽しみね」

「はい!」

 二人は数多くあるスイーツ店でも貴族御用達の超高級スイーツ店の新作スイーツを食べに来ていたのだ。


 お互いに愚痴や相談ごとを話しながらケーキと紅茶を楽しむ。


「雪比ちゃん、何か気になっていることあるでしょ」

 リリィはケーキを食べ終え、微笑みながら雪比にそう問いかけた。


「あ……何でわかったんですか」

 雪比には思い当たる大きなことがあった。

 父親と母親に関してのことだ。


「何か少し上の空だなーって」

「すみません」

 いいのよ、とリリィは微笑んだが、雪比はひたすら恐縮していた。

 自分のためにわざわざ時間を取ってくれたのによく話を聞いていなかったなんて失礼にもほどがある。


「実はさきほどギルドマスターに昔のことを聞いたんです。全然私、お父さんのこと知らなくて」

 雪比は紅茶を飲み干して息を吐いた。


「私もお父様とお母様に昔のことを聞いたことがあるわ。でも話の途中で昔を思い出して、いちゃつき始めたから……全然聞けてないわね。お父様達が初心を思い出して、甘い夜を過ごしただけだったわ」

 雪比は甘い夜とは一体なんだろうと考え、そして意味がわかり赤面した。そんな雪比を見てリリィは面白そうに尋ねた。


「雪比ちゃんは……好きな人とかいる?」

「へ? 好きな人ですか?」

 思いもよらない質問をかけられて雪比はあたふたした。

 頭のなかにぼんやりとウェディングドレスを着ている自分が思い浮かぶ。しかし横に立つ人は想像できない。

 その想像を頭を振って打ち消した雪比きっぱりと答えた。


「いません!」

 それ以上考えていると誰かがその場所に立ってしまいそうだったからである。

「何か考えているようだったけど、誰か気になる人でもいるの?」

 気になる人……。


 小さい頃はお父さんが好きだった。しかしそれは恋愛感情とはもちろん違う。

 学校に入ると色々な男子が集まってきた。だけどその人達のほとんどは私ではなくて、姫という地位を見ていた。本当に友達と言えたのも馬鹿な竜と脳筋な鬼だけだった。

 城でも男の人は皆私を避けている。普通に接してくれるのは四天王の一人だけだ。不用意に近づいたらお父さんの雷が落ちるし。


「お父さんがことごとく出会いをなくしているんですよ……」

 そうは言っても雪比自身も恋はしたことがない。恋より勉強の日々を送っていたし、姫という立場がそれをさせなかった。それにいまいち男子に興味が湧かないのも確かだ。


 父親のことを思い出したのか肩を落とす雪比を見て、本当に何もないみたいだと、少し残念に思うリリィ。

 しかし他の人間の国のように政略結婚に使われない分、幸せだと思う。


「きっとお父さんも認めてくれる、良い人が来るわよ」

 口ではそう言いながらも、リリィは内心、認めさせることができるのは勇者並みの戦闘能力を持った人でないと無理なのではと思っていた。


「そうだったらいいんですけどね……」

 娘の恋人に関することで魔王が暴れて内戦状態になっているのもつゆ知らず。二人は楽しくおしゃべりをしていた。



「わざわざ私のために時間を取ってくれてありがとうございました」

 日が暮れて、街頭が灯りだした頃。二人は店を出ていた。


「いいのよ。私も雪比ちゃんとお話するのが楽しみだったそ」

 リリィは微笑みながら雪比の頭を撫でる。

 雪比は照れくさそうに笑った。


「帰りは大丈夫?」

「はい。飛んで帰りますから」

 雪比は自慢気に背中から透明な翼を出した。


「気をつけて帰ってね」

「はい! リリィさんもお気をつけて」

 雪比は道を踏みしめたかと思うと勢いをつけて垂直に飛んでいった。



 リリィはしばらく雪比が消えた方向の空を見上げていたが、横に現れた人に気がつくと微笑んだ。


「私と雪比ちゃんがお話してる映像。きちんと撮れていたかしら?」

「完璧でございます。次期魔王との交友関係を見せつければリリィ様が女王となるのは確実でしょう」

 黒い影は跪いてしれに答える。


「雪比ちゃんももう少し大人になった方がいいと思うわ。それとも私達みたいに争いがないせいかしら」

 リリィは口ではこう言ったものの、雪比には純粋でいてほしいと思っていた。

 愚直とも言えるあの姿勢は王家の人間としてはありえない。しかしそんな彼女だからこそ、リリィは気に入っているのだ。


「念には念を入れないとね。勇者様と謁見する時間はいつだったかしら?」

「今から王城に向かい、お召し物をお着替えになった後、夕食に招かれています。協力していただけるにしても、夕食に招かれたというのは大きな牽制になるかと」

 リリィは懐中時計で時間を確認して王城へと歩き始めた。

 そしてその周りには雪比がいた時には見えなかった黒色の陰が現れ始める。


 次期女王の座を狙うリリィは決定打のために歩く。

 その微笑みを崩さずに。



 リリィが次期女王としてクティリリアンの頂点に立つのもそう遠くない日である。

 次回予告

 魔王の娘は城へと帰る。

 しかしそこには予想だにしない光景が広がっていたのであった。

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